68 / 70
番外編4.お祝いの日(前)
「ジュリア、今いいだろうか」
その日は、珍しく午前中前の時間にクロード様に声をかけられた。休日だと聞いていたので、クロード様がお屋敷にいらっしゃるのはおかしなことではないのだが、午前中は大抵別行動となっている。私は学園に通えていない分、教科書の自習をしたり、クロード様は魔術の研究をしたりしていると聞いていた。
自室にいる私の元にクロード様が直接いらっしゃったので、何事だろうかと身構えながら、応接室に移動する。
椅子に腰を落ち着け、ケイトがお茶を淹れてくれるとすぐにクロード様は本題に入ってくれた。
「学園から、編入許可の通知が届いたんだ」
「本当ですか!」
喜びの声を上げる私にクロード様は少々驚きの表情を浮かべながらも頷く。
「待っていたようだから、早めに知らせた方がいいと思って」
手渡された学園からの手紙には、編入試験合格の言葉と、登園開始日、それに注意事項が記載されている。
「来月から、復帰できるのですね」
「そのようだな」
クロード様は頷き、続ける。
「初日は、師匠が一緒に向かうと言っていた」
「えっ、ラフラーメ様……お父様がですか?」
養子に入り、戸籍上の父となったラフラーメ様のことを「お父様」と呼んで欲しいと言われていたのを思い出し、言い換える。
ラフラーメ様については、まだ父としてよりも、クロード様の師匠という印象が強いのだけれど、これから馴れていかなければならない。
手元にある手紙には、初日は学園の説明があるため保護者も同伴するようにとの記載もあるが、ついこの間まで通っていた学園なので、そちらは不要なのではないかと思っていた。
困惑する私に、クロード様は追い打ちをかけるようなことを言う。
「保護者も呼ばれているからと、堂々と親子として側についていくことができると張り切っていたぞ」
想像ができず首を傾げる私に、クロード様は小さく笑うと言う。
「オレの時は意外と放任だったが、娘となると違うのだろう。それに、オレとしても、そちらが安心だ。師匠の後見を名ばかりと思ってジュリアを害するような輩への牽制にもなる」
「何かあっても、私はクロード様に教えていただいた魔術もありますし」
「結界魔術に頼るような状況にならないことが、重要だ」
それはそうだ。頷くと、クロード様は続ける。
「学園が始まると、ジュリアも忙しくなりそうだ。その前に、出かけたいな。今日は何か予定が?」
「いえ、特には。いつも通り、勉強したり本を読んで過ごそうかと思っていたので」
「なら、急だが、この後でかけないか? 入学のお祝いを兼ねて昼は外で食事をしよう」
頷くと、クロード様はケイトに指示を出す。
私は瞬く間に仕度をされて、クロード様と共に馬車に乗り込んでいた。
到着したのは、郊外にあるレストランだった。
個室になっており、他の客と顔を合わせることもない。
落ち着いた高級感のある部屋に通されると、まずは乾杯の飲み物を頼んでもらう。
どちらも炭酸入りの白ブドウのジュースで、グラスの底から小さな泡が浮かんでいる。
「編入試験、合格おめでとう」
「ありがとうございます」
二人で乾杯をすると、一皿目の料理が運ばれてくる。
「わぁ、かわいい!」
大きなお皿に、可愛らしく盛り付けられた前菜を見て、私は思わず声を上げていた。
ハムとお野菜を櫛で刺してある料理に、魚の燻製と彩りの良い香味野菜、それに、果実。
どこから食べて良いか、迷ってしまう。
「味も気に入ってくれるといいが」
クロード様が嬉しそうに言う。
促され、私はまずはハムの櫛に手をつけることにした。
櫛の部分をつまんで口に運ぶと、野菜の部分にも味がついていて、ハムと味を引き立て合っている。
「とてもおいしいです!」
感動していると、クロード様も気に入ったようでほっとしたように表情を緩めた。
「いつの間にこんな素敵なお店を見つけられたのですか」
「王宮の魔術師に聞いた。婚約者と行くといったら、是非ここがいいとすごく勧められたんだ」
クロード様は職場で私を婚約者と言っているのか。
普段は名前で呼ばれているから、なんだか「婚約者」という響きがこそばゆい。
頬を染め、お皿に視線を落とす私に、クロード様は首を傾げる。
「どうかしたか?」
「い、いえ。何も。本当に、おいしいですね」
「うん。そうだな」
咄嗟に誤魔化してしまったが、クロード様もお皿の料理に集中したようで、何も追求されなかった。
そのことに、少しほっとしながら私もお皿に集中した。
----------------------------------------------
いつも読んで、応援してくださってありがとうございます!
本作品、恋愛小説大賞に応募しております。
まだ投票先に迷っているという方は、是非投票先に検討してくださると嬉しいです!
また、投票してくださった方、本当にありがとうございます!!
その日は、珍しく午前中前の時間にクロード様に声をかけられた。休日だと聞いていたので、クロード様がお屋敷にいらっしゃるのはおかしなことではないのだが、午前中は大抵別行動となっている。私は学園に通えていない分、教科書の自習をしたり、クロード様は魔術の研究をしたりしていると聞いていた。
自室にいる私の元にクロード様が直接いらっしゃったので、何事だろうかと身構えながら、応接室に移動する。
椅子に腰を落ち着け、ケイトがお茶を淹れてくれるとすぐにクロード様は本題に入ってくれた。
「学園から、編入許可の通知が届いたんだ」
「本当ですか!」
喜びの声を上げる私にクロード様は少々驚きの表情を浮かべながらも頷く。
「待っていたようだから、早めに知らせた方がいいと思って」
手渡された学園からの手紙には、編入試験合格の言葉と、登園開始日、それに注意事項が記載されている。
「来月から、復帰できるのですね」
「そのようだな」
クロード様は頷き、続ける。
「初日は、師匠が一緒に向かうと言っていた」
「えっ、ラフラーメ様……お父様がですか?」
養子に入り、戸籍上の父となったラフラーメ様のことを「お父様」と呼んで欲しいと言われていたのを思い出し、言い換える。
ラフラーメ様については、まだ父としてよりも、クロード様の師匠という印象が強いのだけれど、これから馴れていかなければならない。
手元にある手紙には、初日は学園の説明があるため保護者も同伴するようにとの記載もあるが、ついこの間まで通っていた学園なので、そちらは不要なのではないかと思っていた。
困惑する私に、クロード様は追い打ちをかけるようなことを言う。
「保護者も呼ばれているからと、堂々と親子として側についていくことができると張り切っていたぞ」
想像ができず首を傾げる私に、クロード様は小さく笑うと言う。
「オレの時は意外と放任だったが、娘となると違うのだろう。それに、オレとしても、そちらが安心だ。師匠の後見を名ばかりと思ってジュリアを害するような輩への牽制にもなる」
「何かあっても、私はクロード様に教えていただいた魔術もありますし」
「結界魔術に頼るような状況にならないことが、重要だ」
それはそうだ。頷くと、クロード様は続ける。
「学園が始まると、ジュリアも忙しくなりそうだ。その前に、出かけたいな。今日は何か予定が?」
「いえ、特には。いつも通り、勉強したり本を読んで過ごそうかと思っていたので」
「なら、急だが、この後でかけないか? 入学のお祝いを兼ねて昼は外で食事をしよう」
頷くと、クロード様はケイトに指示を出す。
私は瞬く間に仕度をされて、クロード様と共に馬車に乗り込んでいた。
到着したのは、郊外にあるレストランだった。
個室になっており、他の客と顔を合わせることもない。
落ち着いた高級感のある部屋に通されると、まずは乾杯の飲み物を頼んでもらう。
どちらも炭酸入りの白ブドウのジュースで、グラスの底から小さな泡が浮かんでいる。
「編入試験、合格おめでとう」
「ありがとうございます」
二人で乾杯をすると、一皿目の料理が運ばれてくる。
「わぁ、かわいい!」
大きなお皿に、可愛らしく盛り付けられた前菜を見て、私は思わず声を上げていた。
ハムとお野菜を櫛で刺してある料理に、魚の燻製と彩りの良い香味野菜、それに、果実。
どこから食べて良いか、迷ってしまう。
「味も気に入ってくれるといいが」
クロード様が嬉しそうに言う。
促され、私はまずはハムの櫛に手をつけることにした。
櫛の部分をつまんで口に運ぶと、野菜の部分にも味がついていて、ハムと味を引き立て合っている。
「とてもおいしいです!」
感動していると、クロード様も気に入ったようでほっとしたように表情を緩めた。
「いつの間にこんな素敵なお店を見つけられたのですか」
「王宮の魔術師に聞いた。婚約者と行くといったら、是非ここがいいとすごく勧められたんだ」
クロード様は職場で私を婚約者と言っているのか。
普段は名前で呼ばれているから、なんだか「婚約者」という響きがこそばゆい。
頬を染め、お皿に視線を落とす私に、クロード様は首を傾げる。
「どうかしたか?」
「い、いえ。何も。本当に、おいしいですね」
「うん。そうだな」
咄嗟に誤魔化してしまったが、クロード様もお皿の料理に集中したようで、何も追求されなかった。
そのことに、少しほっとしながら私もお皿に集中した。
----------------------------------------------
いつも読んで、応援してくださってありがとうございます!
本作品、恋愛小説大賞に応募しております。
まだ投票先に迷っているという方は、是非投票先に検討してくださると嬉しいです!
また、投票してくださった方、本当にありがとうございます!!
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
あなた方には後悔してもらいます!
風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。
私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。
国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。
それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。
婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか!
お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。
事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に!
彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います!
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。
君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした
せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。
「君を愛するつもりはない」と。
そんな……、私を愛してくださらないの……?
「うっ……!」
ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。
ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。
貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。
旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく!
誤字脱字お許しください。本当にすみません。
ご都合主義です。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。