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海の章
零、始祖の龍
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海の章
零、「始祖の龍」
――世を恨み、我が身を恨んで、幾星霜。
これは『天地開闢廉書』にも書かれていない創世よりもはるか昔の物語。
世界には、一匹の龍がいた。龍は風を操り、大地を震わせ、雨を呼んで 火を吐いた。広大な海に住まい、たった一匹で永久にさえ思える時を生きていた。
毎日、寂しいと吠えた。だが、答えてくれる者はいない。龍は何度でも泣き続けた。
次第に、龍はひとつの疑問を抱き始めた。
龍のように魔力を持たない植物にも、言葉を解さない動物にも、必ず「つがい」ができて、子孫を残し果てていく。そうして世界は龍の雨と風と土と火を糧にして、どんどんと命を繋いでいく。
龍には、その輪廻の輪がない。「つがい」はおらず、子孫も残せず、龍は一匹で生きている。
――なぜだ? 誰がこの身を創った?
龍の疑問は膨らむばかり。
「我が身は衰えず、永遠に孤独に生き続ける。これ以上の苦しみがあろうか。誰ぞ答えてくれ……私にこの身と力を与えた答えを……――」
千年ほど唱え続けたある日、「では答えよう」と龍に話しかける声があった。龍は喜びでむせび泣く。
ふわふわと宙に浮いた『その者』は猿に似ていましたが、毛むくじゃらではなく、つるりとした肌をしていた。しかも他の生き物とは違って顔以外の露出が少ない。
はて、奇妙な生き物だと龍は首を傾げるが、『その者』は龍にこう言った。
「其方は龍神。生物、植物を超越した森羅万象を司る者なり。火を吐き、水と風を意のままに操り、大地を震わせる。神は孤独で良いのだ。孤独でなければならぬのだ。ゆえに其方は輪廻の輪には入ることは不要。心があるからつらいのならば、心は捨ててしまえ」
初めて言葉を交わした『その者』は龍を尖った長い爪で指さして、消えた――。
龍は絶望した。
『神』と言われた存在は、孤独のまま永遠を生きなければならぬ。
あまりの仕打ちだ。
我はただ……誰かと共にある時間を夢見ただけなのに。
龍は泣いた。その涙は雨となって、何日も、何日も続いた。
やがて河が氾濫し、海が溢れ、生き物たちが押し流されて死んでいく。
龍は孤独になくことすら許されぬと知った。
涙で潰えた命は数知れず。
やがて、龍は己の有り余る力と孤独な世界を恨む邪神へと変わっていった――。
萌える緑よりも濃厚な色だった鱗は見る影もなく真っ黒に、眼は血の涙を流しすぎて視力を失い、空を飛ぶ力も弱くなったので鱗を突き破って鳥のように翼を持った。
狂笑は止まらず、わずかに残った良心が両手足に残っていた宝玉の力で新たな世界を創ってやろうと囁いた。
「我が神ならば不可能はない」
龍はまず青い宝玉を空に置いた。ここに住まう新しい民は風を操るように宝玉に力を込めた。
次に大地。命の宝庫であるここには黄金の石を。そして龍が初めて言葉を交わした生き物の姿に似せて、石には火と地の力を込めた。
最後に海。創世より龍の住処であったここには、海でだけ生み出される宝玉「真珠」に可憐な色を付けて水の力を与えた。
最後の無色透明な石は、『言葉を交わした者』に敬意を払い、一定の確率で生まれる龍の力無き者が集う場所の支えにした。
三つの龍の世界と、一つの龍ではない世界――四世界に全魔力と生命力を費やして、龍は眠ることにした。いつか宝玉が揃い、眠る我が身の孤独を知る者が現れたら、今度こそ輪廻の中に招き入れられるように――。
やがて龍が創った民達は、悠久の眠りについた龍を「始祖の龍」と呼び、最初に言葉を交わした者が『天地開闢廉書』を綴り、各界にちりばめたという。
壱話へ
零、「始祖の龍」
――世を恨み、我が身を恨んで、幾星霜。
これは『天地開闢廉書』にも書かれていない創世よりもはるか昔の物語。
世界には、一匹の龍がいた。龍は風を操り、大地を震わせ、雨を呼んで 火を吐いた。広大な海に住まい、たった一匹で永久にさえ思える時を生きていた。
毎日、寂しいと吠えた。だが、答えてくれる者はいない。龍は何度でも泣き続けた。
次第に、龍はひとつの疑問を抱き始めた。
龍のように魔力を持たない植物にも、言葉を解さない動物にも、必ず「つがい」ができて、子孫を残し果てていく。そうして世界は龍の雨と風と土と火を糧にして、どんどんと命を繋いでいく。
龍には、その輪廻の輪がない。「つがい」はおらず、子孫も残せず、龍は一匹で生きている。
――なぜだ? 誰がこの身を創った?
龍の疑問は膨らむばかり。
「我が身は衰えず、永遠に孤独に生き続ける。これ以上の苦しみがあろうか。誰ぞ答えてくれ……私にこの身と力を与えた答えを……――」
千年ほど唱え続けたある日、「では答えよう」と龍に話しかける声があった。龍は喜びでむせび泣く。
ふわふわと宙に浮いた『その者』は猿に似ていましたが、毛むくじゃらではなく、つるりとした肌をしていた。しかも他の生き物とは違って顔以外の露出が少ない。
はて、奇妙な生き物だと龍は首を傾げるが、『その者』は龍にこう言った。
「其方は龍神。生物、植物を超越した森羅万象を司る者なり。火を吐き、水と風を意のままに操り、大地を震わせる。神は孤独で良いのだ。孤独でなければならぬのだ。ゆえに其方は輪廻の輪には入ることは不要。心があるからつらいのならば、心は捨ててしまえ」
初めて言葉を交わした『その者』は龍を尖った長い爪で指さして、消えた――。
龍は絶望した。
『神』と言われた存在は、孤独のまま永遠を生きなければならぬ。
あまりの仕打ちだ。
我はただ……誰かと共にある時間を夢見ただけなのに。
龍は泣いた。その涙は雨となって、何日も、何日も続いた。
やがて河が氾濫し、海が溢れ、生き物たちが押し流されて死んでいく。
龍は孤独になくことすら許されぬと知った。
涙で潰えた命は数知れず。
やがて、龍は己の有り余る力と孤独な世界を恨む邪神へと変わっていった――。
萌える緑よりも濃厚な色だった鱗は見る影もなく真っ黒に、眼は血の涙を流しすぎて視力を失い、空を飛ぶ力も弱くなったので鱗を突き破って鳥のように翼を持った。
狂笑は止まらず、わずかに残った良心が両手足に残っていた宝玉の力で新たな世界を創ってやろうと囁いた。
「我が神ならば不可能はない」
龍はまず青い宝玉を空に置いた。ここに住まう新しい民は風を操るように宝玉に力を込めた。
次に大地。命の宝庫であるここには黄金の石を。そして龍が初めて言葉を交わした生き物の姿に似せて、石には火と地の力を込めた。
最後に海。創世より龍の住処であったここには、海でだけ生み出される宝玉「真珠」に可憐な色を付けて水の力を与えた。
最後の無色透明な石は、『言葉を交わした者』に敬意を払い、一定の確率で生まれる龍の力無き者が集う場所の支えにした。
三つの龍の世界と、一つの龍ではない世界――四世界に全魔力と生命力を費やして、龍は眠ることにした。いつか宝玉が揃い、眠る我が身の孤独を知る者が現れたら、今度こそ輪廻の中に招き入れられるように――。
やがて龍が創った民達は、悠久の眠りについた龍を「始祖の龍」と呼び、最初に言葉を交わした者が『天地開闢廉書』を綴り、各界にちりばめたという。
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