【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚

乙原ゆん

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二十九.生贄娘、砥青の師匠に会う

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 翌日、砥青の師匠であり、主でもある紫水がやってきた。
 紫水は美しい紫水晶色の目と長い髪を持つ美しい大人の女性だった。
 香世も、白麗と共に紫水を迎え入れ、挨拶を交わす。

「砥青が迷惑をかけたと聞いた。白麗とその奥方を危険な目に遭わせて申し訳なかった」

 やってきて、挨拶をするなり頭を下げる紫水に、白麗と香世は首を振る。

「私も、砥青殿を危険な目に遭わせてしまった。申し訳ない。堕ち神は私を狙っていた。砥青殿は巻き込まれただけなのに」
「此度のことは白麗には防ぎようがなかっただろう」
「ひとまず砥青殿を診てもらえるか。私も手当はしているが、本職の目で診てもらった方がいい」
「わかった」

 三人で砥青の寝ている所に向かう。

「砥青殿、入るぞ」

 白麗がそう声をかけ襖を開けると、砥青は布団から起き上がったところだった。昨日より顔色もよくなっている。
 砥青は私達を見て驚いたように目を丸くしていた。
 どうやら紫水が来るとは聞いていなかったようだ。

「紫水様……、どうして」
「私が呼んだ」

 白麗が言う。

「砥青、まずは診察をするぞ」

 紫水は持ってきていた道具をいくつか取り出し、砥青の様子を診断している。
 目の粘膜を見たり、舌の色を確認し、紫水はほっと息を吐いた。

「堕ち神の分身に宿主にされたと聞いていたが、瘴気の浄化が驚く程進んでいるな。この様子だと、神気の欠落以外は特に問題もないだろう」

 紫水の言葉に、香世も白麗もほっと肩の力を抜いた。

「白麗には悪いが、砥青が動けるようになれば私の屋敷に一度連れて帰ろうと思う。悪いが、それまでここに滞在させてもらっていいだろうか」
「それはかまわんが」
「いえ。私なら、大丈夫です。師匠にそこまでご迷惑をかけるわけには」

 白麗は頷いているが、砥青の方が驚いたように紫水を止めている。

「だが……」
「師匠の元には、毎日師匠の助けを必要とする患者様がいらっしゃいます。それを私のせいで師匠をここに留めるわけにはいきません」
「他の者が対応してくれておるから心配は不要。それに、今はお前も私の患者だ。愚か者め」

 紫水に叱られ、砥青はしゅんと肩を落とす。

「ところで、白麗。砥青の瘴気をどうやってここまで綺麗に抜いたか、聞いてもいいだろうか?」

 紫水の瞳が白麗を向き、砥青も頷く。

「そういえば、私も気になっておりました。瘴気というのは、一度その身に浴びてしまえば、神ですらその浄化は苦労すると聞いています。私も覚悟していたのですが、ここまで軽傷で収まるとは。あの薬草茶の効果ですか?」
「薬草茶とは?」

 砥青の言葉に、紫水が目をきらめかせる。

「実物を飲みながらがいいだろう。楓、桜、準備を頼めるか」

 二人が部屋を出た間に白麗が説明を始める。

「薬草茶は、香世の父君から香世が教わった物だそうだ。香世、説明を頼む」

 白麗に促され、香世は口を開いた。

「材料は白麗様の庭の薬草を使っています」

 使った薬草の名を続けると、紫水は「なるほど」と頷いていた。

「薬草の配合がいいのか……? 悔しいが、この組み合わせは今まで思いつかなかったな。奥方が作るからこそ、効果が出るということはないだろうか?」
「いや、香世が砥青殿に学んでいる間、私の眷属の楓と桜が同じ物を作ってくれていたが、そちらも変わらず効果はあった」
「ということは、やはり薬効の組み合わせか」
「師匠、ないとは思いますが、薬草が特別な物かもしれません」
「そうだな。屋敷に戻ったら、うちの薬草でも効果が出るか試してみよう」
「どの場所の薬草でも効果が変わらないとなれば、これはすごい発見だ」

 紫水と砥青が盛り上がっている姿を見て、驚いている香世に白麗が満足げに頷いている。
 香世は、そんな光景を信じられないような気持ちで見つめていた。

「父の作っていた薬草茶は、そんなにすごい物だったのですか……?」
「そうだな。瘴気の浄化を助ける薬は今まで存在しなかったから、この効果が広まれば救われる神も多いだろう」
「あの薬草茶が……」

 まだ実感の湧かない香世に、白麗は言う。

「薬草茶の発見も確かに素晴らしいが、そもそもは香世が父君の知識を受け継ごうと学び覚えていなければ私達は助からなかった。香世のおかげだ」

 白麗に褒められたことが意外で、香世は目を瞬く。

「そんな、私は、ただ覚えたように作っただけです」
「それでもだ」

 そんなやり取りをしていたところで、楓と桜が盆に四人分の薬草茶を淹れて帰ってきた。
 薬草茶だけではなく、お茶請けに甘い砂糖菓子が添えられている。
 それぞれの前に並べられ、まずは白麗が口をつける。

「うむ。瘴気関係なく、この薬草茶は清涼感があってうまいな」

 お茶に口を付けた紫水が驚いたように目を開く。

「ドクダミが入っていると聞いたが、あまり味はしないな。それに、浄化の効果も確かに感じる。砥青の飲んだ感想を聞かせて欲しい」

 紫水の言葉に砥青は頷く。

「神力が持つ、浄化の力を強めるような効果を感じます」
「体内で瘴気と反発するような感じは?」
「そういえば、ありませんね」
「なるほど。患者に負担も少なそうだな。飲んだ者の浄化を強める効果なら、神力が低い者に飲ませた場合の効果も知りたいし――」
「紫水様……」

 思考に入り込みかけた紫水を砥青が止め、はっとしたように紫水が白麗と香世を見た。

「申し訳ない。つい職業柄、悪い癖が出たようだ」
「構わない。二人が帰る時には薬草茶を多めに持たせようと思うが、それでいいか」
「差し支えなければ、作り方も教えて欲しいのだが」

 紫水がすかさず言うと、白麗は頷き香世を見る。

「どうする? 香世が嫌なら断っても大丈夫だ」
「いえ。私も父の薬草茶が役に立つならばご協力したいです」
「なら、砥青殿の調子が戻るまで時間は何日かかかるだろう。その間に香世が教えるということでどうだろう」
「それで構いません」
「恩に着る」

 そうして、約束を取り付け、香世と白麗は砥青のいる部屋を後にした。
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