災厄のななつのこ

絃屋さん  

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化身

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少し遠くから辺りを見回したが化物の姿は見当たらなかった。
先ほどの男の子の声ももうしない。
どうするか思案していると、急に肩を触られた。
「!?」
「ご、ごめん。呼びかけても反応しなかったから」
振り返ると絶対に、そこに居なかったはずの馬場の姿があった。
「え!馬場!?生きてたの?」
「ひどいなぁ、勝手に殺すなよ」
「え……でも。じゃあ今まで何処にいたのよ」
「俺はずっと、そこにいたよ」
「そんな訳……えーと神様は見た?」
「神様?どういうこと?」
「いたのよ、もじゃもじゃした一つ目の化物が」
「そんな脚本じゃなかっただろう、たしか子供の霊の仕業ってあらすじだろう」
話が噛み合わず混乱するが、とりあえず無事なら良かった。
このまま、何にも出合わずに馬場を連れて出たほうがいい。
「子供の霊も、まぁいるんだけど」
ずっとそこに居たという言葉が少し引っかかる。
「とにかく帰ろう」
「かえる」
「そう、直里は先に帰したからここを出ましょう。帰るのよ」
馬場の手を無理やり掴もうとするが、その手はぐにゃりと潰れる。
その感触はまるでスライムのように湿り気を帯びていた。
「馬場?」
「ん?どうしたんだ?」
馬場の目は、本来あるべき正常な位置から遠ざかり、口も鼻も歪みきっていた。
「うっ」
その姿を見た私は、恐怖よりも吐き気を覚えた。
「月子、かえろう」
咄嗟に走りだし、階段を目指す。
転びそうになりながらも、なんとか足を踏み込んで離れようとする。
もはや、馬場の要素は眼鏡だけになったスライム状の何かが追ってくる。
石段を降りきり、石像の横を通りすぎると結界になっているのかこちら側には来られないようだった。
「こぉぉ」
「キモすぎる」
車まで戻り、エンジンをかけようと鍵を回すがてが震えて上手くいかない。
見るとフロントガラスには、小さな無数の蛙がびっちりと張り付いており、車全体を覆っていた。
なんとか、エンジンをかけワイパーを動かしておびただしい数の蛙を排除する。
走りだした車はブチブチと蛙を潰しながら少しずつ神社から離れていく。
死ぬかと思った。
しばらく車を停めるのが怖くて走っていきようやく、夜中でも車通りの多い道に出てコンビニの駐車場に停める。




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