【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚

乙原ゆん

文字の大きさ
64 / 65

六十四.生贄娘、祭を見る

しおりを挟む
「おかえりなさいませ! 主様!」
「おかえりなさいませ! 香世様!」

 白麗の屋敷に帰ると出迎えてくれた楓と桜に、香世の頬も緩む。

「ただいま帰りました」
「留守中、変わりはなかったか?」

 白麗が尋ねると、二人は頷く。

「万事つつがなく」
「地上も天気に恵まれて豊作のようです」
「なによりだ」

 白麗はそう言うと、香世の方に目を向ける。

「疲れただろう。香世は先にゆっくり休むといい」
「白麗様はどうなさるのですか?」
「留守中の話を聞いてから、私も休む。そうだ。楓。桜。香世の部屋は私の方に移動することになった」

 その一言に、楓と桜の歓声が上がる。

「主様、おめでとうございます!」
「やっとですね、主様!」
「香世様、末永くお願いします」
「香世様、後で詳しいお話をお聞かせください」

 興奮する二人に、白麗はやや呆れたように言う。

「二人とも覗いておっただろうに」
「確かに見ていましたが」
「こういうことは直接伺うことが大事なのです」
「そうか?」

 力説する二人に、白麗は苦笑気味だ。
 香世は三人のそんなやりとりに愕然とする。

「その、見ていたというのは……?」

 あっという顔をした白麗が、香世を見る。

「主様、話しておられないのですか?」

 白麗に尋ねる桜に対し、楓が説明してくれる。

「……香世様、あの場には私達の本体とも言える木があるので、近くで起きたことは見聞きできるのです」

 その言葉は、会話から予想できたものだったが、やはり直接言われると衝撃的だ。
 真っ赤になっているだろう顔を隠そうと俯いて両手で顔を覆う香世に、楓と桜は驚いた声を上げる。

「香世様⁉」
「大丈夫です! 香世様!」
「そうです! 私達、決定的なところは白麗様の影で見えておりませんから!」
「うむ、我が眷属とはいえ、見せるわけにはいかぬからな」

 焦る二人に対して、白麗の声はどこまでも落ち着いていて、そのことがなんだか腹立たしい。

「もう、主様!」
「その言い方では、香世様は怒ってしまわれますよ」

 香世のことを心配する楓と桜に、白麗がしゅんと項垂れて謝罪する。

「……その、香世、悪かった」

 顔を上げられないままに、香世は尋ねる。

「本当に、楓さんと桜さんは見ておられませんか?」
「はい」
「本当です」

 頷く二人にほっとしていると、白麗が言う。

「香世、すまない。だから、顔を上げておくれ」

 優しい手つきで髪を撫でられ、香世はつい顔を上げてしまった。
 ほっとした表情の白麗が目に入り、香世も微笑んでしまう。

「許してくれるか?」
「はい。ですが、今度からは、きちんとそういうことは教えてください」
「何をだ?」
「その、楓さんと、桜さんが見ている、とか」
「わかった。接吻の時に、言えばいいのだな」

 頷く香世に白麗は言う。

「なら、今また接吻をしてもいいか?」
「え……?」

 驚いた後、香世は真っ赤になって言う。

「なんでそんな話になるのですか!」
「真っ赤になった香世がとても可愛いからだ」
「なっ……」

 絶句する香世に白麗はささやきかける。

「そんな表情をされては、逆効果なのだが……」

 再び真っ赤になって顔をうつむけ手で覆った香世を見て、白麗が言う。

「なっ、今度は、ちゃんと聞いたぞ!」
「主様、そういうのはお二人の時になさるのです」
「主様、女心に疎かったのですね」
「うぐっ……」

 二人の言葉に衝撃を受ける白麗を見て、楓が言う。

「主様、先にお仕事をお願いします」
「そうですね。香世様も落ち着かれる時間があった方がよろしいかと」

 白麗は少し躊躇った後に香世に囁く。

「香世、また後でな。すぐに戻る。部屋で待っていてほしい」

 なんとか頷いた香世を見て、白麗は楓に向き直る。

「楓、あちらで話を聞こう」
「かしこまりました。桜、香世様を頼みます」
「もちろんです! 香世様、どうぞこちらへ」

 そうして、馴れているはずの白麗の屋敷なのにどうしてか落ち着かない思いをしながら、香世は白麗の部屋へと案内されるのだった。



  *  *  *



 白麗の屋敷に戻って、そう日をおかず、秋の大祭が執り行われた。
 大祭と言うだけあり、数日前から白麗は身を清め、準備をしていた。
 今日は朝から祝詞を捧げ、それが終わると地上に降りるため、香世も白麗の手によって、人には見えないようにしてもらっていた。

「これで、村の人達からは姿が見えないのですか?」
「そうだ。私も毎年、こうして村に降りていた」
「見に来てくださっていたのですね。でも、白麗様だけなら、お姿を隠されなくてもよかったのではないですか? 紫水様のところでは、お姿を特に隠されていなかったですよね」

 紫水の所では気にせず人前に出ていたのに、どうしてだろうと白麗に尋ねると、白麗は少し答えづらそうにしながらも教えてくれた。

「私の気持ちの問題だ。人の姿では目立ちすぎるし、獣の姿では、人と近くなりすぎる。親しくすることが悪いことではないが、皆、私より早くに旅立っていってしまう。親しき者を見送り続けるのは、つらくなる時があるのだよ」
「そう、だったのですか……」

 白麗の気持ちを思って言葉を無くす香世に、白麗は微笑みかける。

「だが、これからは、香世がいる。落ち着いたら、久々に彼らと共に祭を楽しんでもいいかもしれんな。……香世は、ずっと共にいてくれるだろう?」

 躊躇いがちに尋ねる白麗に、香世は頷いた。

「白麗様が嫌と言われない限り、ずっと」
「うむ……。だが、今日は、このままでいこう」
「わかりました」

 そして、香世は白麗と共に地上へと向かった。
 
 
 いくつかの村を白麗によって周り、最期に香世が暮らしていた村に到着する。
 ここも他の村同様、白麗を祀る神社は清められ、村で作った野菜や米が捧げられていた。
 違うのは、皆、どこか影のある表情をしているところだ。

(何か、問題があったのかしら……)

 香世が心配していたところ、ちょうど村長の奏上が始まった。

「いつも村をお守りくださっている白麗様。そして柱様。お二方のおかげで、無事、今年はこのように豊作となりました。世の平安と、この村のますますの発展をここに祈願いたします」

 村長の奏上が終わると、その場で宴会が始まった。

「今年はどうなることかと思ったけれど、こうして結果的には無事に豊作になってよかった、よかった」
「それは、そうだけれど。あの後すぐに、雨は上がってしまって、香世ちゃんが、犠牲になる必要はあったのかねぇ」
「何を言う。雨が上がったのは、香世ちゃんのおかげだろう」
「そうだけどねぇ。せっかくなら、皆で喜び集ったじゃないか」

 豊作を喜ぶ声と共に、そんな声も聞こえてくる。

(そっか。私が柱様になってからすぐに雨が上がったから……)

 不要な犠牲だったのかもしれないと、思われていたのか。
 香世が頷いていると、隣でむっとした顔の白麗が言う。

「村長に、香世は私の花嫁として迎えることになったから、心配はいらぬと言っておかねばならなかったな」
「そんなことができたのですか」

 驚く香世に、白麗は言う。

「夢枕に立つだけだ」
「夢枕に……。でも、わざわざ言わなくても……」
「それに、今後は、柱様という生け贄も不要と言っておかねばならぬ」

 疑問を浮かべる香世に、白麗は続ける。

「私には香世がいればいい。他に贄は不要だ」

 それに、と続ける。

「若い男が生け贄としてやってきてみろ。私は、香世が目移りせぬか心配で何も手が着かなくなりそうだ」

 真剣に言う白麗に香世は零れそうな笑いを抑え、口元を抑える。

「柱様は、若い女性かもしれませんよ?」
「香世がいるのにか? 人間は変わっているのだな」

 目を丸くした後、すぐに顔をしかめた白麗に、香世は今度こそ声を立てて笑うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...