虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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終章

第179話:別れ

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「魔物は一掃された。僕は……このまま王都へ帰ることにするよ。自分でしでかした事の後始末も残っているしね」

 立ち上がったルクシオは、どこかすっきりとした足取りで僕たちの方を向いた。

 かつて彼を縛り付けていたレリルへの執着や、国への復讐心という名の重り。それらは本物のレリルと刃を交え、魂の約束を交わしたことで、完全に削ぎ落とされたようだった。

「僕が犯した罪も、暴走させた権能の爪痕も、消えるわけじゃない。これからは魔導士長としてではなく、ただの一人の魔導士として、この国が二度とあいつのような犠牲者を生み出さないよう、根底から変えてみせる。……それが、僕がすべき本当の研究だ」

 そう語る彼の横顔には、もう迷いはなかった。あの日、親友を救えず、世界すべてを呪っていた絶望の魔導士長の姿はどこにもない。

「たまには顔を出す。……それも、レリルとの約束だからな。僕がどんな人生を歩んだか、次に会うときのために自慢話を増やさなきゃいけない」

 そう言い残し、ルクシオは王都へと去っていった。

 遠ざかっていくその背中は、孤独な「英雄」のそれではなく、いつか訪れる親友との再会の日を信じ、未来を切り拓くために歩む、一人の誇り高い男の背中だった。

 僕たちはその姿が見えなくなるまで、朝露に濡れた森の中で静かに見送っていた。

 僕とヨハンは、一度あの塔へと戻った。  重い扉を開けると、ひんやりとした空気の中に、見慣れた黒い羽が舞い落ちるのが見えた。

「レイブン!!」

 僕が叫ぶと同時に、窓際にいた黒い影が大きく翼を広げた。 

 光になって消えたと聞いた時は、もう二度と会えないのではないかと肝を冷やしたけれど、レイブンは弾かれたように僕の胸元へと飛び込んできた。

「カァ、カァ!」

 力強く、必死に僕の服を爪で掴み、首を擦りつけてくる。その瞳には、もうあの鋭い黄金の輝きも、神々しい魔力も宿っていない。ただ、僕が知っている、少し寂しがり屋で食いしん坊な「僕の友達」のレイブンだ。

「……よかった、本当に、よかった……っ」

 僕は膝をつき、レイブンの小さな体を手で包み込んだ。本物のレリルが出ていった後の依代がどうなるか不安だったけれど、レイブンは僕を置いていかなかった。 

 腕の中で暴れるようにして、僕の頬を嘴で何度も突き、甘えるように喉を鳴らすその温もりに、僕は堪えきれず涙をこぼした。

「おかえり、レイブン。寂しかったよ」

 レイブンは僕の涙を拭うように翼をバタつかせ、それから安心したように僕の肩に止まって、羽を休めた。その重みが、これからはずっと一緒にいられるのだと教えてくれているようだった。

 再会を喜んでいると、背後から慌ただしい足音が響いた。騎士アイルだ。

「よかった、ここにいましたか! ヨハン様、そしてレリル殿、今すぐ屋敷へ来てください! ぜひお礼を言いたいという領民たちが殺到しているんです!」

「え? 僕に?」

 本物のレリルが魔物を討伐した時の記憶は、不思議と「ただ楽しそうだったな」という感情の残滓があるだけで、具体的な光景はあまり覚えていない。 

 レリルはあんなに領民に恐れられていたはずの「本物の力」を見せたはずなのに、なぜ感謝されているんだろう?

 不思議に思いながらも、僕はヨハンの馬に乗せてもらい、領主の屋敷へと向かうことにした。
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