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第1章:黄金の契約、深紅の契約
第5話:不吉な暗雲
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カイルが新たに伯爵として治めることになった領地、グレンツェ。
王都から馬車で数日の距離にあるその領地は、豊かな森と清流に恵まれていた。カイルは領主としての初仕事を、リアムを伴っての視察から始めることにした。
「見てくれ、リアム。この森を抜ければ、君が気に入ると言っていた湖が見えるはずだ」
馬に跨るカイルは、騎士服を凛々しく着こなし、並んで馬車に揺られるリアムに快活に笑いかけた。領主としての責任感に燃える彼の瞳は、希望に満ち溢れている。
リアムもまた、実家の監視から離れ、カイルと二人で新しい生活を始められる喜びを噛み締めていた。
だが、異変は一瞬だった。
深い森の小道。視察団の列がわずかに伸びた、その死角から。
茂みを裂いて飛び出した黒い影が、カイルの背後から肉薄した。
「カイル様、危ない――!」
リアムの叫びと同時に、鋭い銀光がカイルの脇腹を裂いた。
カイルは瞬時に剣を抜き、刺客を切り伏せたが、黒装束の男は不気味な笑みを残して絶命した。
「……カイル様!」
リアムは馬車を飛び出し、カイルに駆け寄る。
「大丈夫だ、リアム。掠っただけだ」
カイルは顔をしかめながらも、リアムを安心させるように微笑んだ。
すぐに随行の医者が呼ばれ、傷口の処置が行われた。幸いにも傷は深くなく、出血もすぐに止まった。刺客の正体は不明だったが、カイルの政敵が差し向けたものだろうと推測された。
しかし、不可解なことは翌日から始まった。
傷口は完全に塞がっている。炎症も起きていない。それなのに、カイルの体力が目に見えて奪われていった。
「カイル様、お顔の色が……」
「ああ、少し疲れが出ただけだ。すぐに良くなる」
強がるカイルだったが、数日後には剣を握ることさえ困難になり、ついには寝台から起き上がることすらできなくなった。
王都から高名な医師や聖職者が次々と呼び寄せられたが、誰もが首を横に振るばかりだった。
「傷は治っている。毒も検出されない。しかし、カイル様の生命力が……まるで底の抜けた器から水が漏れるように、失われているのです」
「そんな……。どうすれば助かるのですか?」
リアムは震える手でカイルの細くなった手を握りしめる。
「これは、魔術的な呪いです。しかも、ただの呪いではない。術者の命を削って対象を確実に殺す、解呪不能な死の呪詛……」
カイルの白い肌には、刺された箇所を中心に、血管のような不気味な紫色の線が浮き上がり始めていた。
あんなに強かったカイルが、今は息をするのも苦しげに、目を閉じたまま動かない。
「カイル様……嘘ですよね? 私を置いていかないと、守ってくれると、あの日約束したじゃないですか……」
リアムの涙が、カイルの冷たくなった手にこぼれ落ちる。
窓の外には、カイルが愛したグレンツェの空が広がっているが、リアムの世界は一瞬にして真っ暗な深淵へと叩き落とされていた。
神に祈っても、誰にすがっても、答えは返ってこない。
絶望に震えるリアムの背後に、影が音もなく忍び寄っていた。
王都から馬車で数日の距離にあるその領地は、豊かな森と清流に恵まれていた。カイルは領主としての初仕事を、リアムを伴っての視察から始めることにした。
「見てくれ、リアム。この森を抜ければ、君が気に入ると言っていた湖が見えるはずだ」
馬に跨るカイルは、騎士服を凛々しく着こなし、並んで馬車に揺られるリアムに快活に笑いかけた。領主としての責任感に燃える彼の瞳は、希望に満ち溢れている。
リアムもまた、実家の監視から離れ、カイルと二人で新しい生活を始められる喜びを噛み締めていた。
だが、異変は一瞬だった。
深い森の小道。視察団の列がわずかに伸びた、その死角から。
茂みを裂いて飛び出した黒い影が、カイルの背後から肉薄した。
「カイル様、危ない――!」
リアムの叫びと同時に、鋭い銀光がカイルの脇腹を裂いた。
カイルは瞬時に剣を抜き、刺客を切り伏せたが、黒装束の男は不気味な笑みを残して絶命した。
「……カイル様!」
リアムは馬車を飛び出し、カイルに駆け寄る。
「大丈夫だ、リアム。掠っただけだ」
カイルは顔をしかめながらも、リアムを安心させるように微笑んだ。
すぐに随行の医者が呼ばれ、傷口の処置が行われた。幸いにも傷は深くなく、出血もすぐに止まった。刺客の正体は不明だったが、カイルの政敵が差し向けたものだろうと推測された。
しかし、不可解なことは翌日から始まった。
傷口は完全に塞がっている。炎症も起きていない。それなのに、カイルの体力が目に見えて奪われていった。
「カイル様、お顔の色が……」
「ああ、少し疲れが出ただけだ。すぐに良くなる」
強がるカイルだったが、数日後には剣を握ることさえ困難になり、ついには寝台から起き上がることすらできなくなった。
王都から高名な医師や聖職者が次々と呼び寄せられたが、誰もが首を横に振るばかりだった。
「傷は治っている。毒も検出されない。しかし、カイル様の生命力が……まるで底の抜けた器から水が漏れるように、失われているのです」
「そんな……。どうすれば助かるのですか?」
リアムは震える手でカイルの細くなった手を握りしめる。
「これは、魔術的な呪いです。しかも、ただの呪いではない。術者の命を削って対象を確実に殺す、解呪不能な死の呪詛……」
カイルの白い肌には、刺された箇所を中心に、血管のような不気味な紫色の線が浮き上がり始めていた。
あんなに強かったカイルが、今は息をするのも苦しげに、目を閉じたまま動かない。
「カイル様……嘘ですよね? 私を置いていかないと、守ってくれると、あの日約束したじゃないですか……」
リアムの涙が、カイルの冷たくなった手にこぼれ落ちる。
窓の外には、カイルが愛したグレンツェの空が広がっているが、リアムの世界は一瞬にして真っ暗な深淵へと叩き落とされていた。
神に祈っても、誰にすがっても、答えは返ってこない。
絶望に震えるリアムの背後に、影が音もなく忍び寄っていた。
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