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40.パトリシア視点
幼い頃から、私だけがマティの特別だった。
尊い血を有し、少々気むずかし屋ではあるけれど、地位も、容姿も、最高の物を持っているマティ。
愛称で呼ぶことを許されているのは彼の両親以外には私だけで、思春期になっても続く特別扱いに、私が恋に落ちてしまうのはある意味必然だった。
父も私の恋を応援してくれている。
残念ながら彼の母親には嫌われてしまっているみたいだけれど、想い合う私達の障害ではなかったはず、なのに……。
婚約の打診を受けてもらえず、何度も申し込んでいる間に、気がついたら、血筋も、爵位も、容姿も、何もかも私に劣る女が、マティの婚約者となっていた。
私が婚約を申し込めば、マティが王家の皆様に話を付けてくれると思っていたのに。
どうして婚約できなかったのかはわからないけれど、私とマティを引き裂きたい彼の母親が適当な女を婚約者に据えたのだろうとしか思えなかった。
私の憶測を裏付けるように、婚約後もマティは私との距離を取ったりしなかった。
「いくら婚約者になれたからって、あの方にマティの高い要求をクリアできるとは思えないわ」
そう自分に言い聞かせ、私はマティが婚約者に愛想を尽かした時、今度こそ選ばれるようにと自分磨きも続けた。
でも、聞こえてくるのは、あの女が王太子妃教育をそつなくこなしているという話ばかりで。
それどころか、マティもあの女との距離を詰めている。
「マティはあの女に惑わされているのだわ。王太子妃教育と言ったって、評価はどうとでも取り繕えるのに」
たまたま家で学んでいた内容と一緒だったのかもしれないと思って、教師に王族だけが学ぶような難しい内容も遠慮無く教えるようにと囁いた。
あの女が失敗しマティに見限られることを期待したけれど、結果的にはそれも悪手でしかなかった。
問題なく難しい内容を覚え、実践していく女に、周囲はあの女だけではなく、次第に彼女を王太子の婚約者に据えた王妃の慧眼も称えはじめた。
私だって同じ内容を学び、実践しているのに。
どうして、誰も私を称えないの?
マティの側に相応しいと言ってくれないの?
心の中は怒りで荒れ狂っていたけれど、そんな思いをマティにぶつけるわけにもいかなかった。
そんなことをすれば、すぐさま私も『愚かな女』としてマティの視界から消えるだろう。
それに、安心すべき事もある。
今も、彼が好んで隣に置くのは、私なのだ。
マティが望んでくれているのなら、私だって諦めない。
邪魔者でしかない女から、どう婚約者の座を返して貰うか考えていたところで、丁度良い材料を見つけてしまった。
中庭をマティと共に歩いていると、学園の講師達に与えられた研究室が集められた研究棟の窓の一つに目がとまる。
カーテンの無い窓から、中にある書棚が見えるから、空き部屋ではなさそうだ。けれど、カーテンすら準備できない貧しい者が学園の講師に就くなんてと、学園の講師の質の低下に学園に苦情を入れることも考えていると、なんとその部屋の中に、人影が二つ見えた。
王宮で役立たずの烙印を押された元魔術師と、彼と楽しげに語らう邪魔者の姿。
(これはマティからあの女を引き剥がす好機なのでは?)
どう振る舞うかは簡単に決まった。
「まぁ。マティがいるのに、はしたない」
「パトリシア、どうした?」
わざと聞こえるかどうかの声音で零した言葉は、マティが拾ってくれる。
「いいえ。なんでもないわ」
そう言いながらも、わざとらしく視線を逸らす。それだけでよかった。
マティは私が反らした視線の先、研究室棟の窓の向こうに己の婚約者の姿を見つけたようだ。
「へぇ」
それは、隣で聞いている私でさえ背筋が凍る程に酷く冷えた声音だった。
「ごめんなさい。上手くごまかせなかったせいで、マティに嫌な思いをさせてしまったわ」
「いや。パトリシアのおかげで、早いうちに気がつくことができてよかったよ」
「よかったの?」
「そうだよ。花は定期的に手入れをしないと、害虫が付くということを忘れていたからね」
微笑むマティの瞳は全く笑っていない。
マティの激怒する様子に、私は後は待つだけで良さそうだと、胸を撫で下ろした。
尊い血を有し、少々気むずかし屋ではあるけれど、地位も、容姿も、最高の物を持っているマティ。
愛称で呼ぶことを許されているのは彼の両親以外には私だけで、思春期になっても続く特別扱いに、私が恋に落ちてしまうのはある意味必然だった。
父も私の恋を応援してくれている。
残念ながら彼の母親には嫌われてしまっているみたいだけれど、想い合う私達の障害ではなかったはず、なのに……。
婚約の打診を受けてもらえず、何度も申し込んでいる間に、気がついたら、血筋も、爵位も、容姿も、何もかも私に劣る女が、マティの婚約者となっていた。
私が婚約を申し込めば、マティが王家の皆様に話を付けてくれると思っていたのに。
どうして婚約できなかったのかはわからないけれど、私とマティを引き裂きたい彼の母親が適当な女を婚約者に据えたのだろうとしか思えなかった。
私の憶測を裏付けるように、婚約後もマティは私との距離を取ったりしなかった。
「いくら婚約者になれたからって、あの方にマティの高い要求をクリアできるとは思えないわ」
そう自分に言い聞かせ、私はマティが婚約者に愛想を尽かした時、今度こそ選ばれるようにと自分磨きも続けた。
でも、聞こえてくるのは、あの女が王太子妃教育をそつなくこなしているという話ばかりで。
それどころか、マティもあの女との距離を詰めている。
「マティはあの女に惑わされているのだわ。王太子妃教育と言ったって、評価はどうとでも取り繕えるのに」
たまたま家で学んでいた内容と一緒だったのかもしれないと思って、教師に王族だけが学ぶような難しい内容も遠慮無く教えるようにと囁いた。
あの女が失敗しマティに見限られることを期待したけれど、結果的にはそれも悪手でしかなかった。
問題なく難しい内容を覚え、実践していく女に、周囲はあの女だけではなく、次第に彼女を王太子の婚約者に据えた王妃の慧眼も称えはじめた。
私だって同じ内容を学び、実践しているのに。
どうして、誰も私を称えないの?
マティの側に相応しいと言ってくれないの?
心の中は怒りで荒れ狂っていたけれど、そんな思いをマティにぶつけるわけにもいかなかった。
そんなことをすれば、すぐさま私も『愚かな女』としてマティの視界から消えるだろう。
それに、安心すべき事もある。
今も、彼が好んで隣に置くのは、私なのだ。
マティが望んでくれているのなら、私だって諦めない。
邪魔者でしかない女から、どう婚約者の座を返して貰うか考えていたところで、丁度良い材料を見つけてしまった。
中庭をマティと共に歩いていると、学園の講師達に与えられた研究室が集められた研究棟の窓の一つに目がとまる。
カーテンの無い窓から、中にある書棚が見えるから、空き部屋ではなさそうだ。けれど、カーテンすら準備できない貧しい者が学園の講師に就くなんてと、学園の講師の質の低下に学園に苦情を入れることも考えていると、なんとその部屋の中に、人影が二つ見えた。
王宮で役立たずの烙印を押された元魔術師と、彼と楽しげに語らう邪魔者の姿。
(これはマティからあの女を引き剥がす好機なのでは?)
どう振る舞うかは簡単に決まった。
「まぁ。マティがいるのに、はしたない」
「パトリシア、どうした?」
わざと聞こえるかどうかの声音で零した言葉は、マティが拾ってくれる。
「いいえ。なんでもないわ」
そう言いながらも、わざとらしく視線を逸らす。それだけでよかった。
マティは私が反らした視線の先、研究室棟の窓の向こうに己の婚約者の姿を見つけたようだ。
「へぇ」
それは、隣で聞いている私でさえ背筋が凍る程に酷く冷えた声音だった。
「ごめんなさい。上手くごまかせなかったせいで、マティに嫌な思いをさせてしまったわ」
「いや。パトリシアのおかげで、早いうちに気がつくことができてよかったよ」
「よかったの?」
「そうだよ。花は定期的に手入れをしないと、害虫が付くということを忘れていたからね」
微笑むマティの瞳は全く笑っていない。
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