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35.殿下の相談
教室に戻ろうと歩いていると中庭にマティアス殿下の姿が見えた。
「ジュリアか」
殿下も私に気がついていたようで、引き返す前に声をかけられてしまう。
「殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しく」
殿下は頷くと、中庭にある東屋を指さした。
「少し付き合え」
「かしこまりました」
殿下の正面に座ると、殿下は一つ息を吐く。
「皆がジュリアのように弁えていれば、私も気分良く過ごせるというのにな」
「先程の、伯爵家のご令息の件でしょうか」
「そうだ。ジュリアも見ていたのか」
頷くと、殿下は言う。
「ジュリアは、あの者についてどう思った?」
どう答えるべきか悩み、私は口を開く。
「……正直に申し上げますと、私の意見で殿下がご気分を害されるかもしれません」
「ほう。不敬には問わぬから、ジュリアの意見を聞かせて欲しい」
「でしたら。ご令息は何年も殿下の側に仕えておられました。側付きから外すのは、少々罰が厳し過ぎるのではと感じました」
「なっ、一度は許したのに、厳し過ぎるだと? 私の側付きならば、他の者の手本であるべきだ。できぬというなら、外すしかないではないか。ジュリアの優しさは美点だが、優し過ぎても他の者に見下されるだけだ」
「ですが、ここは学園で、彼はまだ学生です。失敗を糧とするための学びの場とは考えられませんか」
「学びの場か……その考えは確かになかったが。しかし」
「あくまで、私の意見ですので」
「そうだな。納得はできんが、考えてみよう。引き留めて悪かったな」
考え込む殿下を残し、私は東屋を後にした。
午後の授業は選択制で殿下とは違う講義を受けているため、その後は殿下と顔を合わせる事は無かった。
伯爵令息の件があれからどうなったのか、気になりつつも翌日学園に向かうと、教室で項垂れている令息の姿が目に入る。
(やはり、殿下は彼をお許しにはならなかったのね)
クラスメイトは、誰も彼に近づかない。
扉が開く音がして、教室内のざわめきが一気に静まった。
現れた殿下に、教室の空気が一気に緊張する。
すると、殿下は項垂れている伯爵令息の元へと向かった。
「顔を上げろ」
「殿下……」
驚いた顔をする伯爵令息に、殿下は言う。
「同じ失敗を二度も繰り返すなど許されることではないが、お前はまだ学生だ。今まで私に誠心誠意仕えてくれたことを鑑み、もう一度だけ側に仕えることを許そう」
「ほ、本当にお許しくださるのですか」
「私は冗談は嫌いだ」
「ありがとうございます……!」
感動した様子の伯爵令息に、ほっとした空気が教室内に広がる。
「流石殿下ですわ!」
パトリシア様の声が響き、教室に拍手が広がった。
「大げさな。失敗は誰にでもあることだ」
私の言葉を、殿下が受け入れてくださったのだろうか。
殿下は鷹揚に頷く。
その横で、殿下と共に入ってきたパトリシア様に女生徒が話しかける。
「パトリシア様が殿下におっしゃったの?」
「いいえ。私は殿下のご相談に乗っただけよ」
「それでもすごいですわ!」
「流石パトリシア様ね」
パトリシア様の周りで盛り上がる者達に、殿下は何も言わない。
その事にショックを受けながら、私は授業の準備を進めた。
(あの伯爵令息が殿下の側に戻れたのなら、それ以外の事は気にするべきでは無いわ)
そう思うものの、どうして殿下は私も相談に乗ったという事は言ってくれないのだろう。まるで殿下の悩みにパトリシア様が相談に乗って丸く収まったかのような流れに、心の奥がざわつくのだった。
「ジュリアか」
殿下も私に気がついていたようで、引き返す前に声をかけられてしまう。
「殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しく」
殿下は頷くと、中庭にある東屋を指さした。
「少し付き合え」
「かしこまりました」
殿下の正面に座ると、殿下は一つ息を吐く。
「皆がジュリアのように弁えていれば、私も気分良く過ごせるというのにな」
「先程の、伯爵家のご令息の件でしょうか」
「そうだ。ジュリアも見ていたのか」
頷くと、殿下は言う。
「ジュリアは、あの者についてどう思った?」
どう答えるべきか悩み、私は口を開く。
「……正直に申し上げますと、私の意見で殿下がご気分を害されるかもしれません」
「ほう。不敬には問わぬから、ジュリアの意見を聞かせて欲しい」
「でしたら。ご令息は何年も殿下の側に仕えておられました。側付きから外すのは、少々罰が厳し過ぎるのではと感じました」
「なっ、一度は許したのに、厳し過ぎるだと? 私の側付きならば、他の者の手本であるべきだ。できぬというなら、外すしかないではないか。ジュリアの優しさは美点だが、優し過ぎても他の者に見下されるだけだ」
「ですが、ここは学園で、彼はまだ学生です。失敗を糧とするための学びの場とは考えられませんか」
「学びの場か……その考えは確かになかったが。しかし」
「あくまで、私の意見ですので」
「そうだな。納得はできんが、考えてみよう。引き留めて悪かったな」
考え込む殿下を残し、私は東屋を後にした。
午後の授業は選択制で殿下とは違う講義を受けているため、その後は殿下と顔を合わせる事は無かった。
伯爵令息の件があれからどうなったのか、気になりつつも翌日学園に向かうと、教室で項垂れている令息の姿が目に入る。
(やはり、殿下は彼をお許しにはならなかったのね)
クラスメイトは、誰も彼に近づかない。
扉が開く音がして、教室内のざわめきが一気に静まった。
現れた殿下に、教室の空気が一気に緊張する。
すると、殿下は項垂れている伯爵令息の元へと向かった。
「顔を上げろ」
「殿下……」
驚いた顔をする伯爵令息に、殿下は言う。
「同じ失敗を二度も繰り返すなど許されることではないが、お前はまだ学生だ。今まで私に誠心誠意仕えてくれたことを鑑み、もう一度だけ側に仕えることを許そう」
「ほ、本当にお許しくださるのですか」
「私は冗談は嫌いだ」
「ありがとうございます……!」
感動した様子の伯爵令息に、ほっとした空気が教室内に広がる。
「流石殿下ですわ!」
パトリシア様の声が響き、教室に拍手が広がった。
「大げさな。失敗は誰にでもあることだ」
私の言葉を、殿下が受け入れてくださったのだろうか。
殿下は鷹揚に頷く。
その横で、殿下と共に入ってきたパトリシア様に女生徒が話しかける。
「パトリシア様が殿下におっしゃったの?」
「いいえ。私は殿下のご相談に乗っただけよ」
「それでもすごいですわ!」
「流石パトリシア様ね」
パトリシア様の周りで盛り上がる者達に、殿下は何も言わない。
その事にショックを受けながら、私は授業の準備を進めた。
(あの伯爵令息が殿下の側に戻れたのなら、それ以外の事は気にするべきでは無いわ)
そう思うものの、どうして殿下は私も相談に乗ったという事は言ってくれないのだろう。まるで殿下の悩みにパトリシア様が相談に乗って丸く収まったかのような流れに、心の奥がざわつくのだった。
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