21 / 24
第21章
しおりを挟むそれから、律はよくマンションに来るようになった。
「どういうつもりなの?」
「香、誤解してる」
「してないよ。私の直感は外れたことない」
「じゃあ、彩葉に会ってみてくれ」
「律、なんでそんなに結婚にこだわるの? 怪しいよ。それに“彩葉”って呼び捨てしてるし。彩葉さんと結婚したいなら協力する。でも、私とは結婚しないから」
「……香の頭どうなってんだ? 弟くんも言ってたよな、香のトラウマはヤバいって」
「また和也? その話はやめて。律はどうしたいの? 本当に彩葉さんと結婚する気?」
「はあ……俺ってそんなに魅力ない?」
「ない。イケメンだな~とは思うけど、イケメンには女がいる。大和みたいなのはもう勘弁」
「だからさ、ちゃんと話を聞いてよ」
「聞いてるけど、何が言いたいのかサッパリ。もう疲れたし、早く帰って映画観たい」
「じゃあ、俺の話は香の部屋で聞いてくれ」
「話さない」
エレベーターに乗ろうとした瞬間、律が無理やり乗り込んできた。
「ちょっと、なんで入ってくるの?」
「話が進まないし、“興味ない”って言われてムカついた」
「……なんか、いつもと違うね。どうしたの?」
「香、お前って本当、悪い女だよ」
「それはこっちのセリフ。私を騙そうとしたのは律でしょ」
「もういい加減にしろ。俺は彩葉とは別れてる」
「……わかった。じゃあ部屋で話を聞く。でも何も作れないけどいい?」
「構わない」
律は部屋の中を見回しながら入ってきた。
「すごいな、この部屋」
「祖父が持ってる部屋よ。ソファに座ってて」
「ありがとう」
冷蔵庫には昨日の残り物しかなかったけど、ビールと冷凍食品をアレンジして出してみる。久しぶりの料理が少し楽しい。
「お待たせ~。残り物だけど、どうぞ」
「十分すごいよ。ビールでいい?」
「うん、ありがとう。先に食べてて。着替えてくる。律もスーツ脱いで楽にして」
「勝手にさせてもらうよ」
私が着替えてリビングに戻ると、律は私のつまみを美味しそうに食べていた。
「お待たせ。乾杯しようか」
「乾杯~」
「香の料理をこれから毎日食べられると思うと、嬉しいな」
「だから、その相手は私じゃないでしょ」
「その話だけどさ、香が勝手に妄想してるだけだよ。彩葉とはちゃんと別れてるし、結婚の話もしてない。彩葉には彼氏がいる」
「ふ~ん、そうなんだ」
「……興味なさそうだな」
「興味ないというか、二人のことは私には関係ないし」
「そう? じゃあ、結婚しよう」
「……は? 意味がわからない」
「香、俺、どれだけ待ったと思ってる? 入社した時からずっと好きだった」
「嘘ばっかり」
「本当だよ。嘘じゃない。俺は香の家業のことも知ってる。俺の家も似たようなもんだし。そんな家に“婚約者がいますが不倫してます”ってなったら、どうなる? 香のおじいさんに海に沈められるよ。元夫もそうだったんだろ? 金を借りに来て、怒られたって聞いたよ」
「おじいちゃんと話したの?」
「香が帰った後に、そういう話になってな。そこで全部知った」
「……そうだったんだ。律の気持ち、わかった。ありがとう」
「え? 振られる流れ?」
「お互いよく知らないままじゃ結婚はできないよ」
「だったら付き合おうよ。俺、ここに住むから」
「いきなり何を……?」
「そうしないとまた逃げるだろ。どれだけ俺を待たせるんだよ。そんな格好して、ブラもしてないし」
「えっ、バレた? 和也といた時はいつもこうだったから、つい……」
「俺は嬉しいけどな」
「長谷川さんのバディはすごそうだよね」
「またその話? 気になるならお前だって大和とやってたじゃん」
「うん、やった。でも私に対して愛情はなかった」
「……あ、もしかして子供ができたとか?」
「違うし。結婚は考えてなかった」
「ふーん。なんか酔ってきた。眠くなってきたし、ベッドルームに布団あるから勝手に寝て。おやすみ~」
ベッドルームに入ると、律もついてきた。
「クイーンサイズか」
「うん。結婚してた時も同じサイズだった」
「俺も一緒に寝る」
「勝手にして。おやすみ~」
酔いが回って、私はそのまま眠ってしまった。
35
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる