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第1章
25.特別訓練
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午後になり、エイクはローリンゲン侯爵邸の中庭で苦痛に顔を歪めていた。
体力が尽きかけ、動きが鈍くなったエイクに、彼よりも一回りも大きい巨漢から蹴りが加えられる。
「ぐッ」
エイクから呻き声が漏れる。
エイクはよろめきつつ後退した。
何とか踏みとどまるが、そこに訓練用の木剣が何度も続けざまに振るわれる。周りにいた炎獅子隊員達からの攻撃だ。
四方から迫るその攻撃を、エイクは全て見切っていた。しかし体は満足に動かず、ことごとくその身に受けてしまう。
いずれも小突く程度の打撃に過ぎないが、積み重なれば相当のダメージだった。
たまらずひざを付く彼に更に攻撃が加えられる。
「おいおい、そのくらいにしておけ、これは訓練だぞ」
その様子を見ていたフォルカス・ローリンゲンがそう声を掛ける。
そう、ローリンゲン侯爵家の私邸で行われるこの行為が、“特別訓練”だった。
それは要するにフォルカスの取り巻きたちが、ただひたすらエイクに暴行を加えるというものだった。
3年ほど前に、炎獅子隊から特別訓練に参加させてやるという話しがあった時から、エイクはそれがまともなものではないだろうと思っていた。
それでも参加すると決めたのは、どのような形であれ、現役の炎獅子隊員と刃を交えるのは訓練になると考えたからだ。そして殺されることもないだろうと予想したからでもある。
―――もし殺すつもりなら、訓練に招くなどという手間をかける必要はない。
ただ、エイクはこの訓練で全力を出すつもりはなかった。
彼はフォルカスとその取り巻きを自分の敵と認識していた。敵に手の内を見せる必要はない。むしろ彼には敵情を探るつもりすらあった。
彼は、この場で自分がこなしているのは、体力が尽きるまでは普通に騎士相手に攻撃を当てる訓練であり、体力が尽きて体が動かなくなった後は、四方八方から加えられる攻撃を見切る訓練。そして、心身の打たれ強さを鍛える訓練だと、そう考えていた。
結果、特に急所を狙ったりしないエイクの攻撃は、当たっても相手に何の痛痒も与えることがなく、やがて体力が尽きた彼が一方的にいたぶられるという事が、延々と繰り返されるのだ。
「申し訳ありません。侯爵様。何しろ相手が弱すぎて、手加減が難しくていけません」
そう言ったのは、エイクに蹴りを加えた大男ロドリゴ・イシュモス。ローリンゲン侯爵家に連なるイシュモス伯爵家の嫡男にして、三人いる炎獅子隊副隊長の一人でもある人物だった。
そして、ロドリゴは近くの樽に用意されていた水をエイクに浴びせかけ「気合入れろ。もやし野郎。とっとと治してまた始めるぞ」と怒鳴った。
「司祭殿、頼みます」
フォルカスが傍らに控えていた戦神トゥーゲルの司祭ドミトリに声をかけた。
ドミトリ司祭は無言のまま頷き、治癒の魔法を施す為にエイクの元に向かった。
いつもは戦神の司祭とは思えない好々爺然とした彼だが、今は苦虫を噛み潰したような形相だった。
先代侯爵の頃からローリンゲン家とかかわりが深かったドミトリ司祭は、この訓練の内容について知ると、これは行き過ぎた暴力に過ぎず、戦いに備えるべしという戦神の教えに照らしてすら、認められるものではないと主張した。
しかし、他ならぬエイク自身が訓練になっていると主張した為、無理に止めさせることも出来ず、代わりに可能な限り訓練に参加し、エイクを見守ろうとしてくれていた。
フォルカスはまた、近くにいた女騎士に声をかけた。
「ジュディア、これがかつて神童と呼ばれたガキの成れの果てだ。お前も気をつけるようにな」
「こんな惰弱な者と一緒にしないでください」
ジュディアと呼ばれた女騎士はそう答えた。
彼女はラフラナン子爵家の息女で、若干17歳にして炎獅子隊でも一目置かれる腕前の人物だった。
女性にしては長身で、その均整の取れた体は上質な板金鎧に包まれていた。癖のない長い金髪は結い上げられ、冷徹そうな印象を与える美貌は、いかにも凛々しい女騎士といった様子だった。
しかし、その表情は不満気であった。
「次は私一人にやらせてください」
ジュディアはそう言って、治療の終わったエイクの前に進み出た。
フォルカスが軽く頷くのを見てロドリゴらは身を引く。
次の相手がジュディアと分かりエイクはいっそう気を引き締めた。
他の訓練参加者は、エイクの攻撃が当たっても何の痛手を受けない為気にも留めず、エイクの体力が尽き、動きが鈍ってきたところで小突く程度の攻撃で滅多打ちにするのが常だった。
しかしジュディアは、体力が尽きる前のエイクに攻撃を当てられてしまうことが許せないようで、常に全力で打ち返していた。
練習用の木剣とはいえ、全力で打てばかなりのダメージを与えることが出来る。
生命力に乏しいエイクにとって、それは無視できるものではなく、事実彼女との訓練では命の危険を感じることもあった。
(それもそれでよい訓練だ)
そう考え、エイクは剣を構えた。
「かかって来なさい」
ジュディアがそう告げる。
エイクは防御主体で戦うことを決めた。その方が長く戦えると判断したからだ。
そして静かに攻撃に移る。
無言で放ったエイクの攻撃をジュディアは捌き損ねる。鎧の上に当たったその攻撃はやはり何のダメージも与えなかった。
「くッ」
しかしジュディアは苛立たし気な声を漏らし、悔しげに顔を歪めた。そして反撃に転ずる。
エイクは彼女のオドが活性化するのを感じた。
(錬生術を使った。命中強化と打撃強化!訓練だぞ!)
そのジュディアの全力といえる攻撃を、エイクは避けることが出来なかった。
全く容赦のない攻撃は、クロースアーマーしか身に着けていないエイクに深刻なダメージを負わせる。
それは訓練や試合なら、普通は降伏を申し出るほどの痛手だった。しかしエイクはかまわず訓練を続けることを選んだ。
(本気でやってくれるなら、願ったりだ!)
そう自分を叱咤した。
その後しばらく攻防が続いた。表面上は態勢を立て直したエイクが優勢だった。
エイクはジュディアに2回攻撃を当て、その間にジュディアの攻撃は一度もエイクに当たっていない。
錬生術を使い続けているにも関わらずのこの結果に、ジュディアは苛立ちを募らせた。
しかし、エイクにも全く余裕はなかった。
ジュディアの攻撃には一切の遠慮がなく、もう一撃受けた場合、打ち所が悪ければ命に関わる。
そしてついにジュディアの攻撃がエイクを捉えた。激しい打撃に意識が飛びそうになるのを必死に堪える。
(これまでだ)
エイクはそう判断し、木剣を捨て「参った!」と叫んだ。
が、ジュディアは攻撃を止めようとしなかった。明らかに止める事は出来たのに、だ。
(この女!)
エイクは全力で回避すべく体中に力を込めた。しかし、ここでまた体力の消耗により足がふらついた。
「それまで!」
ドミトリ司祭が大声で静止する。
それでもジュディアの木剣は止まらない。
彼女の攻撃は袈裟切りにエイクの左肩を捉えた。
「ッ!」
エイクは歯を食いしばり、気力を振り絞って意識を保った。意識を失えばそのまま死ぬ。そう思わせるほどのダメージだ。
「何をしておるか!」
そう叫んでドミトリ司祭がエイクとジュディアの間に割って入る。
「訓練で、降参の意を示した者を打ち据えるなど、あってはならぬことですぞ」
そう叱責するドミトリ司祭に向かってジュディアは頭を下げた。しかし、エイクには一瞥もしなかった。
(この女、こいつも……)
ジュディアに怒りの視線を向けたエイクは、また不毛な妄想に駆り立てられそうになったが、直ぐにそれを振り払った。
時間の無駄だし、例え相手に悪意があろうとも、自ら参加することを決めた訓練での出来事で相手を恨むのは筋違いだ、とも考えたからだ。
しかし、怒りまで消し去ることは出来なかった。
エイクは訓練の間に、隊員たちが話す世話話を可能な限り聞くようにしていた。情報収集の一環と考えてのことだ。
その隊員たちの話によると、ジュディアは実家のラフラナン家で随分不遇な扱いを受けているらしかった。しかし、その鬱憤晴らしで殺されては堪らない。
やがてドミトリ司祭の治療が終わると、今度はロドリゴが進み出て嗜虐的に笑いながら、「次は俺の番だ」と言って木剣を振るった。
エイクは黙って立ち上がり木剣を構えた。
結局この日の“特別訓練”は夕刻まで続いた。
訓練が終わりローリンゲン家の私邸を去る前に、ドミトリ司祭が最後に治療を施してくれた。このサービスのおかげで、負傷を後に残さないで済むことは大変ありがたかった。
「エイク殿、私にはやはりこれが適切な訓練とは思えません」
そう語るドミトリ司祭にエイクが答える。
「ありがとうございます。司祭様。
正直に言えば、私も彼らに感謝していると言えば嘘になります。あれだけ悪意を持って剣を向けられては憎しみも湧きます。
しかし、客観的に言えば自分を鍛える役に立っているのも事実です。私の目的の為には有意義です」
嘘はなかった。エイクにとっては強くなることが最優先だった。
そして彼は最近画期的な手応えを感じていた。オドを制御する鍛錬の結果、オドが引き抜かれるのを一時的に止めることに成功したと感じていたのだ。
そう感じた数日後には、ある事をきっかけに、より激しく引き抜かれてしまうのだが、それにも一つの法則性を見出していた。
これは大きな前進といえた。この不可解なオドの流出さえ止められれば、自分は格段に強くなれる。彼はそう確信していた。
「この“訓練”が有意義とは……。私はあなたを褒めるべきなのか、たしなめるべきなのか判断に迷いますな。いずれにしてもあなたの目的が果たされることを祈っております」
「感謝します」
そう言ってドミトリ司祭と別れたエイクは、廃墟区域にある自宅――彼に宛がわれた空家――へと帰途についた。
体力が尽きかけ、動きが鈍くなったエイクに、彼よりも一回りも大きい巨漢から蹴りが加えられる。
「ぐッ」
エイクから呻き声が漏れる。
エイクはよろめきつつ後退した。
何とか踏みとどまるが、そこに訓練用の木剣が何度も続けざまに振るわれる。周りにいた炎獅子隊員達からの攻撃だ。
四方から迫るその攻撃を、エイクは全て見切っていた。しかし体は満足に動かず、ことごとくその身に受けてしまう。
いずれも小突く程度の打撃に過ぎないが、積み重なれば相当のダメージだった。
たまらずひざを付く彼に更に攻撃が加えられる。
「おいおい、そのくらいにしておけ、これは訓練だぞ」
その様子を見ていたフォルカス・ローリンゲンがそう声を掛ける。
そう、ローリンゲン侯爵家の私邸で行われるこの行為が、“特別訓練”だった。
それは要するにフォルカスの取り巻きたちが、ただひたすらエイクに暴行を加えるというものだった。
3年ほど前に、炎獅子隊から特別訓練に参加させてやるという話しがあった時から、エイクはそれがまともなものではないだろうと思っていた。
それでも参加すると決めたのは、どのような形であれ、現役の炎獅子隊員と刃を交えるのは訓練になると考えたからだ。そして殺されることもないだろうと予想したからでもある。
―――もし殺すつもりなら、訓練に招くなどという手間をかける必要はない。
ただ、エイクはこの訓練で全力を出すつもりはなかった。
彼はフォルカスとその取り巻きを自分の敵と認識していた。敵に手の内を見せる必要はない。むしろ彼には敵情を探るつもりすらあった。
彼は、この場で自分がこなしているのは、体力が尽きるまでは普通に騎士相手に攻撃を当てる訓練であり、体力が尽きて体が動かなくなった後は、四方八方から加えられる攻撃を見切る訓練。そして、心身の打たれ強さを鍛える訓練だと、そう考えていた。
結果、特に急所を狙ったりしないエイクの攻撃は、当たっても相手に何の痛痒も与えることがなく、やがて体力が尽きた彼が一方的にいたぶられるという事が、延々と繰り返されるのだ。
「申し訳ありません。侯爵様。何しろ相手が弱すぎて、手加減が難しくていけません」
そう言ったのは、エイクに蹴りを加えた大男ロドリゴ・イシュモス。ローリンゲン侯爵家に連なるイシュモス伯爵家の嫡男にして、三人いる炎獅子隊副隊長の一人でもある人物だった。
そして、ロドリゴは近くの樽に用意されていた水をエイクに浴びせかけ「気合入れろ。もやし野郎。とっとと治してまた始めるぞ」と怒鳴った。
「司祭殿、頼みます」
フォルカスが傍らに控えていた戦神トゥーゲルの司祭ドミトリに声をかけた。
ドミトリ司祭は無言のまま頷き、治癒の魔法を施す為にエイクの元に向かった。
いつもは戦神の司祭とは思えない好々爺然とした彼だが、今は苦虫を噛み潰したような形相だった。
先代侯爵の頃からローリンゲン家とかかわりが深かったドミトリ司祭は、この訓練の内容について知ると、これは行き過ぎた暴力に過ぎず、戦いに備えるべしという戦神の教えに照らしてすら、認められるものではないと主張した。
しかし、他ならぬエイク自身が訓練になっていると主張した為、無理に止めさせることも出来ず、代わりに可能な限り訓練に参加し、エイクを見守ろうとしてくれていた。
フォルカスはまた、近くにいた女騎士に声をかけた。
「ジュディア、これがかつて神童と呼ばれたガキの成れの果てだ。お前も気をつけるようにな」
「こんな惰弱な者と一緒にしないでください」
ジュディアと呼ばれた女騎士はそう答えた。
彼女はラフラナン子爵家の息女で、若干17歳にして炎獅子隊でも一目置かれる腕前の人物だった。
女性にしては長身で、その均整の取れた体は上質な板金鎧に包まれていた。癖のない長い金髪は結い上げられ、冷徹そうな印象を与える美貌は、いかにも凛々しい女騎士といった様子だった。
しかし、その表情は不満気であった。
「次は私一人にやらせてください」
ジュディアはそう言って、治療の終わったエイクの前に進み出た。
フォルカスが軽く頷くのを見てロドリゴらは身を引く。
次の相手がジュディアと分かりエイクはいっそう気を引き締めた。
他の訓練参加者は、エイクの攻撃が当たっても何の痛手を受けない為気にも留めず、エイクの体力が尽き、動きが鈍ってきたところで小突く程度の攻撃で滅多打ちにするのが常だった。
しかしジュディアは、体力が尽きる前のエイクに攻撃を当てられてしまうことが許せないようで、常に全力で打ち返していた。
練習用の木剣とはいえ、全力で打てばかなりのダメージを与えることが出来る。
生命力に乏しいエイクにとって、それは無視できるものではなく、事実彼女との訓練では命の危険を感じることもあった。
(それもそれでよい訓練だ)
そう考え、エイクは剣を構えた。
「かかって来なさい」
ジュディアがそう告げる。
エイクは防御主体で戦うことを決めた。その方が長く戦えると判断したからだ。
そして静かに攻撃に移る。
無言で放ったエイクの攻撃をジュディアは捌き損ねる。鎧の上に当たったその攻撃はやはり何のダメージも与えなかった。
「くッ」
しかしジュディアは苛立たし気な声を漏らし、悔しげに顔を歪めた。そして反撃に転ずる。
エイクは彼女のオドが活性化するのを感じた。
(錬生術を使った。命中強化と打撃強化!訓練だぞ!)
そのジュディアの全力といえる攻撃を、エイクは避けることが出来なかった。
全く容赦のない攻撃は、クロースアーマーしか身に着けていないエイクに深刻なダメージを負わせる。
それは訓練や試合なら、普通は降伏を申し出るほどの痛手だった。しかしエイクはかまわず訓練を続けることを選んだ。
(本気でやってくれるなら、願ったりだ!)
そう自分を叱咤した。
その後しばらく攻防が続いた。表面上は態勢を立て直したエイクが優勢だった。
エイクはジュディアに2回攻撃を当て、その間にジュディアの攻撃は一度もエイクに当たっていない。
錬生術を使い続けているにも関わらずのこの結果に、ジュディアは苛立ちを募らせた。
しかし、エイクにも全く余裕はなかった。
ジュディアの攻撃には一切の遠慮がなく、もう一撃受けた場合、打ち所が悪ければ命に関わる。
そしてついにジュディアの攻撃がエイクを捉えた。激しい打撃に意識が飛びそうになるのを必死に堪える。
(これまでだ)
エイクはそう判断し、木剣を捨て「参った!」と叫んだ。
が、ジュディアは攻撃を止めようとしなかった。明らかに止める事は出来たのに、だ。
(この女!)
エイクは全力で回避すべく体中に力を込めた。しかし、ここでまた体力の消耗により足がふらついた。
「それまで!」
ドミトリ司祭が大声で静止する。
それでもジュディアの木剣は止まらない。
彼女の攻撃は袈裟切りにエイクの左肩を捉えた。
「ッ!」
エイクは歯を食いしばり、気力を振り絞って意識を保った。意識を失えばそのまま死ぬ。そう思わせるほどのダメージだ。
「何をしておるか!」
そう叫んでドミトリ司祭がエイクとジュディアの間に割って入る。
「訓練で、降参の意を示した者を打ち据えるなど、あってはならぬことですぞ」
そう叱責するドミトリ司祭に向かってジュディアは頭を下げた。しかし、エイクには一瞥もしなかった。
(この女、こいつも……)
ジュディアに怒りの視線を向けたエイクは、また不毛な妄想に駆り立てられそうになったが、直ぐにそれを振り払った。
時間の無駄だし、例え相手に悪意があろうとも、自ら参加することを決めた訓練での出来事で相手を恨むのは筋違いだ、とも考えたからだ。
しかし、怒りまで消し去ることは出来なかった。
エイクは訓練の間に、隊員たちが話す世話話を可能な限り聞くようにしていた。情報収集の一環と考えてのことだ。
その隊員たちの話によると、ジュディアは実家のラフラナン家で随分不遇な扱いを受けているらしかった。しかし、その鬱憤晴らしで殺されては堪らない。
やがてドミトリ司祭の治療が終わると、今度はロドリゴが進み出て嗜虐的に笑いながら、「次は俺の番だ」と言って木剣を振るった。
エイクは黙って立ち上がり木剣を構えた。
結局この日の“特別訓練”は夕刻まで続いた。
訓練が終わりローリンゲン家の私邸を去る前に、ドミトリ司祭が最後に治療を施してくれた。このサービスのおかげで、負傷を後に残さないで済むことは大変ありがたかった。
「エイク殿、私にはやはりこれが適切な訓練とは思えません」
そう語るドミトリ司祭にエイクが答える。
「ありがとうございます。司祭様。
正直に言えば、私も彼らに感謝していると言えば嘘になります。あれだけ悪意を持って剣を向けられては憎しみも湧きます。
しかし、客観的に言えば自分を鍛える役に立っているのも事実です。私の目的の為には有意義です」
嘘はなかった。エイクにとっては強くなることが最優先だった。
そして彼は最近画期的な手応えを感じていた。オドを制御する鍛錬の結果、オドが引き抜かれるのを一時的に止めることに成功したと感じていたのだ。
そう感じた数日後には、ある事をきっかけに、より激しく引き抜かれてしまうのだが、それにも一つの法則性を見出していた。
これは大きな前進といえた。この不可解なオドの流出さえ止められれば、自分は格段に強くなれる。彼はそう確信していた。
「この“訓練”が有意義とは……。私はあなたを褒めるべきなのか、たしなめるべきなのか判断に迷いますな。いずれにしてもあなたの目的が果たされることを祈っております」
「感謝します」
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