【完結】だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~

乙原ゆん

文字の大きさ
39 / 70

39.放課後の個人授業

 翌日から、私は空いた時間でクロード様の元を訪れるようになった。
 といっても、クロード様は巻戻りについての話はこれ以上話す気がないようで、教えてもらえるのは純粋に魔術についての事ばかりだ。
 一応、研究室に行くたびには話題に出してみるが、クロード様がその話に乗ることは無かった。

「本日もいらっしゃったのですね。毎日迎えを待たせてしまってよろしいのですか?」
「今までより一時間遅く来てもらうように調整しましたからご安心を。それで、時戻りの魔術についてなのですが」
「その件については、もう私から話すことはありません。他に聞きたいことがないのであれば、お帰りください」

 クロード様はぴしゃりと言うが、全然怖くない。
 時戻りの魔術については教えてくれないが、気がついたら研究室には茶葉と茶器が用意されていたし、こうして話している最中に侍女が準備に向かっても何も言わない。それどころか毎回お菓子も準備していてくれるので、少なくとも迷惑に思われていないのだと思っている。

「今日は気が変わったのではないかと聞いてみただけです」
「気が変わることはありません。学生は学業よりも友人や婚約者との交流の方を優先すると聞いていたのですが、毎日私の所に来てよろしいのですか?」

 一瞬、マティアス王子の顔が脳裏に浮かぶ。
 でも、王子は王子で公爵令嬢のパトリシア様と出かけたり、友人を優先し、私が声をかけても煩わしそうにするだけで時間を取ってはもらえなかった。

「……ええ。魔術を教えていただいておりますし、クロード先生のお話を聞くのは、実技で真似は出来なくとも参考になりますから。そうだ。今日は先日の模擬戦で使った魔術について教えてください」
「それはかまいませんが」

 本当に大丈夫だろうかという顔をするクロード様だったが、侍女がお茶のセットを運んで来てくれたので、意識がそちらの方に向いてしまう。

「あっ今日は、クッキーサンドなのですね。中身は何なのでしょう」
「苺ジャムです」

 心配そうにしながらも中身を教えてくれるクロード様に、私は自然と微笑がこぼれる。

「嬉しい。今までのお菓子はどれも美味しく頂きましたが、苺のジャムを使った物が特に美味しいのですよね」
「そう言っていただけると準備した甲斐があります。どうぞ召し上がってください」
「ありがとうございます」

 遠慮無く紅茶と共にクッキーサンドをつまむ。
 クッキーは甘さを抑えて塩気が強い。
 そこに苺ジャムの甘さが加わって、何枚でも食べてしまいそうな美味しさだ。

「やっぱり……! とっても美味しいです」

 頬を抑えると、クロード様は苦笑する。

「教師の本懐としては、ラバール侯爵令嬢が魔術を学びに来て下さるのは嬉しいのですが、そのようなお姿を拝見すると、お菓子の方が目的なのではと思ってしまいますね」
「最初はクロード先生から魔術のお話を伺うのが目的でしたが、今ではお菓子の方も楽しみになっています」
「なら、明日も何か準備しておきましょう」
「明日も来てよろしいのですか?」

 クロード様から明確に明日の話をされるのは初めてだった。
 つい尋ねると、クロード様は悪戯げな表情で私を見る。

「駄目だと言ったら、どうします?」
「そう言われても、来てしまうかも……?」

 答えると、クロード様も微笑む。

「最近、大分侯爵令嬢のことが分かって参りましたので。無駄な抵抗はしないことに致しました」
「そんな風に言われると、なんだかとても人聞きが悪いのですが」
「いいえ。とても可愛らしいですよ。明日のおやつも楽しみにしていてくださいね」

 頷くと、クロード様は真面目な顔に切り替える。

「それで、聞きたいというのは、模擬戦で使ったどの魔術ですか?」
「水の竜巻を受けて、どうして先生が濡れることなく無事でいらっしゃったのか、わからなくて」
「あれは、結界魔術を使っています」
「結界? ですが、確か地面は先生の足下まで濡れていましたよね」
「よく見ていましたね」

 クロード様は頷く。

「結界だと、自分の周囲も一緒に覆ってしまうから、あのような濡れ方はしないのではないのですか?」

 どういうことだろうと首を傾げる私に、クロード様は言う。

「単純に、結界の範囲を自分の体の表面までと指定しました」
「ちょっと待って下さい。結界魔術って、そんなこともできるのですか?」
「はい。魔力の巡らせ方によって発動範囲や結界強度を変化できます」

 驚く私に、クロード様は何でも無い事のように言う。

「慣れると発動魔力は半分以上カットできるので、重宝しますよ」

 なんてことなさそうにクロード様は言うが、本当だろうか。

「それは、クロード様だからでは?」
「いえいえ、誰にでも出来ますよ。やってみますか?」
「私でも出来るのですか?」
「もちろん。ですが、座ったままより、そちらでの方がやりやすいと思います」

 クロード様の誘導に従い、立ち上がって周囲に何もない場所へと移動する。
 そこで、やり方のおさらいをしてから魔術を発動させた。
 一応、クロード様が言うように魔力の巡らせ方を変えようとしてみるが、全くうまくいかない。
 普段と変わらない、卵の殻で自分を包み込むような楕円形の結界が形成されてしまう。

「私にはここまでのようです」
「少し補助しても?」
「お願いします」
「なら、一度結界を解いて、お手をよろしいでしょうか」

 言われたとおりにして、クロード様の差し出す手に片手を乗せる。

「私が調整しますので、私も含めて結界魔術を発動させてください」

 言われたとおりに魔術を発動させると、結界を巡る魔力にクロード様の魔力が混ざり、結界は静かに形を変えていく。
 気がつくと、私とクロード様だけを包み込むように結界が発動していた。

「あっ出来てる」

 驚きの声を挙げる私に、クロード様は当然だというように頷く。
 結界を維持している魔力は、私が半分、クロード様が半分といったところだ。
 私は尊敬の気持ちを込めてクロード様を見上げた。
 だがクロード様はこれで十分とは思わなかったようだ。

「このまま私の魔力を抑えていきます。結界を維持する魔力が減るので、侯爵令嬢の魔力で補ってください」
「あっ待って」

 言うが早いか、早速クロード様は魔力を減らしていく。

「大丈夫、ラバール侯爵令嬢なら出来ますよ」

 クロード様の言葉に励まされるように魔力の出力を増やすが、どうしてか結界が波打ってしまう。

「落ち着いて。息を深く吐いて、結界の表面をできるだけ揺らさないように意識しましょう」

 クロード様の声で、深呼吸をして、再び取り組む。

「…………」
「出来ましたね」

 集中していたせいか、クロード様に言われてはっとする。
 いつの間にか結界魔術を維持する魔力は全て私の物に置き換わっていた。

「この感覚を覚えると、意識せずとも発動できるようになります」
「はいっ……!」

 けれど、自分の魔力だけで維持するのは難しく、数分もしないうちに結界魔術はパチンと弾けて消えてしまった。

「まだ、覚えていないのに」
「何度だって、お付き合い致しますよ」
「お願いします」

 私はクロード様が嫌な顔をしないのをいいことに、その後も何度も練習に付き合ってもらった。
感想 24

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

あなた方には後悔してもらいます!

風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。 私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。 国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。 それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。 婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか! お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。 事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に! 彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います! ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。