虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第6章

第172話:予期せぬ残響

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 最後の一匹を黒炎で焼き尽くし、俺は深く息を吐いた。

 指先から立ち上る魔力の余韻を味わいながら、ゆっくりと手を下ろす。掌にはまだ、大気を焼き切った時の熱い感触が残っている。周囲には魔獣の死骸すら残っていない。俺の魔法は、対象を塵も残さず消滅させるのが基本だからな。

「……ふん、案外脆かったな」

 俺は汚れた袖を払い、周囲を冷めた目で見渡した。そこにいたのは、腰を抜かし、地面に這いつくばったまま震えて俺を見上げる領民たちだ。

 ……ああ、これだ。これこそが、俺がよく知る光景だ。 

 人知を超えた魔導を目の当たりにすれば、凡俗どもは皆、こうして底知れぬ恐怖に支配される。

 この流刑地で、魔法を一切使わず、ただ一人の人間として過ごしていた「あいつ」のことも、こいつらはその「得体の知れなさ」ゆえに不気味がり、危険だと断じて王都へ密告した。魔法を使えば「化け物」と呼び、魔法を隠せば「不気味だ」と追い出す。結局、連中にとって俺という存在は、どちらにせよ排除すべき異物でしかないのだ。

 俺は鼻で笑い、彼らに背を向けて立ち去ろうとした。 

 だがその時だ。

「……あ、ありがとうございます……!」

 震える、だがはっきりとした声が背中に届いた。足を止め、眉を潜めて振り返る。声の主は、先ほどまで魔獣の牙に晒されていた村の男だった。

「レリル様……あなたが、守ってくださったんですね。俺たちを……」

「……は?」

 俺は思わず、間抜けな声を漏らした。何を言っている。俺が今見せたのは、お前たちが最も恐れていた、理不尽なまでの暴力だぞ。

「俺たちは……あんたを誤解していたのかもしれない。いつか何かされるかもしれないって怖くなって……。だから密告して、あんたを追い出したんだ」

 男が涙を流しながら、地面に額を擦りつける。

「それなのに、あんたは戻ってきてくれた。あんなに酷いことをした俺たちのために、その力を使ってくれた……っ」

 男の言葉を皮切りに、あちこちから感謝の声が上がり始めた。 

 彼らの瞳に宿っているのは、かつてのような純然たる拒絶ではない。圧倒的な力への畏怖はあっても、その根底には、自分たちを見捨てず、絶望から救い上げた力への剥き出しの感謝があった。

(……阿呆共が)

 俺は吐き捨てるように毒づき、顔を背けた。  

 「不気味」だと遠ざけられていたレリルという存在が、今、俺の振るった最悪の魔法によって、ようやく彼らの中で「形」を成した。

「驚いたかい、レリル。……力は、使い道次第で希望にもなる。それを彼らに教えたのは、他でもない今の君だ」

 ルクシオが、隣でどこか眩しそうな顔をして俺を見ていた。
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