嘘つきは泥棒の始まり〜裏切りの代償〜

HARUKA

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第20章

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それから半年が過ぎても、私は和也にも誰にも転職したことを話していない。

お見合いの話も自然となくなったようで、ほっとしている。

和也から「彼女になってほしい」というメールも来ないし、大和の待ち伏せもない。

今は、とても穏やかで充実した毎日を過ごしている。

転職先の会社は、和気あいあいとした雰囲気で、楽しく働ける職場だ。

私の指導係である伊藤さんは既婚者で、お子さんのいるママさん。美人で、竹を割ったようなサバサバした性格も私には合っていた。

伊藤さんには、バツイチであることを正直に話している。「夫の浮気が原因です」と。

伊藤さんは、目を大きく見開いて驚いたあと、笑ってこう言った。

「え? 吉良さんが? 」

「浮気されそうですよね?…でも、内緒にしてくださいね」

「もちろん!吉良さんが浮気されるなんて、元旦那さんは見る目がないのね」

「そうなんですかね。今は吹っ切れて楽しいので別れてよかったです。」

伊藤さんはとても優しくて、お弁当を分けてくれたり、仕事も丁寧に教えてくれる。

私はまだ企画のアシスタントだから任される仕事は少ないけれど、それでもやりがいを感じている。

たまに開かれる「独身女子会」にも誘ってくれて、まるで学生時代に戻ったような気分だ。

あの大和との結婚生活は、何だったのだろう。

ふとした瞬間に、あの出来事が頭をよぎることはある。でも、以前ほど頻繁ではなくなった。

律のことも同じだ。

連絡先はすべて消した。同じ会社の同僚で、私の家族のことも知っていたのに、何も言わずにお見合いに現れるなんて、今考えても信じられない。

彼は、元カノの長谷川さんとは結婚を考えていたはず。まさか、大和と同じように子どもができたけど堕ろした…なんてこと、あるのだろうか。

…だめだめ。大和のことがまだトラウマとして残っている。

そんなことを考えていたある日、職場のムードメーカー・北沢さんが合コンに誘ってきた。

「合コン、行かない? かなりレベル高いんだよ。藤原コーポレーションの人たち!」

私は思わずドキッとした。

「えっ、北沢さんの知り合い?」

「いや、私じゃなくて、大学時代の友達が関係者みたいで。イケメン多いらしいよ!」

「そ、そうなんだ…でも、私は遠慮しておくね」

「え~っ! 吉良さんが来たら、みんな大喜びするよ?」

「ありがとう。でも、北沢さんが行ったほうがもっと喜ばれるよ」

北沢さんは、笑顔が素敵な女性だ。きっと、いい人と巡り会える。私は、つい母のような目で彼女を見てしまう。

気がつけば、転職してからもう1年が経っていた。

和也とは何度か食事をしたけれど、律や転職のことは一切話題に出なかったから、彼は何も知らないのだろう。

今日も女子だけの飲み会に誘われて、居酒屋でわいわいとお酒を飲んでいた。

「こんな楽しい生活があるんだなあ」なんて思いながら、日本酒を飲んでほろ酔い気分でマンションに帰ると、ロビーに誰かが座っていた。

「こんな時間に…誰だろう?」

そう思って素通りしようとしたら──

「香!」

聞き覚えのある声に、思わず振り返った。

「律? えっ、なんで…?」

「和也から住所を聞いた」

「アイツ…この前は何も言ってなかったのに。和也と連絡取ってるの?」

「いや、俺は取ってない。けど、弟と仲がいいみたいでな」

「そうなんだ…。で、今日はどうしたの?」

「香、酔ってる?」

「うん、会社の子たちと飲んでたから」

「いきなり退職したって聞いて驚いたよ」

「ごめんね。…元夫に待ち伏せされて、疲れちゃって」

「俺に相談してくれればよかったのに」

「なんで?」

「だって、婚約者だろ?」

「…は?」

あまりの突然の言葉に、変な声が出た。

「聞いてなかったのか?」

「聞いてないよ…!」

「そろそろ式場も決めないとな」

「ちょ、ちょっと待って! 付き合ってもいないのに、結婚なんてできないって言ったよね?」

「俺は構わないって言ったじゃん」

「長谷川さんはどうするの?」

「またその話かよ。別れてるよ」

「でも、結婚の話もあったんでしょう? だったら彼女と結婚するべきじゃないの?」

「しないよ」

「どうして?」

「香には関係ないだろ」

「関係ないかもしれないけど、好きな人と結婚したほうが絶対に幸せだよ」

「そんなの、わかってる」

「怒らないでよ。ちゃんと話し合ってきなよ」

「…香って、ほんと鈍感で天然だよな。だからあんな男に引っかかるんだよ」

「へ?」

またもや、驚きすぎて変な声が出た。

「だから、私は結婚しないって言ってるの。律だってそうじゃない。長谷川さんとまだ付き合ってて、親の都合で結婚できないから、表向きは私と結婚して、裏で彼女と続けようとしてるんでしょ。そういう魂胆なんでしょ? わかってるんだから!」

「はぁ? …頭、大丈夫か?」

「失礼ね。…それじゃ、おやすみなさい」

律も、大和も…やっぱり信じられない。

もう男なんて、こりごり!

酔った勢いで言いたいことを全部ぶつけて、なんだかスッキリした。

これで、結婚の話もきっと終わり。

長谷川さんと、どうぞお幸せに!









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