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23.観劇デート
婚約披露宴が終わると、また王太子妃教育に集中する日々が戻ってきた。一度目よりも頻繁に顔を合わせ、態度を軟化させている殿下に、違和感を感じつつも流石に慣れてきていた。
今日は殿下からお誘いがあり、観劇に向かうことになっている。殿下の到着の連絡を受けて玄関ホールへと向かうと、正装で身を固めた殿下の姿が目に入った。本日の殿下の装いは、装飾を控えたシックな黒の燕尾服で、余計な装飾がないからこそ殿下の整った顔立ちを際立たせていた。
「お待たせいたしました」
殿下の前で腰を折ると、殿下は薄く微笑みを浮かべた。
「そのドレスを着てくれたんだね」
私が今着ているドレスは殿下に贈られたもので、殿下の瞳の色に似た青の生地に白銀の花の刺繍が入ったものだった。
「思った通り、よく似合っている」
「素敵なドレスをありがとうございます」
御礼を言う私に殿下は満足げに頷いた。
「行こうか」
殿下にエスコートされて馬車に乗り、劇場へと向かう。
「今日の演目は『時戻りの王子』だったな」
「はい。そう伺っています。殿下もあの物語をお読みになっているのですか?」
殿下と物語の取り合わせが意外で尋ねると、殿下は首を振った。
「いや、私は読んだことがない。ジュリアが興味を持っていたと聞いたから手配させた」
「……そうだったのですね」
殿下の意外な回答に、驚きを隠しつつ相づちを打つと、殿下は愉しげに目を細めた。
「私は着飾ったジュリアを眺めているだけで満足だから、ジュリアは存分に楽しむと良い」
隣に座る殿下に何と答えるべきか言葉を探している間に、馬車は王都で一番格式が高い劇場へと到着した。
馬車を下りると劇場の支配人自らの案内で、王家のために設けられている席へと通された。
「それでは、どうぞお楽しみください」
支配人が退室して間もなく、幕が上がった。
最初は隣に座る殿下のことが気になっていたものの、いつの間にか舞台に引き込まれ、気がつくと休憩の時間となっていた。
「楽しんでいるようだね」
「はい。続きが気になって」
今回の舞台は、基本は『時戻りの王子』を元にしているが、アレンジが加えてある。時を遡った王子が魔物を倒しに行っている間に、王子の婚約者は彼女を狙う公爵家令息に口説かれるところまでは同じだ。けれど、公爵家令息のアプローチになびくことなく一心に婚約者の王子の無事を願う彼女に腹を立てた公爵家令息は惚れ薬を盛り、彼女の心を奪おうとする。
そこで休憩が入ってしまい、この舞台上の物語がどう決着をつけるのか気になって仕方がない。
「殿下も楽しまれていますか?」
「そうだね。思った以上に脚本もよく出来ているし、舞台演出は参考になる」
私は純粋に舞台を楽しんでいただけだが、殿下は私が全く意識していなかった部分を見て楽しまれていたようだ。
「ジュリアのおかげだよ」
「私のですか?」
「時間を遡るなんて、荒唐無稽な話だと思っていたからね。ジュリアが興味を持たなければ、この舞台を見に来ることは無かった」
殿下の口ぶりに、私は気になっていたことを尋ねる。
「魔術に詳しくないのですが、もしかして時空魔術は存在しないのですか?」
「いや、存在はしている。魔術理論は構築されているはずだ。だが、莫大な魔力に加えて代償が大きいうえ、確かめる術がない」
「確かめる術……?」
「そう。例えその魔術師が時間を巻き戻ったとして、どうやったら時間を遡って来たことを証明することが出来ると思う?」
「あ……」
そこまで言われて、得心がいく。
「そこまで思い浮かびませんでした。殿下は魔術にも精通しておられるのですね」
「一時期、ジャンルにこだわらずに王宮の書物を読み漁った時期があるんだよ」
「王宮の図書館の本を全部ですか?」
「ん? ああ。貴族にも解放している図書館じゃない。王族とその許可を得た者しか入ることが出来ない閉架があるんだ。あの図書館の三分の一位の大きさかな」
それでもかなりの量であることは間違いないだろう。
「……すごいですね」
それしか言えずに殿下を見ると、殿下は上機嫌に頷いた。
「知っておくべきことも多かったからね。ジュリアも興味がある?」
「……はい」
「なら、今度案内しよう」
「楽しみにしています」
話している間に休憩時間が過ぎ、後半の幕が上がった。
今日は殿下からお誘いがあり、観劇に向かうことになっている。殿下の到着の連絡を受けて玄関ホールへと向かうと、正装で身を固めた殿下の姿が目に入った。本日の殿下の装いは、装飾を控えたシックな黒の燕尾服で、余計な装飾がないからこそ殿下の整った顔立ちを際立たせていた。
「お待たせいたしました」
殿下の前で腰を折ると、殿下は薄く微笑みを浮かべた。
「そのドレスを着てくれたんだね」
私が今着ているドレスは殿下に贈られたもので、殿下の瞳の色に似た青の生地に白銀の花の刺繍が入ったものだった。
「思った通り、よく似合っている」
「素敵なドレスをありがとうございます」
御礼を言う私に殿下は満足げに頷いた。
「行こうか」
殿下にエスコートされて馬車に乗り、劇場へと向かう。
「今日の演目は『時戻りの王子』だったな」
「はい。そう伺っています。殿下もあの物語をお読みになっているのですか?」
殿下と物語の取り合わせが意外で尋ねると、殿下は首を振った。
「いや、私は読んだことがない。ジュリアが興味を持っていたと聞いたから手配させた」
「……そうだったのですね」
殿下の意外な回答に、驚きを隠しつつ相づちを打つと、殿下は愉しげに目を細めた。
「私は着飾ったジュリアを眺めているだけで満足だから、ジュリアは存分に楽しむと良い」
隣に座る殿下に何と答えるべきか言葉を探している間に、馬車は王都で一番格式が高い劇場へと到着した。
馬車を下りると劇場の支配人自らの案内で、王家のために設けられている席へと通された。
「それでは、どうぞお楽しみください」
支配人が退室して間もなく、幕が上がった。
最初は隣に座る殿下のことが気になっていたものの、いつの間にか舞台に引き込まれ、気がつくと休憩の時間となっていた。
「楽しんでいるようだね」
「はい。続きが気になって」
今回の舞台は、基本は『時戻りの王子』を元にしているが、アレンジが加えてある。時を遡った王子が魔物を倒しに行っている間に、王子の婚約者は彼女を狙う公爵家令息に口説かれるところまでは同じだ。けれど、公爵家令息のアプローチになびくことなく一心に婚約者の王子の無事を願う彼女に腹を立てた公爵家令息は惚れ薬を盛り、彼女の心を奪おうとする。
そこで休憩が入ってしまい、この舞台上の物語がどう決着をつけるのか気になって仕方がない。
「殿下も楽しまれていますか?」
「そうだね。思った以上に脚本もよく出来ているし、舞台演出は参考になる」
私は純粋に舞台を楽しんでいただけだが、殿下は私が全く意識していなかった部分を見て楽しまれていたようだ。
「ジュリアのおかげだよ」
「私のですか?」
「時間を遡るなんて、荒唐無稽な話だと思っていたからね。ジュリアが興味を持たなければ、この舞台を見に来ることは無かった」
殿下の口ぶりに、私は気になっていたことを尋ねる。
「魔術に詳しくないのですが、もしかして時空魔術は存在しないのですか?」
「いや、存在はしている。魔術理論は構築されているはずだ。だが、莫大な魔力に加えて代償が大きいうえ、確かめる術がない」
「確かめる術……?」
「そう。例えその魔術師が時間を巻き戻ったとして、どうやったら時間を遡って来たことを証明することが出来ると思う?」
「あ……」
そこまで言われて、得心がいく。
「そこまで思い浮かびませんでした。殿下は魔術にも精通しておられるのですね」
「一時期、ジャンルにこだわらずに王宮の書物を読み漁った時期があるんだよ」
「王宮の図書館の本を全部ですか?」
「ん? ああ。貴族にも解放している図書館じゃない。王族とその許可を得た者しか入ることが出来ない閉架があるんだ。あの図書館の三分の一位の大きさかな」
それでもかなりの量であることは間違いないだろう。
「……すごいですね」
それしか言えずに殿下を見ると、殿下は上機嫌に頷いた。
「知っておくべきことも多かったからね。ジュリアも興味がある?」
「……はい」
「なら、今度案内しよう」
「楽しみにしています」
話している間に休憩時間が過ぎ、後半の幕が上がった。
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