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49.見舞いの花籠
帰宅後、すぐに侍医が呼ばれ診察を受けた。
学園の救護室の教諭と同じく精神的な衝撃を心配されて、学芸祭はその後も休むこととなった。
(殿下は、ナタリア様に伝言してくださったかしら)
ベッドで寝ているようにと言われたけれど、体は元気で眠れるわけがない。
少し休んだ後はベッドを抜け出して、手紙を書くことにした。
侍女のケイトにレターセットの準備を頼むと、机に向かう。
そんな私にケイトは言う。
「こちらのお手紙を書き終えられたら、きちんとお休みくださいね」
「ええ。もちろん。このままでは気になって眠れないから。それに、本当に元気なのだもの」
息を吐くケイトに微笑み、手紙に向かう。
詳細は伏せながらも、今日約束を守れなかったお詫びと、明日以降も休む事になるということを書いていく。
「出来たわ。ケイト、これをトレノー伯爵家のナタリア様に届けてくれる?」
「かしこまりました」
ケイトが出かけると、私は約束通りベッドへと戻った。
翌日。部屋からは出られないものの、さすがにベッドからは出ることを許された。
ナタリア様からも返事が来て、伝言を受け取っていたそうだ。
私の体調を心配する言葉と、学園に出てこられる日を楽しみにしているという言葉が並んでいて、心が温かくなる。
「お嬢様、殿下からお見舞いが届いております」
やるべきことを終えて退屈していた私に届けられたのは、花籠と一通の手紙だった。
「殿下から……。ひとまずそのテーブルの上に飾ってもらえる?」
花籠の中には水を含ませたスポンジのようなものが入っていて、そのまま飾れるようになっていた。侍女が花籠の下に敷く物を準備したりと動くのを見ながら、手紙を読む。
私の安否を心配する内容で、今私が知りたいこと――昨日の襲撃犯に指示したのは誰だったのか、どこまで調査が進んでいるのかなど――は何も書いていなかった。おそらくは心配させないようにという配慮だろう。以前の私なら、殿下から手紙と贈り物が届いただけで舞い上がるように嬉しかったはずなのに、どうしてか贈り物も手紙も嬉しいというより重いと感じてしまう。
救護室でのあの言葉も、心に全く響かなかった。
巻戻る前なら、婚約者と愛し愛される関係を築けたことを喜んだはずだ。
ずっと、誰かに、私を愛してくれる人に愛されたいと願っていた。
婚約者であるマティアス殿下が今度は私を愛してくれるというのなら、このまま流れに身を任せればいいだけなのに。
(もう、認めるしかないのかも――)
私の心が、殿下ではない別の人を求めていることを。
思い返せば、クロード様が私に見返りを求めることは一度としてなかった。
巻戻りの件だって、魔術師にとって魔力を失うことは致命的なのに、私の記憶を残したまま機会をくれた。
魔術の指導の件でクロード様を巻き込む醜聞を起こしたのに、自分も襲われた直後だというのに危険を顧みずに助けに来てくれた。
どれだけ彼に負担のあることだろうと、決して見返りを求めることはない姿に、私も同じ物を返したいと思ってしまう。
クロード様は優しいだけで、私を愛しているわけではないかもしれない。
直接的な言葉を言われたわけではないのだ。
(だからこそ、私もこの感情を、決して誰にも知られてはいけない。クロード先生にも、殿下にも。でないと――)
クロード様を巻き込んだ破滅を思い浮かべ、私は静かに首を振る。
侍女がテーブルの上に美しく飾ってくれた花籠に、否が応でも殿下の事を意識させられた。
咲き誇る花を前に、この感情はこれ以上芽吹かせることはできないのだと。
(でも、その方が良いのかもしれない)
私の愛は相手にも同じ物を求めてしまう。
けれど今は思う通りに愛し愛されなくとも、あの心のどこかが欠けて、常に飢えているような切迫した気持ちは今は感じない。
(静かに彼の幸せを願う方が、私には向いているかもしれないわね)
そんなことを考えて思考を切り替える。
「殿下に、お礼のお手紙を書かなければね」
準備のいい侍女が仕度を整えている机へと向かった。
学園の救護室の教諭と同じく精神的な衝撃を心配されて、学芸祭はその後も休むこととなった。
(殿下は、ナタリア様に伝言してくださったかしら)
ベッドで寝ているようにと言われたけれど、体は元気で眠れるわけがない。
少し休んだ後はベッドを抜け出して、手紙を書くことにした。
侍女のケイトにレターセットの準備を頼むと、机に向かう。
そんな私にケイトは言う。
「こちらのお手紙を書き終えられたら、きちんとお休みくださいね」
「ええ。もちろん。このままでは気になって眠れないから。それに、本当に元気なのだもの」
息を吐くケイトに微笑み、手紙に向かう。
詳細は伏せながらも、今日約束を守れなかったお詫びと、明日以降も休む事になるということを書いていく。
「出来たわ。ケイト、これをトレノー伯爵家のナタリア様に届けてくれる?」
「かしこまりました」
ケイトが出かけると、私は約束通りベッドへと戻った。
翌日。部屋からは出られないものの、さすがにベッドからは出ることを許された。
ナタリア様からも返事が来て、伝言を受け取っていたそうだ。
私の体調を心配する言葉と、学園に出てこられる日を楽しみにしているという言葉が並んでいて、心が温かくなる。
「お嬢様、殿下からお見舞いが届いております」
やるべきことを終えて退屈していた私に届けられたのは、花籠と一通の手紙だった。
「殿下から……。ひとまずそのテーブルの上に飾ってもらえる?」
花籠の中には水を含ませたスポンジのようなものが入っていて、そのまま飾れるようになっていた。侍女が花籠の下に敷く物を準備したりと動くのを見ながら、手紙を読む。
私の安否を心配する内容で、今私が知りたいこと――昨日の襲撃犯に指示したのは誰だったのか、どこまで調査が進んでいるのかなど――は何も書いていなかった。おそらくは心配させないようにという配慮だろう。以前の私なら、殿下から手紙と贈り物が届いただけで舞い上がるように嬉しかったはずなのに、どうしてか贈り物も手紙も嬉しいというより重いと感じてしまう。
救護室でのあの言葉も、心に全く響かなかった。
巻戻る前なら、婚約者と愛し愛される関係を築けたことを喜んだはずだ。
ずっと、誰かに、私を愛してくれる人に愛されたいと願っていた。
婚約者であるマティアス殿下が今度は私を愛してくれるというのなら、このまま流れに身を任せればいいだけなのに。
(もう、認めるしかないのかも――)
私の心が、殿下ではない別の人を求めていることを。
思い返せば、クロード様が私に見返りを求めることは一度としてなかった。
巻戻りの件だって、魔術師にとって魔力を失うことは致命的なのに、私の記憶を残したまま機会をくれた。
魔術の指導の件でクロード様を巻き込む醜聞を起こしたのに、自分も襲われた直後だというのに危険を顧みずに助けに来てくれた。
どれだけ彼に負担のあることだろうと、決して見返りを求めることはない姿に、私も同じ物を返したいと思ってしまう。
クロード様は優しいだけで、私を愛しているわけではないかもしれない。
直接的な言葉を言われたわけではないのだ。
(だからこそ、私もこの感情を、決して誰にも知られてはいけない。クロード先生にも、殿下にも。でないと――)
クロード様を巻き込んだ破滅を思い浮かべ、私は静かに首を振る。
侍女がテーブルの上に美しく飾ってくれた花籠に、否が応でも殿下の事を意識させられた。
咲き誇る花を前に、この感情はこれ以上芽吹かせることはできないのだと。
(でも、その方が良いのかもしれない)
私の愛は相手にも同じ物を求めてしまう。
けれど今は思う通りに愛し愛されなくとも、あの心のどこかが欠けて、常に飢えているような切迫した気持ちは今は感じない。
(静かに彼の幸せを願う方が、私には向いているかもしれないわね)
そんなことを考えて思考を切り替える。
「殿下に、お礼のお手紙を書かなければね」
準備のいい侍女が仕度を整えている机へと向かった。
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