【完結】だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~

乙原ゆん

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27.術者の考察

「ジュリア、そろそろ出る時間のようだ」

 二階から降りてくる殿下に声をかけられ、持っていた本を傷めないように書棚に戻す。

「もうそんな時間なのですね。夢中になりすぎて時間を忘れておりました」

 出口の前で待ってくれている殿下の所に向かい、エスコートのために差し出された腕を取る。

「気に入ったのならよかった。また近いうちにここに来られるよう、手配しよう」
「嬉しいです」
「私も、ジュリアがここを気に入ってくれて嬉しいよ」

 機嫌良く微笑む殿下に、私も笑顔を作って頷いた。


 殿下と別れ、馬車に乗って屋敷へ帰る。
 馬車には屋敷から着いてきてくれている侍女も同席しているので、彼女から私が殿下と図書館の塔に行っている間の話を聞いている間に屋敷へと到着した。
 ケイトも部屋で待っていてくれたが、着替えを手伝ってもらった後は「疲れたから少し休みたい」とわがままを言って一人にしてもらった。
 そうして、鍵のかかる引き出しから一度目の記憶を書いたノートを取り出した。
 誰かがこの時間の巻き戻りを起こしたのなら、きっと何か変えたい過去があったはず。そこに私が含まれた理由はわからないけれど、もしかしたらその人は巻き戻り前とは違う行動を取っているかもと思ったのだ。
 推測でしかないが、他に何も手掛かりはなかった。あの本に書いてあったことが真実なら、巻き戻りを起こした魔術師は私と接触を取りたがるはずなのにそれもない。
 何か手掛かりがないかとノートを眺めながら、一度目との違いを振り返っていく。
 まずは、お父様。一度目よりも評判が良い私に、今は優しい。でも、時間を遡って助けてくれるほど愛されているとは、流石に思えない。
 次に、お継母様。今のところお継母様とは一度目よりも良い関係を作れている気がする。でも、何かあればまた以前のような関係に戻りそうでもある。
 エリクさんとは一度目より遥に親しくなれたけれど、確かエリクさんにはそこまで強い魔力はなかったはずだ。それに、一度目のほとんど話したことがなく、むしろ嫌われている状態で、代償を払ってまで私の時間を戻してくれるとは思えない。だから、この三人は違うのだと思う。
 他に考えられるのは殿下だけれど、私は、殿下も違うのでは無いかと思う。あの時のことを振り返るのは辛いけれど、一度目の時点で、私は殿下に巻き戻しを図られるほどの好意など持たれていなかった。それに、殿下が望まれたことならば、巻き戻ってすぐの婚約者としての顔合わせの際、何らかの変化があってよさそうなものなのにそれもなかった。

「でも、そうなると、今のところ可能性があるのは一人しか思い浮かばないのよね……」

 私はノートを閉じ、表紙に視線を落とした。
 一度目の記憶の中にも、このノートの中にも、その人のことはほとんど出てこない。 
 ――――筆頭魔術師のクロード。
 噂に聞く彼の実力なら、時戻りの魔術を行使できるかもしれない。
 もしも彼がそうなら、納得できることは多い。
 殿下との顔合わせに向かった日、一度目にはない出会いをしたし、女官が驚くほどに身のこなしが変わっていた。

「……でも、どう考えても動機がわからないわ」

 クロード様と個人的に面識があったわけでも、親しい交流があったわけでもなかった。
 ただ、もしも彼が術者ならば、放置はできない。魔術書の記述が真実ならば、彼は今も時戻りの代償を払い続けているのだから。

「会って、話をしてみたら、何かわかるかしら」

 どうやって実現すれば良いかは考えないといけないけれど、幸い王太子妃教育を受けている今は王宮に上がる機会は多く、何度か顔を合わせても居る。
 ノートを引き出しにしまうと鍵を確かめ、私はそっと息を吐いた。
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