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第1章:黄金の契約、深紅の契約
第3話:秘密の外出
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成人の儀を間近に控えたある春の日。カイルは公務の隙を突いて、リアムを王都の外れにある「名もなき丘」へと連れ出した。
公爵家の馬車を使い、護衛も付けない。それは二人だけの、小さな、けれど命懸けの逃避行だった。
「見てくれ、リアム! 今日は最高の天気だ」
馬を降りたカイルが、手を差し伸べる。リアムはその手を取り、風にたなびく草原へと踏み出した。見渡す限りのレンゲ草と、遠くに見える王都の街並み。重苦しい貴族社会のしきたりから解放されたその場所で、二人はただの、恋し合う青年同士だった。
「カイル様、そんなに走ったら危ないですよ……っ」
「ははは! ほら、リアム、こっちだ!」
カイルは少年のような笑みを浮かべ、リアムを丘の頂上にある大きな樫の木の下へと誘った。
リアムが持参したバスケットから、彼が朝早くから起きて作ったサンドイッチと、少し冷めた紅茶を取り出す。カイルはそれを「世界で一番旨い」と言って、幸せそうに頬張った。
食後、木陰で並んで座っていると、カイルがふと真剣な顔をしてリアムの肩に頭を預けた。
「……リアム。俺が伯爵領を賜ったら、一緒に来てくれるか」
「もちろんです。どこへだって付いていきます。それが僕の幸せですから」
「そこには、お前を道具としてしか見ない親父さんも、お前を蔑む使用人もいない。俺とお前、二人だけで、本当の家族を築くんだ。庭にはお前の好きな薔薇を植えて、夜は暖炉の前で本を読もう。……そんな未来を、俺はお前にやりたい」
カイルはそう言うと、懐から小さな包みを取り出した。
中に入っていたのは、一点の曇りもないサファイアが埋め込まれたシルバーのブレスレットだった。
「お前の瞳の色だ。……これが、俺の誓いの印だと思ってくれ。俺がこの先、どんなに迷っても、お前のことだけは見失わないという証だ」
カイルがリアムの細い手首に、震える手でそれを嵌める。
リアムの瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「カイル様……。僕には、過ぎた幸せです。僕は、貴方を愛するためだけに生まれてきたのかもしれません」
二人は樫の木の下で、静かに唇を重ねた。
風が吹き抜け、花の香りが二人を包み込む。
その瞬間、リアムは確かに「死んでもいい」と思うほどの幸福を感じていた。
「約束だよ、リアム。何があっても、俺たちは離れない」
「はい。何があっても。たとえ世界が僕たちを拒んでも、僕は貴方の隣にいます」
小指を絡め合い、太陽に透かして笑い合ったあの日。
サファイアの青は、どこまでも続く空の色と同じで、二人の未来を祝福しているように見えた。
この輝きが、まさか悪魔の指先によって無残に砕かれ、泥の中に捨てられる日が来るなんて、この時の二人は露ほども疑っていなかったのだ。
公爵家の馬車を使い、護衛も付けない。それは二人だけの、小さな、けれど命懸けの逃避行だった。
「見てくれ、リアム! 今日は最高の天気だ」
馬を降りたカイルが、手を差し伸べる。リアムはその手を取り、風にたなびく草原へと踏み出した。見渡す限りのレンゲ草と、遠くに見える王都の街並み。重苦しい貴族社会のしきたりから解放されたその場所で、二人はただの、恋し合う青年同士だった。
「カイル様、そんなに走ったら危ないですよ……っ」
「ははは! ほら、リアム、こっちだ!」
カイルは少年のような笑みを浮かべ、リアムを丘の頂上にある大きな樫の木の下へと誘った。
リアムが持参したバスケットから、彼が朝早くから起きて作ったサンドイッチと、少し冷めた紅茶を取り出す。カイルはそれを「世界で一番旨い」と言って、幸せそうに頬張った。
食後、木陰で並んで座っていると、カイルがふと真剣な顔をしてリアムの肩に頭を預けた。
「……リアム。俺が伯爵領を賜ったら、一緒に来てくれるか」
「もちろんです。どこへだって付いていきます。それが僕の幸せですから」
「そこには、お前を道具としてしか見ない親父さんも、お前を蔑む使用人もいない。俺とお前、二人だけで、本当の家族を築くんだ。庭にはお前の好きな薔薇を植えて、夜は暖炉の前で本を読もう。……そんな未来を、俺はお前にやりたい」
カイルはそう言うと、懐から小さな包みを取り出した。
中に入っていたのは、一点の曇りもないサファイアが埋め込まれたシルバーのブレスレットだった。
「お前の瞳の色だ。……これが、俺の誓いの印だと思ってくれ。俺がこの先、どんなに迷っても、お前のことだけは見失わないという証だ」
カイルがリアムの細い手首に、震える手でそれを嵌める。
リアムの瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「カイル様……。僕には、過ぎた幸せです。僕は、貴方を愛するためだけに生まれてきたのかもしれません」
二人は樫の木の下で、静かに唇を重ねた。
風が吹き抜け、花の香りが二人を包み込む。
その瞬間、リアムは確かに「死んでもいい」と思うほどの幸福を感じていた。
「約束だよ、リアム。何があっても、俺たちは離れない」
「はい。何があっても。たとえ世界が僕たちを拒んでも、僕は貴方の隣にいます」
小指を絡め合い、太陽に透かして笑い合ったあの日。
サファイアの青は、どこまでも続く空の色と同じで、二人の未来を祝福しているように見えた。
この輝きが、まさか悪魔の指先によって無残に砕かれ、泥の中に捨てられる日が来るなんて、この時の二人は露ほども疑っていなかったのだ。
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