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48.パトリシア視点2
「なんで上手くいかないのよ!」
馬車の迎えを呼びつけ一人で帰宅するなんて、学園に通い始めてから初めてのことだ。屋敷の者達は予定よりもかなり早い帰宅にもそつなく対応しているが、滲み出る窺うような雰囲気に余計に苛立つ。
「みんな本当、無能なんだから」
部屋の中にある物に当たり散らし、気持ちが落ち着いた所で片付けを始めた侍女達を見ながら一息吐く。
本当なら、暴漢に襲わせ気絶させたジュリアとあの魔術教師を準備室に閉じ込め、そこをマティアスと一緒に目撃して、ジュリア有責で婚約を破棄せざるを得ない状況を作り出す予定だった。
もちろん、ただ部屋に放り込むだけではなく、言い逃れができないような工作もするつもりでいた。
たとえお互いに意識がなかったとしても、密室で、しかも密着した状態で見つかれば「不貞」として扱われる。
そんな二人をマティアスが自分の目で目撃すれば、絶対に婚約を破棄するだろうと思ったのに。
「それが全部しくじるなんて。ジュリアがあんな魔術を使えたなんて聞いてない」
あの魔術教諭の方も、魔術が使えずに宮廷魔術師を馘首されたのではなかったのか。それなりに使える者を雇ったはずなのに、返り討ちにされるなんて想定外だった。
「それに、嘘よね……。マティアスは、本当に私のことをなんとも思っていなかったの……?」
今までの特別扱いが、全部、親戚だからというだけで許されていたの?
レストランでの食事も、彼の瞳と近い色のドレスも、学園でのエスコートも。婚約者以上に、私の事が大切だからこそ、してくれていたのではないの。
「――絶対に、信じないわ」
婚約者の手前、王子という立場を考えて、ああ言うしかなかったのだ。
「そうに違いないのよ」
頷き、湯気の消えたカップに口を付けたところで、思いも寄らない声が聞こえた。
「何が違いないの?」
「お母様……、どうしてこちらへ?」
入室を断る声もなく部屋に入って来たばかりか、お母様は静かに私の正面にある椅子に腰を下ろす。
成人間近の娘を持っているとは思えないほどに美しく、妖艶だ。
「どうしても何も、邪魔者を消すのに失敗したあなたの顔を見に来たの」
言い方は気に障るが、言い返せば倍以上になって小言が返ってくる。
私はひとまず口をつぐんだ。
「汚れ仕事をする者まで雇って失敗するなんて、一体今まで何を学んでいたのかしら?」
「あの者達が私の期待に応えられなかっただけです」
反射的に言い返した私に、真っ赤なルージュを乗せた唇が弧を描く。
「そういうことにしておいてあげるわ。ところで、あなたがどっちを狙ったのかわからないけど、あの侯爵令嬢の方は私がもらってもいいかしら」
「えっ、構いませんが、どうしてお母様が……?」
疑問を問いかけると、お母様はなんでもないように言う。
「たまたまよ。私のお友達から、邪魔だからどうにか出来ないかって相談されているの。一度消そうとしたけれど、失敗したみたいで。なんでも、再婚相手の連れ子で、懐かなくて可愛くないのですって」
その言葉に、誰の依頼か察する。
ラバール侯爵の後妻に収まった女性だろう。
「あのご婦人ですか。お母様が昔から親しくされていた方ですよね」
「あら。知っていたのね。そうよ。学生時代からずっと私の言うことを聞いて役に立ってくれていたから、ご褒美にちょっと手を貸してあげるの」
「お優しいのですね」
感心したように頷く私に、お母様は呆れたような視線を向ける。
「別にそういうつもりはないわ。何でも言うことを聞いてくれる侯爵夫人なんていたら便利じゃない。それで、お返事は?」
「かまいませんわ」
あの子がいなければ、私がマティの婚約者なのだ。
誰が始末するかなど重要ではない。
馬車の迎えを呼びつけ一人で帰宅するなんて、学園に通い始めてから初めてのことだ。屋敷の者達は予定よりもかなり早い帰宅にもそつなく対応しているが、滲み出る窺うような雰囲気に余計に苛立つ。
「みんな本当、無能なんだから」
部屋の中にある物に当たり散らし、気持ちが落ち着いた所で片付けを始めた侍女達を見ながら一息吐く。
本当なら、暴漢に襲わせ気絶させたジュリアとあの魔術教師を準備室に閉じ込め、そこをマティアスと一緒に目撃して、ジュリア有責で婚約を破棄せざるを得ない状況を作り出す予定だった。
もちろん、ただ部屋に放り込むだけではなく、言い逃れができないような工作もするつもりでいた。
たとえお互いに意識がなかったとしても、密室で、しかも密着した状態で見つかれば「不貞」として扱われる。
そんな二人をマティアスが自分の目で目撃すれば、絶対に婚約を破棄するだろうと思ったのに。
「それが全部しくじるなんて。ジュリアがあんな魔術を使えたなんて聞いてない」
あの魔術教諭の方も、魔術が使えずに宮廷魔術師を馘首されたのではなかったのか。それなりに使える者を雇ったはずなのに、返り討ちにされるなんて想定外だった。
「それに、嘘よね……。マティアスは、本当に私のことをなんとも思っていなかったの……?」
今までの特別扱いが、全部、親戚だからというだけで許されていたの?
レストランでの食事も、彼の瞳と近い色のドレスも、学園でのエスコートも。婚約者以上に、私の事が大切だからこそ、してくれていたのではないの。
「――絶対に、信じないわ」
婚約者の手前、王子という立場を考えて、ああ言うしかなかったのだ。
「そうに違いないのよ」
頷き、湯気の消えたカップに口を付けたところで、思いも寄らない声が聞こえた。
「何が違いないの?」
「お母様……、どうしてこちらへ?」
入室を断る声もなく部屋に入って来たばかりか、お母様は静かに私の正面にある椅子に腰を下ろす。
成人間近の娘を持っているとは思えないほどに美しく、妖艶だ。
「どうしても何も、邪魔者を消すのに失敗したあなたの顔を見に来たの」
言い方は気に障るが、言い返せば倍以上になって小言が返ってくる。
私はひとまず口をつぐんだ。
「汚れ仕事をする者まで雇って失敗するなんて、一体今まで何を学んでいたのかしら?」
「あの者達が私の期待に応えられなかっただけです」
反射的に言い返した私に、真っ赤なルージュを乗せた唇が弧を描く。
「そういうことにしておいてあげるわ。ところで、あなたがどっちを狙ったのかわからないけど、あの侯爵令嬢の方は私がもらってもいいかしら」
「えっ、構いませんが、どうしてお母様が……?」
疑問を問いかけると、お母様はなんでもないように言う。
「たまたまよ。私のお友達から、邪魔だからどうにか出来ないかって相談されているの。一度消そうとしたけれど、失敗したみたいで。なんでも、再婚相手の連れ子で、懐かなくて可愛くないのですって」
その言葉に、誰の依頼か察する。
ラバール侯爵の後妻に収まった女性だろう。
「あのご婦人ですか。お母様が昔から親しくされていた方ですよね」
「あら。知っていたのね。そうよ。学生時代からずっと私の言うことを聞いて役に立ってくれていたから、ご褒美にちょっと手を貸してあげるの」
「お優しいのですね」
感心したように頷く私に、お母様は呆れたような視線を向ける。
「別にそういうつもりはないわ。何でも言うことを聞いてくれる侯爵夫人なんていたら便利じゃない。それで、お返事は?」
「かまいませんわ」
あの子がいなければ、私がマティの婚約者なのだ。
誰が始末するかなど重要ではない。
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