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ベートーヴェンがみてる
第6話
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時計ヶ丘高校・将棋部は危機に瀕していた。
今から二週間前に起きた『首吊り殺人事件』で浜地光男が亡くなったことで、部員の数が最低人数である五人を切ってしまったのである。
「このまま来年まで部員が増えなければ、我が将棋部は廃部にされてしまう。実に由々しき事態だ」
部長の六角計介が眼鏡を押さえながら、深刻な顔で俯いた。
四十畳程の広さの蛍光灯の切れかかった薄暗い部室の中は、陰鬱な空気で満たされていた。
「……確かに浜地先輩がいなくなったことは悲しいですが、どのみち三年生が抜けたら将棋部の部員の数は足りなくなりますよ。それに部長が卒業するまでは部は安泰なんですから、別にそこまで思い詰めなくてもいいじゃないですか」
一年の美里ふみ香が将棋盤を挟んで向かい合っている六角に言う。
「そういう問題ではない。三十年の歴史を誇る我が部の伝統を、俺たちの代で途絶えさせては絶対にならないのだ!!」
六角がセンター分けの髪を振り乱して熱弁する。
「その為にも、文化祭でのパソコン部との対決には必ず勝たなければならないのだがなァ……」
三年の飛田葵も愁いに満ちた表情だ。窓辺に寄りかかりながら前髪をかき上げる仕草が妙に様になっている。
今年の文化祭、将棋部はパソコン部と将棋で対決することが決まっていた。とはいっても、実際に将棋部が戦う相手はパソコン部が作成した将棋ソフトであるが。
将棋部はここでの活躍が新入部員獲得の大きな宣伝になると考えていた。
「でもそれ以前に、本当に文化祭やるんスかねェ?」
そう言うのは二年の金本智也だ。少し伸びた坊主頭を困ったようにポリポリかいている。
そうなのだ。このままいくと、今年の文化祭は中止が濃厚だろう。
というのも、校内でまたしても殺人事件が起きてしまったのだ。
それも、殺されたのはふみ香と同じクラスの生徒、奥田うららだった。
「ふみ香、お前そのとき現場にいたんだろ? 犯人わからないのかよ?」
金本がチラリとふみ香を横目で睨む。
「無茶言わないでくださいよ、金本先輩。警察が調べてわからなかったことが、素人の私なんかにわかるわけないですよ」
確かにふみ香は事件発生時、その場に居合わせていた。事件があったのは、三限目の音楽の授業の最中だった。
「犯人が捕まりさえすれば、文化祭もきっと決行されるんだがなァ」
「その話、詳しく聞かせてくれないか?」
そう言って将棋部の部室に入ってきたのは、背の低いベリー・ショートの髪の女子生徒だった。
「小林先輩!!」
ふみ香は思わず小林声の名を呼ぶ。
小林声。探偵事務所でアルバイトをしているという少女探偵だ。一応ふみ香の一年先輩だが、小柄な体と童顔の所為で小学生くらいに見える。これまでに幾つも殺人事件を解決に導いており、二週間前の『首吊り殺人事件』でも見事に手柄を立てている。ふみ香はその一部始終を間近で見ていた。
「おお、噂の名探偵が事件を調べているとなれば心強いな」
六角が眼鏡を押さえて頷く。
「では美里、さっそく事件の概要を話してくれ」
「待て待て、俺を無視すんな!!」
よく見ると小林の後からもう一人、部室に入ってきた人物がいた。頭を箒のように逆立てた男子生徒だ。ただし、着ているのは時計ヶ丘高校の黒い学ランではなく、灰色のブレザーに赤いネクタイだった。
「…………誰?」
ふみ香はそう言って小林に視線を向ける。
「……さァ?」
「『……さァ?』やあらへんわ!! さっき説明したやろが!! 俺の名は白旗誠士郎。二年。大阪からの転校生や。自分の宿命のライヴァルの名前くらい覚えとけ!!」
「…………」
宿命のライバルどころか、あまり相手にされていないように見える。しかし、白旗は構わず続けた。
「小林ィ、お前この辺りじゃ名探偵だとかもてはやされとるらしいが、俺が来たからにはそうはいかへんで。学園一の名探偵の座を賭けて、いざ尋常に勝負!!」
「……ということらしい」
「……はァ」
ふみ香は今会ったばかりの白旗のことが早くも気の毒になってきた。
「私としては別に学園一の名探偵などと名乗った覚えもないのだが、推理合戦がお望みとあれば受けて立とう。で、勝負の方法は?」
「決まっとる。先に犯人を当てた方の勝ちや!!」
「……わかった。ならば犯人がわかった時点で挙手することにしよう。立会人は将棋部部長の六角さんにお願いする」
六角がレフェリーよろしく、小林と白旗の間に立つ。
「……こちらとしては、名探偵が二人で事件を推理してくれるのなんて願ってもないことだ。この勝負、立ち合わせて貰おう」
「絶対勝つ!!」
白旗は小林を睨みつけ、一人闘志を燃やしていた。
今から二週間前に起きた『首吊り殺人事件』で浜地光男が亡くなったことで、部員の数が最低人数である五人を切ってしまったのである。
「このまま来年まで部員が増えなければ、我が将棋部は廃部にされてしまう。実に由々しき事態だ」
部長の六角計介が眼鏡を押さえながら、深刻な顔で俯いた。
四十畳程の広さの蛍光灯の切れかかった薄暗い部室の中は、陰鬱な空気で満たされていた。
「……確かに浜地先輩がいなくなったことは悲しいですが、どのみち三年生が抜けたら将棋部の部員の数は足りなくなりますよ。それに部長が卒業するまでは部は安泰なんですから、別にそこまで思い詰めなくてもいいじゃないですか」
一年の美里ふみ香が将棋盤を挟んで向かい合っている六角に言う。
「そういう問題ではない。三十年の歴史を誇る我が部の伝統を、俺たちの代で途絶えさせては絶対にならないのだ!!」
六角がセンター分けの髪を振り乱して熱弁する。
「その為にも、文化祭でのパソコン部との対決には必ず勝たなければならないのだがなァ……」
三年の飛田葵も愁いに満ちた表情だ。窓辺に寄りかかりながら前髪をかき上げる仕草が妙に様になっている。
今年の文化祭、将棋部はパソコン部と将棋で対決することが決まっていた。とはいっても、実際に将棋部が戦う相手はパソコン部が作成した将棋ソフトであるが。
将棋部はここでの活躍が新入部員獲得の大きな宣伝になると考えていた。
「でもそれ以前に、本当に文化祭やるんスかねェ?」
そう言うのは二年の金本智也だ。少し伸びた坊主頭を困ったようにポリポリかいている。
そうなのだ。このままいくと、今年の文化祭は中止が濃厚だろう。
というのも、校内でまたしても殺人事件が起きてしまったのだ。
それも、殺されたのはふみ香と同じクラスの生徒、奥田うららだった。
「ふみ香、お前そのとき現場にいたんだろ? 犯人わからないのかよ?」
金本がチラリとふみ香を横目で睨む。
「無茶言わないでくださいよ、金本先輩。警察が調べてわからなかったことが、素人の私なんかにわかるわけないですよ」
確かにふみ香は事件発生時、その場に居合わせていた。事件があったのは、三限目の音楽の授業の最中だった。
「犯人が捕まりさえすれば、文化祭もきっと決行されるんだがなァ」
「その話、詳しく聞かせてくれないか?」
そう言って将棋部の部室に入ってきたのは、背の低いベリー・ショートの髪の女子生徒だった。
「小林先輩!!」
ふみ香は思わず小林声の名を呼ぶ。
小林声。探偵事務所でアルバイトをしているという少女探偵だ。一応ふみ香の一年先輩だが、小柄な体と童顔の所為で小学生くらいに見える。これまでに幾つも殺人事件を解決に導いており、二週間前の『首吊り殺人事件』でも見事に手柄を立てている。ふみ香はその一部始終を間近で見ていた。
「おお、噂の名探偵が事件を調べているとなれば心強いな」
六角が眼鏡を押さえて頷く。
「では美里、さっそく事件の概要を話してくれ」
「待て待て、俺を無視すんな!!」
よく見ると小林の後からもう一人、部室に入ってきた人物がいた。頭を箒のように逆立てた男子生徒だ。ただし、着ているのは時計ヶ丘高校の黒い学ランではなく、灰色のブレザーに赤いネクタイだった。
「…………誰?」
ふみ香はそう言って小林に視線を向ける。
「……さァ?」
「『……さァ?』やあらへんわ!! さっき説明したやろが!! 俺の名は白旗誠士郎。二年。大阪からの転校生や。自分の宿命のライヴァルの名前くらい覚えとけ!!」
「…………」
宿命のライバルどころか、あまり相手にされていないように見える。しかし、白旗は構わず続けた。
「小林ィ、お前この辺りじゃ名探偵だとかもてはやされとるらしいが、俺が来たからにはそうはいかへんで。学園一の名探偵の座を賭けて、いざ尋常に勝負!!」
「……ということらしい」
「……はァ」
ふみ香は今会ったばかりの白旗のことが早くも気の毒になってきた。
「私としては別に学園一の名探偵などと名乗った覚えもないのだが、推理合戦がお望みとあれば受けて立とう。で、勝負の方法は?」
「決まっとる。先に犯人を当てた方の勝ちや!!」
「……わかった。ならば犯人がわかった時点で挙手することにしよう。立会人は将棋部部長の六角さんにお願いする」
六角がレフェリーよろしく、小林と白旗の間に立つ。
「……こちらとしては、名探偵が二人で事件を推理してくれるのなんて願ってもないことだ。この勝負、立ち合わせて貰おう」
「絶対勝つ!!」
白旗は小林を睨みつけ、一人闘志を燃やしていた。
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