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第12話 0,01ミリ殺人事件

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 工口こうぐち警部は歯をガチガチ鳴らせて震えていた。その日の東京の気温は氷点下を下回り、朝から降り続ける雨はやがてひょうへと変わる予報だった。

「ご苦労様です」
 築四十年は経っていそうな古いアパートの一室に入ると、朝立あさだち巡査が敬礼で挨拶する。

「仏さんは?」
「こちらに」

 工口は朝立に案内されて、事件現場の部屋へ移動する。

「……何だこの部屋は?」

 そこは異様な空間だった。
 単に散らかっているというだけではない。マシンバイブに電マ、手錠、猿ぐつわ、むちに三角木馬。所謂いわゆる、SMグッズが散乱していたのである。床には使用済みのティッシュや破けたコンドームが落ちている。

「ガイシャは相模さがみ美衣子みいこ、25歳。相当なマゾだったようです」

 相模美衣子の死体はベッドの上で裸の状態で倒れている。首には紐で絞殺された跡がくっきりと残っていた。

「こりゃ行き過ぎたSMプレイで殺してしまった線で決まりだろう。相模美衣子に恋人は?」

岡本おかもと秀人ひでとという男がいますね。ガイシャとは会社の同僚でもあり、アパートの管理人と死体を見つけた第一発見者でもあります」

「じゃあそいつがホシで決まりだ。それにしても寒いな」

 殺人現場の部屋は窓が全開になっていた。窓から雹が入って来ていて、外と変わらない厳しい寒さだ。

「ところがそうはいきません。管理人が現場は内側から鍵をかけられた密室だったと証言しています」

「窓から逃げれるだろ」
「いえ、窓の下は丁度防犯カメラに映る場所なのです。窓からの逃走は不可能です」

「……ギブ!」
 工口は早々に白旗を上げて、肉倉ししくらエリカに電話する。

     ⛄ ⛄ ⛄

「犯人、わかったんだけど」

「……うんエリカちゃん、犯人は僕もわかってるの」

「決め台詞くらい気持ちよく言わせてよね」
 スマホ越しにエリカの不機嫌な声が聞こえる。

「現場は古い建物だし、ドアノブの形状はにぎだま式だよね。
岡本はドアノブにコンドームを装着させたんだ。コンドームには満杯に水が入ってた。水は氷点下の空気に冷やされて凍る。凍りついたドアノブは動かなくなって密室完成。更に水は氷になると体積が増える性質を持つ。コンドームは膨張した氷で破けて床に落ちるってわけ」

「なるほど。水が勃起すると氷になる、と」

 工口のセクハラ発言をエリカは華麗に無視スルーする。

「あとは体当たりでドアを破るときに壁に握り玉をぶつければ、氷は砕ける。窓から入ってくる雹に紛れれば証拠は残らない」

 こうして事件は一件落着。今回も難事件であった。ふぅ。
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