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第1章:黄金の契約、深紅の契約
第7話:影からの誘惑
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リアムは息を呑み、ゆっくりと鏡の方向へ顔を向けた。
そこに映っていたはずの自分の姿は消え、代わりに鏡の中から一人の男が歩み出ようとしていた。
漆黒の外套を引きずり、灰色の長い髪を揺らすその男――悪魔ヴォルガスは、重力を無視するかのように優雅な足取りで、現実の世界へと這い出してきた。彼はまるですべての罪を赦す慈悲深い司祭のような、穏やかで美しい微笑みを湛えてリアムの前に跪いた。
「おや、可哀想に。そんなに泣かないで、愛らしい子。君のその綺麗な瞳が、悲しみで濁ってしまうのは忍びない」
「……あ、なたは……?」
リアムは恐怖で喉を鳴らしたが、ヴォルガスの放つ異様な威圧感に縛り付けられ、後退りすることすらできない。ヴォルガスは細く長い指を伸ばし、リアムの頬を伝う涙をそっと掬い取った。その指先は、凍りついた氷細工のように冷たく、触れられた場所から心まで凍てついていくような錯覚を覚える。
「僕はね、君のように純粋で、美味しそうな絶望を抱えた魂が大好きなんだ。神様は天界でのお仕事がお忙しくて、君のような小さな存在の悲鳴までは届かないようだけど……僕なら、君の願いを今すぐにでも叶えてあげられるよ」
ヴォルガスはベッドで横たわるカイルを一瞥し、慈しむように目を細めた。
「ああ、酷い呪いだ。人間が作ったにしてはなかなかの傑作だが、僕にとっては子供の悪戯も同然だよ。明日には彼を元気にし、再び君の名を呼ぶようにしてあげよう。……そう、僕と『契約』さえしてくれればね」
「契約……? 本当に、カイル様を助けてくれるの……?」
リアムは、ヴォルガスの冷たい腕を必死に掴んだ。
神が助けてくれないなら、悪魔に魂を売ったって構わない。カイルがいない世界で正しく生きるよりも、カイルがいる世界で地獄に落ちる方が、よっぽど救いがあると思えた。
ヴォルガスは満足げに喉を鳴らし、リアムの耳元に死神のような冷たい吐息を吹きかけた。
「ああ、もちろんだよ。彼を死の淵から引きずり戻してあげよう。だがね、リアム。運命を書き換えるには相応の『代償』が必要なんだ。本来なら、君の一生を丸ごと貰い受けるところだけれど……」
ヴォルガスはリアムの濡れた睫毛を愛おしそうに撫で、甘い毒を含んだ声で囁き続ける。
「あまりに可哀想な生贄だ。特別に、負けてあげよう。たった『一年』だ。その一年間だけ、君の時間を僕に貸してくれないか? その間、君は何も考えず、何も苦しまなくていい。ただ僕に身を委ねるだけでいいんだ」
「一年……? たった一年で、カイル様が助かるの……?」
「そうだ。たったの一年。それで彼は永遠に生き長らえる。……悪い話じゃないだろう?」
ヴォルガスの瞳の奥で、底なしの暗闇が渦を巻いている。リアムはその闇に吸い込まれるような感覚を覚えながらも、カイルの掠れた呼吸を背中に感じていた。
そこに映っていたはずの自分の姿は消え、代わりに鏡の中から一人の男が歩み出ようとしていた。
漆黒の外套を引きずり、灰色の長い髪を揺らすその男――悪魔ヴォルガスは、重力を無視するかのように優雅な足取りで、現実の世界へと這い出してきた。彼はまるですべての罪を赦す慈悲深い司祭のような、穏やかで美しい微笑みを湛えてリアムの前に跪いた。
「おや、可哀想に。そんなに泣かないで、愛らしい子。君のその綺麗な瞳が、悲しみで濁ってしまうのは忍びない」
「……あ、なたは……?」
リアムは恐怖で喉を鳴らしたが、ヴォルガスの放つ異様な威圧感に縛り付けられ、後退りすることすらできない。ヴォルガスは細く長い指を伸ばし、リアムの頬を伝う涙をそっと掬い取った。その指先は、凍りついた氷細工のように冷たく、触れられた場所から心まで凍てついていくような錯覚を覚える。
「僕はね、君のように純粋で、美味しそうな絶望を抱えた魂が大好きなんだ。神様は天界でのお仕事がお忙しくて、君のような小さな存在の悲鳴までは届かないようだけど……僕なら、君の願いを今すぐにでも叶えてあげられるよ」
ヴォルガスはベッドで横たわるカイルを一瞥し、慈しむように目を細めた。
「ああ、酷い呪いだ。人間が作ったにしてはなかなかの傑作だが、僕にとっては子供の悪戯も同然だよ。明日には彼を元気にし、再び君の名を呼ぶようにしてあげよう。……そう、僕と『契約』さえしてくれればね」
「契約……? 本当に、カイル様を助けてくれるの……?」
リアムは、ヴォルガスの冷たい腕を必死に掴んだ。
神が助けてくれないなら、悪魔に魂を売ったって構わない。カイルがいない世界で正しく生きるよりも、カイルがいる世界で地獄に落ちる方が、よっぽど救いがあると思えた。
ヴォルガスは満足げに喉を鳴らし、リアムの耳元に死神のような冷たい吐息を吹きかけた。
「ああ、もちろんだよ。彼を死の淵から引きずり戻してあげよう。だがね、リアム。運命を書き換えるには相応の『代償』が必要なんだ。本来なら、君の一生を丸ごと貰い受けるところだけれど……」
ヴォルガスはリアムの濡れた睫毛を愛おしそうに撫で、甘い毒を含んだ声で囁き続ける。
「あまりに可哀想な生贄だ。特別に、負けてあげよう。たった『一年』だ。その一年間だけ、君の時間を僕に貸してくれないか? その間、君は何も考えず、何も苦しまなくていい。ただ僕に身を委ねるだけでいいんだ」
「一年……? たった一年で、カイル様が助かるの……?」
「そうだ。たったの一年。それで彼は永遠に生き長らえる。……悪い話じゃないだろう?」
ヴォルガスの瞳の奥で、底なしの暗闇が渦を巻いている。リアムはその闇に吸い込まれるような感覚を覚えながらも、カイルの掠れた呼吸を背中に感じていた。
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