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第3章
第72話:苦い安堵
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迎えた5度目の魔力提供。 久しぶりに触れた彼の指先は、以前よりもさらに細く、まるで力を込めれば折れてしまうのではないかと錯覚するほど脆く感じられた。その頼りない重みが、俺の胸を容赦なく締め付ける。
体内にある膨大なエネルギーを、血管の壁を削り取るようにして無理やり引き抜く。
それだけで、常人なら正気を失うほどに苦しいはずなのだ。
それなのに、あの「魔石化」に伴う苦痛はいかほどか。心臓を、魂を、その細胞の一つひとつを無理やり結晶へと変質させる、あの地獄のような呪い。
自分の存在すべてを、温もりを、未来を投げ打ってまで俺を守ろうとした彼の覚悟を思うと、行き場のない怒りと同時に、彼にそんな残酷な選択をさせてしまった自分への、血を吐くような悔しさが込み上げる。
だが、作業を終え、意識を失った彼の顔を覗き込み、俺は微かに震える息を吐き出した。
「……今回は、あまり苦しそうな顔じゃないな」
いつもなら魔力提供の後は、激痛の名残で眉間に深い皺を刻み、苦悶に歪むはずの彼の表情が、今日はどういうわけか穏やかで、柔らかな空気を纏っていた。
覗き込む俺の声は、自分でも驚くほど低く掠れ、ここ最近の刺すような鋭さは消え失せていた。
宝石のように綺麗な瞳が、安堵に揺れてゆっくりと細められる。彼が痛みから解放されているという事実だけで、俺の心はこれほどまでに救われるのか。
そのとき、眠っていたはずの彼が、微かに「……ん」と声を漏らし、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
視界が開け、俺の顔が映った瞬間、彼は弾かれたように目を見開いた。久しぶりに間近で交わす視線。俺の顔に滲み出していたであろう、隠しきれない不器用な優しさ。
あの日、魔石化の提案で喧嘩別れをして以来、彼に見せることができなかった「俺の素顔」に触れたせいだろうか。
彼は、溢れ出しそうな嬉しさを抑えきれないといった様子で、花が綻ぶように自然と柔らかな笑みをこぼしたのだ。
その無防備で、あまりにも愛おしい微笑みを目の当たりにした瞬間、俺の胸の奥は激しい熱量で満たされた。無意識のうちに手が伸び、彼の柔らかな髪を幾度も撫でていた。
とにかく、彼がこうして平穏に、穏やかに笑い続けられる環境を、何としても、何を引き換えにしてでも整えなければならない。 今の「資源」としての扱いではなく、正当な守護者として、領主としての全権限をどう使えば、あの凝り固まった民たちの不信を納得させられるか。
新しい策を一から練り直す決意を拳と共に固め、後ろ髪を引かれる思いを断ち切るようにして、俺はその夜、塔を後にした。
彼を永遠に守り抜くための、新しい未来を必ず掴み取ってみせると、自分自身に誓いながら。
体内にある膨大なエネルギーを、血管の壁を削り取るようにして無理やり引き抜く。
それだけで、常人なら正気を失うほどに苦しいはずなのだ。
それなのに、あの「魔石化」に伴う苦痛はいかほどか。心臓を、魂を、その細胞の一つひとつを無理やり結晶へと変質させる、あの地獄のような呪い。
自分の存在すべてを、温もりを、未来を投げ打ってまで俺を守ろうとした彼の覚悟を思うと、行き場のない怒りと同時に、彼にそんな残酷な選択をさせてしまった自分への、血を吐くような悔しさが込み上げる。
だが、作業を終え、意識を失った彼の顔を覗き込み、俺は微かに震える息を吐き出した。
「……今回は、あまり苦しそうな顔じゃないな」
いつもなら魔力提供の後は、激痛の名残で眉間に深い皺を刻み、苦悶に歪むはずの彼の表情が、今日はどういうわけか穏やかで、柔らかな空気を纏っていた。
覗き込む俺の声は、自分でも驚くほど低く掠れ、ここ最近の刺すような鋭さは消え失せていた。
宝石のように綺麗な瞳が、安堵に揺れてゆっくりと細められる。彼が痛みから解放されているという事実だけで、俺の心はこれほどまでに救われるのか。
そのとき、眠っていたはずの彼が、微かに「……ん」と声を漏らし、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
視界が開け、俺の顔が映った瞬間、彼は弾かれたように目を見開いた。久しぶりに間近で交わす視線。俺の顔に滲み出していたであろう、隠しきれない不器用な優しさ。
あの日、魔石化の提案で喧嘩別れをして以来、彼に見せることができなかった「俺の素顔」に触れたせいだろうか。
彼は、溢れ出しそうな嬉しさを抑えきれないといった様子で、花が綻ぶように自然と柔らかな笑みをこぼしたのだ。
その無防備で、あまりにも愛おしい微笑みを目の当たりにした瞬間、俺の胸の奥は激しい熱量で満たされた。無意識のうちに手が伸び、彼の柔らかな髪を幾度も撫でていた。
とにかく、彼がこうして平穏に、穏やかに笑い続けられる環境を、何としても、何を引き換えにしてでも整えなければならない。 今の「資源」としての扱いではなく、正当な守護者として、領主としての全権限をどう使えば、あの凝り固まった民たちの不信を納得させられるか。
新しい策を一から練り直す決意を拳と共に固め、後ろ髪を引かれる思いを断ち切るようにして、俺はその夜、塔を後にした。
彼を永遠に守り抜くための、新しい未来を必ず掴み取ってみせると、自分自身に誓いながら。
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