愛を伝えられない君にもう一度会えたなら ~エリート警察官はママと娘を守り抜く~

真琴かなめ

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第一章 

Story 2

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しかし、ボディーガードというのは、こんなにも依頼主と一緒にいるものだとは思わなかった。
会議中も、昼食中も、移動も――すべて加藤さんは一緒に行動していた。職務上のことなのだろうが、私はこの人のフルネームしか知らない。
“加藤俊也”、それだけだ。

一度、社長が何気なく「出身はどこなんだ?」と尋ねたことがあった。
「日本のどこかです」と、加藤さんは淡々と答えた。
さすがの社長も閉口し、それ以来、彼のことを何も聞かなくなった。

そんな彼に、私は少し興味を持ってしまった。
これほどの会社のボディーガードなのだから、身元もしっかりしているはずだし、社長が知らないだけで、人事部は把握しているに違いない。私だって、調べようと思えば調べられるはずだ。
そんなことを思いながら、つい彼を観察するように見てしまう。
自分と同じように語らない彼に、親近感でも覚えたのだろうか。

それに、彼が来てから、なんとなく違和感を覚えることが増えた。
それは、私が秘書の仕事と同時に、彼に興味を持ってしまったせいかもしれない。
彼の動きを追っていると、今まで知ろうとしなかったことが、少しずつ目に入ってくるようになった。

先週のことだった。
社長が来客との打ち合わせの直前になって、バタバタと何か書類を探していた。
「このファイル、後でPDFにしておいて」
そう言い残し、いくつかの書類を自分のデスクの上に置いたまま、急ぎ足で部屋を出て行った。

その中の一つに、見慣れない表紙のファイルがあった。
英語でも中国語でもない、どこかスラブ系の言語のような文字。
中には技術図面のようなものが挟まれていて、一見しただけで、いつもの商談資料とは明らかに違うとわかった。

念のためファイル名だけ確認した――「PROJECT:VALKYRIE」。

そのときは、ただの外資系企業との共同開発案件か何かだろうと、深くは考えなかった。
けれど、後から思えば、あれは私が見てはいけないものだった。

社長が戻ってきたのは、十分後くらいだった。
私がそのファイルに触れているのを見て、一瞬だけ、目の色が変わった気がした。

「これは君には関係ない。こっちで処理するから」
そう言いながら、社長はファイルを封筒に入れてしまった。

本来なら、あんなものが私の手の届くところにあること自体、おかしい。
けれど――たまたま、あのとき社長が急いでいた。
そう、自分に言い聞かせた。

違和感だけが、胸の奥にずっと残っている。
そして、そのタイミングでやってきたこの人……加藤さん。

社長秘書になって、給与も上がり、待遇もとてもよくなった。
この半年で、大学の奨学金の返済も順調に進んでいる。
だから、この仕事を辞めたくない。
なるべく深く考えずに、言われたことだけをしてきた。

でも……根が真面目な自分を、呪いたくなる。
何かがおかしいと感じてしまったら、気になって仕方がない。
けれど、私ごときが何かを知ることなど、できるわけもない。

……でも。

そう思いつつ、同期である人事部の白石あかりにメッセージを送る。
「今日のランチ、一緒にどう?」

そう送ると、あかりからすぐにOKの返信がきた。

時計に目を向けると、お昼まではあと三十分ほど。社長は今、来客中で、加藤さんも部屋にはいない。

小さく息を吐くと、時間まで仕事を片付け、私は秘書室を後にした。
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