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第1章:黄金の契約、深紅の契約
第8話:契約の血痕
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「……わかった。契約する。僕の一年をあげるから、カイル様を助けて」
リアムの答えは、震えながらも岩をも貫くような確固たる決意に満ちていた。
一生ではない、たった一年だ。それでカイルが死の淵から戻ってくるというのなら、そんなものはタダ同然の代償に思えた。たとえその一年間、自分が何を失うことになっても、どんな屈辱に塗れることになっても、カイルの命に比べれば羽毛よりも軽い。
「後悔はしないと言い切れるかい? これから君が、どれほど愛する男に蔑まれ、憎まれることになっても。君が積み上げてきた信頼も、思い出も、そのすべてが泥の中に捨てられることになっても……」
ヴォルガスは試すように、リアムの顔を覗き込んだ。その瞳の奥には、これから始まる残酷な喜劇への期待が滲んでいる。リアムは震える手で、ベッドの上に横たわるカイルの、熱を失いかけた手をそっと握った。
この手は、あの日、居場所のなかった僕を救ってくれた手だ。公爵家の次男として光り輝いていた彼が、臆病で、何一つ持たなかった僕を「この子がいい」と選んでくれた。あの日、カイル様が僕にくれた光があったから、僕は今日まで生きてこられたんだ。今度は、僕が彼を守る番だ。例えその先に、どんな暗闇が待ち受けていたとしても。
「……いいよ。カイル様を救えるなら、世界中に嫌われたってかまわない。 僕は、彼に生きていてほしいんだ」
リアムがその覚悟を言葉にした、その瞬間だった。
ヴォルガスの顔から、それまでの聖者のような慈愛の仮面が、音を立てて剥がれ落ちた。
「――交渉成立だ。愛しい獲物よ。その言葉、二度と取り消すことはできない」
ヴォルガスの口角が耳元まで裂け、どす黒い歓喜に満ちた、あまりにも醜悪な本性が露わになった。優雅だった声は低く濁り、部屋の温度が一気に氷点下まで下がったかのような凄まじい悪寒がリアムを襲う。その瞳は、もはや獲物の喉笛を裂こうとする捕食者の欲望を隠そうともしていなかった。
「あ、が……っ!?」
ヴォルガスが、リアムの薄いシャツを透かして腹部にそっと手を当てた。その瞬間、皮膚の上から真っ赤に焼けた鉄を押し当てられたような、あるいは沸騰した鉛を流し込まれたような、壮絶な激痛がリアムの全身を貫いた。
「あ、はぁっ、あ……っ! う、あぁぁぁ!」
悲鳴を上げようとしても、喉が麻痺したように引き攣り、掠れた音しか出ない。皮膚の下を、無数の刺を持った黒い鎖が蠢き、無理やり肉を削り、魂の核に直接呪いの文字を刻み込んでいく。リアムの視界は明滅し、あまりの苦痛に指先がベッドのシーツを真っ白になるまで握りしめた。脳裏が真っ白に染まるほどの衝撃の中で、自分の存在が書き換えられていくような恐怖に涙が溢れる。
「はあ……はあ……っ!」
やがて脈打つような激痛が引き、リアムが脂汗を流しながら、震える手で自分の腹部を見下ろした。そこには、どす黒く変色した蛇が絡み合うような、あるいは複雑な呪詛の鎖を思わせる禍々しい紋様――『契約の血痕』が刻まれていた。それは心臓の鼓動に合わせて不気味に明滅し、触れれば今もなお内側から焼けるような熱を放っている。
「くくく……いい気味だ。これより一年間、カイルに関するお前の全行動の主導権は俺がもらう。お前はただ、特等席の檻の中から、自分の肉体が最愛の男を壊していく様を眺めているがいい」
「……え……?」
激痛の中で顔を上げたリアムが見たのは、底知れぬ愉悦に歪んだ悪魔の顔だった。
先ほどまでの「君を救ってあげたい」という優しい言葉など、すべてはこの瞬間の絶望をより深く、より甘くするための罠に過ぎなかったのだ。
取り返しのつかない過ちを犯した。
この悪魔は、単に僕の一年という時間を奪うだけではない。僕の「愛」を人質にして、カイル様を、そして僕たちが共に歩んできた時間を徹底的に破壊することを楽しもうとしているのだ。
そう気づいた時には、もう遅かった。
リアムの意識は、底なしの沼に沈み込むように、暗く冷たい精神の檻へと引きずり込まれていく。
指先が、自分の意志とは無関係にピクリと動く。
瞳に、自分のものではない冷酷な光が宿る。
唇が、僕の知らない誰かの、残酷な笑みを浮かべる。
カイルが生きてくれる喜びと、それを自分の手で汚し、踏みにじらなければならない絶望。
その二つの感情の狭間で、リアムの魂は無残に引き裂かれ、深い闇の中へと消えていった。
リアムの答えは、震えながらも岩をも貫くような確固たる決意に満ちていた。
一生ではない、たった一年だ。それでカイルが死の淵から戻ってくるというのなら、そんなものはタダ同然の代償に思えた。たとえその一年間、自分が何を失うことになっても、どんな屈辱に塗れることになっても、カイルの命に比べれば羽毛よりも軽い。
「後悔はしないと言い切れるかい? これから君が、どれほど愛する男に蔑まれ、憎まれることになっても。君が積み上げてきた信頼も、思い出も、そのすべてが泥の中に捨てられることになっても……」
ヴォルガスは試すように、リアムの顔を覗き込んだ。その瞳の奥には、これから始まる残酷な喜劇への期待が滲んでいる。リアムは震える手で、ベッドの上に横たわるカイルの、熱を失いかけた手をそっと握った。
この手は、あの日、居場所のなかった僕を救ってくれた手だ。公爵家の次男として光り輝いていた彼が、臆病で、何一つ持たなかった僕を「この子がいい」と選んでくれた。あの日、カイル様が僕にくれた光があったから、僕は今日まで生きてこられたんだ。今度は、僕が彼を守る番だ。例えその先に、どんな暗闇が待ち受けていたとしても。
「……いいよ。カイル様を救えるなら、世界中に嫌われたってかまわない。 僕は、彼に生きていてほしいんだ」
リアムがその覚悟を言葉にした、その瞬間だった。
ヴォルガスの顔から、それまでの聖者のような慈愛の仮面が、音を立てて剥がれ落ちた。
「――交渉成立だ。愛しい獲物よ。その言葉、二度と取り消すことはできない」
ヴォルガスの口角が耳元まで裂け、どす黒い歓喜に満ちた、あまりにも醜悪な本性が露わになった。優雅だった声は低く濁り、部屋の温度が一気に氷点下まで下がったかのような凄まじい悪寒がリアムを襲う。その瞳は、もはや獲物の喉笛を裂こうとする捕食者の欲望を隠そうともしていなかった。
「あ、が……っ!?」
ヴォルガスが、リアムの薄いシャツを透かして腹部にそっと手を当てた。その瞬間、皮膚の上から真っ赤に焼けた鉄を押し当てられたような、あるいは沸騰した鉛を流し込まれたような、壮絶な激痛がリアムの全身を貫いた。
「あ、はぁっ、あ……っ! う、あぁぁぁ!」
悲鳴を上げようとしても、喉が麻痺したように引き攣り、掠れた音しか出ない。皮膚の下を、無数の刺を持った黒い鎖が蠢き、無理やり肉を削り、魂の核に直接呪いの文字を刻み込んでいく。リアムの視界は明滅し、あまりの苦痛に指先がベッドのシーツを真っ白になるまで握りしめた。脳裏が真っ白に染まるほどの衝撃の中で、自分の存在が書き換えられていくような恐怖に涙が溢れる。
「はあ……はあ……っ!」
やがて脈打つような激痛が引き、リアムが脂汗を流しながら、震える手で自分の腹部を見下ろした。そこには、どす黒く変色した蛇が絡み合うような、あるいは複雑な呪詛の鎖を思わせる禍々しい紋様――『契約の血痕』が刻まれていた。それは心臓の鼓動に合わせて不気味に明滅し、触れれば今もなお内側から焼けるような熱を放っている。
「くくく……いい気味だ。これより一年間、カイルに関するお前の全行動の主導権は俺がもらう。お前はただ、特等席の檻の中から、自分の肉体が最愛の男を壊していく様を眺めているがいい」
「……え……?」
激痛の中で顔を上げたリアムが見たのは、底知れぬ愉悦に歪んだ悪魔の顔だった。
先ほどまでの「君を救ってあげたい」という優しい言葉など、すべてはこの瞬間の絶望をより深く、より甘くするための罠に過ぎなかったのだ。
取り返しのつかない過ちを犯した。
この悪魔は、単に僕の一年という時間を奪うだけではない。僕の「愛」を人質にして、カイル様を、そして僕たちが共に歩んできた時間を徹底的に破壊することを楽しもうとしているのだ。
そう気づいた時には、もう遅かった。
リアムの意識は、底なしの沼に沈み込むように、暗く冷たい精神の檻へと引きずり込まれていく。
指先が、自分の意志とは無関係にピクリと動く。
瞳に、自分のものではない冷酷な光が宿る。
唇が、僕の知らない誰かの、残酷な笑みを浮かべる。
カイルが生きてくれる喜びと、それを自分の手で汚し、踏みにじらなければならない絶望。
その二つの感情の狭間で、リアムの魂は無残に引き裂かれ、深い闇の中へと消えていった。
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