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59.クロード視点
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ジュリアが休む部屋を出て、オレはほっと息を吐いた。
(無事に、助けることが出来て良かった……)
今更ながらに実感が沸いてくる。
ジュリアが貴族牢で過ごしている間、ケーキに毒を盛った犯人がバシュレ公爵家で匿われているとわかっても、ただの平民のオレと下位貴族出身のケイトだけではどうすることもできなかった。相手は公爵家。権力がなければ、騎士はまともに話をきいてくれない。下手をすると罪を告発しても揉み消されてしまい、ジュリアを助けることさえできずに自分もケイトも殺されてしまう可能性もあった。
絶望するオレの前に現れたのは、今まで目立った話を聞かない第二王子のエリアス殿下だった。
「クロードが私に忠誠を誓ってくれるんなら、君の望みを叶えてあげよう」
どこから話を聞いてきたのか、全ての事情を知っているかのような様子に、戸惑いよりも苛立ちが先に来る。だが、ここで気持ちのままに行動するのは悪手だとぐっとこらえた。
「失礼ですが、殿下の考えておられる私の望みとは何でございましょうか」
「ラバール侯爵家の長女、ジュリア嬢を助けたいんだよね?」
エリアス殿下は邪気のない顔で言う。
「何故、私に声をかけてくださったのか、理由を伺ってもよろしいですか」
「あの兄を見限ったから、といえば伝わる?」
「私は魔力を失っています。殿下のご期待には添えないかと思いますが」
「君が使った時戻りの魔術。それをきちんと終わらせれば問題はないと聞いているよ。僕に忠誠を誓った筆頭魔術師が居てくれると助かるんだよね。そうだった。はい、これ魔石。これで当分の働きも問題ないでしょう?」
「……あのくそじじい」
ずしりと、大量の魔石を渡され、オレは呻くように罵声を漏らした。
殿下に魔術の知識があるなんて聞いたことはない。
ということは、誰かに聞いたと言うことだ。
殿下は誰に聞いたかは明言しなかったが、オレが時戻りの魔術を使ったと知っているのは師匠だけだ。
魔術師相手ですら、信じて貰えるかどうか五分の情報を話すというのは、それだけ師匠はこの王子に期待しているのだろう。
エリアス殿下を次の王にとさえ考えているのかもしれない。
「それで、どうするの? 今なら、君のための屋敷も一つ準備が出来ているんだけど」
じっとオレの顔を見つめてくる殿下に、オレはゆっくりと言葉を紡ぐ。
答える前に聞いておくことがもう一つだけ残っていた。
「殿下、もう一つだけ伺ってもよろしいですか?」
「もちろん。いくらでもどうぞ」
「殿下は、このような方法で私の忠誠を得て、私を信頼できるのですか」
オレの質問に、殿下は意外なことでも言われたというように目を瞬かせる。そして、にこりと微笑んだ。
「今は利害関係で繋がっていても、今後はどうかわからないだろう? まずは、僕の言葉を裏切らず、確実に命令を実行してくれる有能な人材が欲しいんだ。それにね、僕は頑張ってくれる者にはきちんと報いるつもりだよ。父や、兄とは違ってね」
その答えは、オレが求める以上のものだった。
少し話しただけでも王の器を持っていると感じる少年に、オレは諦めて頭を垂れたのだった。
(無事に、助けることが出来て良かった……)
今更ながらに実感が沸いてくる。
ジュリアが貴族牢で過ごしている間、ケーキに毒を盛った犯人がバシュレ公爵家で匿われているとわかっても、ただの平民のオレと下位貴族出身のケイトだけではどうすることもできなかった。相手は公爵家。権力がなければ、騎士はまともに話をきいてくれない。下手をすると罪を告発しても揉み消されてしまい、ジュリアを助けることさえできずに自分もケイトも殺されてしまう可能性もあった。
絶望するオレの前に現れたのは、今まで目立った話を聞かない第二王子のエリアス殿下だった。
「クロードが私に忠誠を誓ってくれるんなら、君の望みを叶えてあげよう」
どこから話を聞いてきたのか、全ての事情を知っているかのような様子に、戸惑いよりも苛立ちが先に来る。だが、ここで気持ちのままに行動するのは悪手だとぐっとこらえた。
「失礼ですが、殿下の考えておられる私の望みとは何でございましょうか」
「ラバール侯爵家の長女、ジュリア嬢を助けたいんだよね?」
エリアス殿下は邪気のない顔で言う。
「何故、私に声をかけてくださったのか、理由を伺ってもよろしいですか」
「あの兄を見限ったから、といえば伝わる?」
「私は魔力を失っています。殿下のご期待には添えないかと思いますが」
「君が使った時戻りの魔術。それをきちんと終わらせれば問題はないと聞いているよ。僕に忠誠を誓った筆頭魔術師が居てくれると助かるんだよね。そうだった。はい、これ魔石。これで当分の働きも問題ないでしょう?」
「……あのくそじじい」
ずしりと、大量の魔石を渡され、オレは呻くように罵声を漏らした。
殿下に魔術の知識があるなんて聞いたことはない。
ということは、誰かに聞いたと言うことだ。
殿下は誰に聞いたかは明言しなかったが、オレが時戻りの魔術を使ったと知っているのは師匠だけだ。
魔術師相手ですら、信じて貰えるかどうか五分の情報を話すというのは、それだけ師匠はこの王子に期待しているのだろう。
エリアス殿下を次の王にとさえ考えているのかもしれない。
「それで、どうするの? 今なら、君のための屋敷も一つ準備が出来ているんだけど」
じっとオレの顔を見つめてくる殿下に、オレはゆっくりと言葉を紡ぐ。
答える前に聞いておくことがもう一つだけ残っていた。
「殿下、もう一つだけ伺ってもよろしいですか?」
「もちろん。いくらでもどうぞ」
「殿下は、このような方法で私の忠誠を得て、私を信頼できるのですか」
オレの質問に、殿下は意外なことでも言われたというように目を瞬かせる。そして、にこりと微笑んだ。
「今は利害関係で繋がっていても、今後はどうかわからないだろう? まずは、僕の言葉を裏切らず、確実に命令を実行してくれる有能な人材が欲しいんだ。それにね、僕は頑張ってくれる者にはきちんと報いるつもりだよ。父や、兄とは違ってね」
その答えは、オレが求める以上のものだった。
少し話しただけでも王の器を持っていると感じる少年に、オレは諦めて頭を垂れたのだった。
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