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第19章
しおりを挟む「香、待てよ!」
「……律?」
「何も聞いてないのか?」
「だから何も知らない。どうして律がここにいるの? 父や祖父のこと、知ってたの?」
「ああ、パーティーで何度か会ったことがある。」
「律って……藤原なの?」
「そうだ。黒木は母さんの旧姓だよ。」
「そうだったんだ……。でも、律って付き合ってた人がいたよね? 同じ部署の長谷川さん。」
「それは昔の話だろ。」
「律も知ってると思うけど、私、結婚に興味ないの。だから……律の方から断ってほしい。」
「俺は、香となら結婚してもいいと思ってる。」
「そんな素振り、今まで見せなかったじゃない。」
「それは香が結婚してたからだろ。」
「でも、私じゃなくてもいいでしょう?」
「本当に、気づいてないのか?」
「……何が?」
「とにかく、結婚を前提に付き合うってことでいいな。」
「ちょっと、待ってよ!」
律は一方的に話を終わらせると、そのまま去って行った。
本音を言えば、今は誰とも付き合いたいなんて思えない。
それに、律には、以前付き合っていた彼女がいた。私にとってはそれがトラウマだ。
まさかとは思うけど、律も大和と同じ。
長谷川さんと結婚できない理由があって、家柄の似た私をカモフラージュにしてる……?
そんな風に考えたくないけど、大和と重なるところが多すぎる。
律と長谷川さんは、社内でも有名な美男美女のカップルだった。
あんなきれいな人と付き合ってた人が、私なんてありえない。
やっぱり、律にも長谷川さんと結婚できない事情があるんだろうな。
疲れたな。
私は、好きな人と、ちゃんと気持ちを通わせて結婚がしたい。
でも律とは、会社の同僚。しかも社内恋愛の過去もある。
結婚なんて、現実的じゃない。
その日は和也にだけ連絡を入れて、家に帰った。
それからも何度か律から連絡がきたけど、すべて無視した。
信用できない。……私の考えすぎだろうか?
でも、律にはなにか裏があるような気がしてならない。
だから、こっちからは何もしないで、律の方から諦めてくれるよう仕向けよう。
今さらまた、大和みたいに長谷川さんとのラブラブな姿を見せられるのはもうごめんだ。
しかも大和の待ち伏せも続いている。律とも同じ会社。
父が言っていた通り、転職を考えようかな。
鈴との仕事は、本当に楽しかったのにな。
それから私は、律に気づかれないよう、できるだけ存在を消すようにして働いた。
律が私の部署に現れると女子社員たちが騒ぎ出す。その隙にトイレへ逃げ込む。
退勤は定時ぴったり。残業はしない。
鈴には、大和の件でお金を借りに来るかもしれないからと伝えると、
「だったら、早く帰った方がいいよ」と言ってくれた。
私にとっては、渡りに船だった。
そんな生活が続いて、もう三ヶ月。
その間に、私はこっそり転職活動をして、小さな雑貨会社から内定をもらった。
名字は母の旧姓を使っているから、バレることもない。
本当は今の会社を辞めたくなかった。
でも、もう限界だった。
父と和也には、まだ大知のトラウマが残っていて、お見合いは考えられないと伝えると、
「じゃあ、保留にしておこう」と言ってくれた。
保留? どういうこと?
このお見合い、断れないってこと? だったら
逃げ切るしかない。
転職のことは父にも和也にも言わなかった。
引っ越すわけでもないし、きっとバレない。
退職までは有給を使って休むことにした。
鈴には、大和の待ち伏せが原因だと本当のことを伝えた。
「そっか……寂しくなるなぁ。律にも言わないでって言っていい?」
「お願い。」
「でも、律も寂しがると思うよ?」
「それはないよ。それより、律と長谷川さんって、どうして別れたか知ってる?」
「うーん、律から直接聞いたわけじゃないけど、結婚の話があったけど、家の反対があったとか……なかったとか。」
「え? 結婚の予定があったの?」
「噂だよ。気になるなら、律に聞いたら?」
「噂ってのはわかってるけど……どれくらい付き合ってたの?」
「たしか、入社してから3年くらいって聞いた気がする。」
「へぇ……。」
私の勘がまた働いた。やっぱり、律にも何かあるんだ。
お見合いは、やっぱり断ってよかったのかもしれない。
「急にどうしたの? 元カノの話なんて。」
「……なんか気になって。」
「そっか。今はもう別れてるって話だけどね。」
「お似合いのカップルだったと思う。」
「うん、長谷川彩葉って名前も美人っぽいもんね。」
「ほんと、それ。」
「でも私は香派だな! そのスタイルと顔、超タイプ! その胸、半分ちょうだい!」
鈴は、いつも私を笑わせてくれる。唯一、私を肯定してくれる存在。
離れるのは、本当に寂しいけど――仕方ない。
だけど――鈴の話からすると、律と長谷川さんの間には、まだ何かあるのかもしれない。
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