剣魔神の記

ギルマン

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第3章

36.過激な意見

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 実際会食は愉快なものになった。
 ラング子爵は話しが上手く、その言葉をつくしてガイゼイクを褒め称えた。
 エイクは簡単に上機嫌になった。
 また、ラング子爵が語る中には、エイクが知らなかった父に関する話もあり、そのこともエイクを喜ばせていた。

 やがて食事が一段落したところで、執事が入室してエイクに対して礼を失しないよう気をつけながらラング子爵に何事か伝えた。
 ラング子爵は僅かに眉を寄せたが、直ぐに温和な表情に戻り、エイクに声をかけた。
「エイク殿、私にはエイク殿と同年の息子がおるのですが、よろしければ紹介したく思うのですが、いかがですかな」
「もちろん構いません。是非おねがいします」
 エイクは機嫌よくそう応えた。

 執事が退室すると、入れ違いに若い男が入って来た。
「倅のロナウトです。当家の嫡子になります」
 ラング子爵がその若い男をそう紹介する。
「ロナウト・ラングと申します。お会いできて光栄です」
 ロナウトもそう自己紹介をした。
 彼の言葉も貴族が平民に対するとは思えない丁重なものだ。

 エイクも立ち上がって自己紹介を行う。
「冒険者をしているエイク・ファインドです。こちらこそお目通りできた事を光栄に思います」

 そして、ロナウトはラング子爵の隣に座り、エイクも席に着いた。
 ロナウトは早速語り始めた。
「アークデーモン殺しの大英雄が私と同い年と聞いて是非ともお会いしたいと思っていたのです。
 先ごろはドラゴ・キマイラも討伐されたと聞きました。正に古今稀なる武勇。言葉もありません」

 そう語りだしたロナウトは、過剰なほどにエイクを賞賛する。
 エイクはそれを聞いているうちに、やや気分を悪くしていた。自分如きを大英雄などと称する事は、英雄と呼ばれていた父ガイゼイクを愚弄する事のように感じたからだ。

 だが、そのような気持ちを表に出さないように気をつけた。仮にも自分を褒めてくれている相手に不快感を示すなど無礼だと思ったからだ。
 エイクは恐縮しつつも賞賛の言葉を受け取るといった態度を示していた。

 やがてロナウトは話題を変えた。
「ところでエイク殿はハイファ神殿のユリアヌス大司教とも懇意にされておられるそうですね」
「ええ、有難いことに親しく声をかけていただいております」

「あの方は素晴らしい聖職者です。あのような方がこの国のハイファ神殿をまとめておられる事は我が国にとって幸運と言っていいでしょう。
 何よりハイファ様の教義を杓子定規に考えず、真なるハイファ様の御心を説いていただけることが素晴らしい」
「そうですね。おっしゃるとおりです」
 確かにエイクもユリアヌスは柔軟な考え方をする人物と思っていた。

 ロナウトはエイクの答えに頷き、話しを続ける。
「例えば、世の中のハイファ信者には世襲を絶対的な教義と考え、それに固執する者もいますが、それは誤りです。
 実際にはハイファ様が世襲を大切だと考えているのは、それが社会の安定と発展に寄与する事が多いからという理由からであって、絶対に守らなければならない教義としているわけではありません」
「ええ、私もそう理解しています」

 エイクはそう答えたが、ロナウトが何を言わんとしているのか訝しく思った。
 確かに、ハイファ神は世襲に対して肯定的だがそれを絶対視しているわけではないとされている。
 だが、あたかも世襲を絶対視しているかのように解釈される事があるのは、その方が貴族にとって好都合だからだ。貴族達の都合で世襲を絶対視するかのように教義の一部が誇張ないし歪曲されているといえるだろう。
 貴族家の一員であるロナウトが、それをわざわざ声高に否定する理由が、エイクには良く分からなかった。

(純粋にハイファ神の真意に忠実であろうと欲しているのか?それとも、自分が子爵家を継ぐことに不満があるのだろうか?
 まあ、貴族の生活が全て幸福だとは限らないし、他にやりたいことがあればそういうこともあるのかな?)
 エイクがそんな事を考えていると、ロナウトから決定的な言葉が発せられた。

「つまり、世襲が社会の安定と発展に寄与できない、それどころか混乱と衰退を招くならば、世襲などしてはならないのです。それは国における至高の地位を受け継ぐ家においても同様です」

 その瞬間、部屋の空気が張り詰めた。
 最初に反応したのはラング子爵だった。
「なッ!何を抜かす貴様!!血迷ったか!!」
 ラング子爵はそう怒鳴った。

「父上、大切な事です。エイク殿にも聞いていただくべき……」
「黙れ!」
「父上!」
「黙れ!黙れ!今すぐにここから出て行け!出ていくのだ!」

 ラング子爵は椅子から立ち上がると、息子の胸倉を掴んで無理に立ち上がらせ、ドアの方を指差した。
 父親の勢いに抗し切れなかったロナウトは、エイクに向かって「失礼します」と告げて頭を下げると退室した。

 それを確認したラング子爵は椅子に腰を下ろすと「愚か者め」と小さく呟いた。

 エイクは、ラング子爵が驚き慌てるのも全く無理はないと思った。
 国において至高の位を受け継ぐ家とは、要するに王家のことである。
 ロナウトはその家において世襲がなされるべきではないと言ったのだ。それは王統を変えよと言ったに等しい。
 しかもその理由を、世襲が行われれば混乱と衰退を招くからとまで言った。
 それは、今の王位後継者とそれを支える者達に対する強烈な批判である。

(王国の派閥争いに関連した争いが、ラング子爵家の内部でも起こっているわけか)
 エイクはそう理解した。
 王位後継者問題も今の王国内の派閥争いに密接に関係しているからだ。
 アルターが調べたところでは、ラング子爵は派閥争いに対して中立の立場であるとのことだったが、その子息は別の考えを持っていたということなのだろう。
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