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第3章
53.闘技場の戦い
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エイクはその男を観察する。
只者ではないのは一目で分かった。
その装備も相当のものだ。
(神獣の皮鎧に魔法を帯びたコピス。盾にも魔法がかかっている)
エイクはそう見てとった。
神獣の皮鎧は古代魔法帝国時代に作られた魔法の品で、一般にみられる魔法の非金属鎧の中では最高性能といわれる品物だ。
加えて魔法の武器・防具も併せ持っている事を考えても、やはり並みの相手ではない。
男は悠然と戦闘場所に入って来た。
その後ろで扉は自動的に閉まってしまう。
男の動きを油断なく見たエイクは、更に警戒を強めた。
男の実力が自分とほとんど互角と見て取ったからだ。
男もエイクの実力をある程度見極めたはずだ。
だがその男は、顔を強張らせるエイクと反対に笑みを深めた。
男がエイクに声をかけた。
「よう、初めましてだな。
俺はゴルブロってもんだ。ハリバダードのゴルブロと言えば分かってもらえるか?」
(なぜ!?)
その名を聞き、エイクは一瞬そう思った。
ゴルブロがやって来るのは5日以上先と思っていたからだ。
しかし、今のこの状況でそんなことを考えるのは無意味だ。
状況を打開にすることだけを考えるべきだ。
そう考えたエイクは、その疑問を振り払った。
だが、ゴルブロはエイクの一瞬の疑念を感じ取ったのか、言葉を発した。
「俺が思ったより早く来て不思議か?てめえは偽情報で踊らされたんだよ。“黒翼鳥”のドロシーばあさんにな」
エイクはその言葉を受けても心を動かさなかった。
この状況で動揺してよいことがあるわけがない。そう考えて己の精神を制御したのだ。エイクにはそのくらいのことは出来る。
ゴルブロはエイクのその態度は不満だったようで「ふんッ」と不機嫌そうに鼻を鳴らした。
そしてまた語り始めた。
「で、名乗っちゃあもらえないのか」
「……エイク・ファインドだ」
エイクは一応その問いかけに答えた。
「それじゃあ、エイクさんよ。一丁、俺と一騎打ちとしゃれ込もうじゃねえか。
俺に勝ったらここから無事に逃がしてやる。
その代わり、俺が勝ったら部下として俺に仕えろ。
勝負の決め方は、勝てないと思った方が武器を捨てて降伏を宣言する。
もちろん意識を失ったり戦闘不能になっても敗北だ。
どうだ?今の状況を考えたらいい条件だろう?」
「……分かった。その勝負受けてやる」
エイクはそう告げて、改めてクレイモアを構え、必要な全ての錬生術を発動した。
「そう来なくっちゃな。意地はって死なねえように気をつけろよ」
ゴルブロもそう応えてコピスと盾を構えた。
そして彼もまた錬生術を発動させる。それはエイクに劣らない高度なものだった。
エイクはゴルブロの構えをみて、その戦闘スタイルが大柄な体躯に似合わず軽戦士のものであることを確認した。
軽戦士の戦い方は、一撃一撃の威力よりも急所を狙う事を重視する。
一般的には急所にさえ当たらなければ大したダメージにはならないはずだ。
しかしゴルブロが手にするのは殺傷力を高めたコピス、それも魔法の品だ。どこに当たろうとも大きなダメージを与えてくるだろう。
そして急所を捉えられれば、当然ながらいっそう大きなダメージを受けることになる。
エイクは、クレイモアを引き気味に構えなおして、攻撃よりも守りを固める事にした。
そのエイクの僅かな動きに呼応したかのように、ゴルブロが仕掛けた。
巨体に見合わぬ素早さで正面から突っ込んでくる。
ほとんど瞬時にエイクに接近したゴルブロの姿が、エイクの視界から消える。
(下ッ!)
エイクの感覚がそう告げる。
そうしてゴルブロが身を屈めた事を察したエイクだったが、しかし対応する前に左脇腹に攻撃を受けてしまう。
ゴルブロは、身を屈めるのと同時に、更にその速度を増していた。
エイクはクレイモアを構えていた場所からそのままゴルブロ目掛けて動かす。
僅かでも振りかぶれば逃れられると分かったからだ。
だが、それでもゴルブロはエイクのクレイモアの軌道に左腕の盾をかざす事に成功している。
エイクは構わずそのままクレイモアを打ち下ろした。
ゴルブロは、盾でクレイモアを受け流しつつ身を退く。
一旦距離をとったゴルブロが、また口を開いた。
「やるな。若い割りに実戦慣れしたいい剣だ」
ゴルブロはエイクの攻撃を盾で受けたにも関わらず、盾越しの衝撃だけで左腕にダメージを負っていた。
それは、さほど深刻なものではなかったが、かと言って無視できるほど小さいものでもない。
ゴルブロは更に笑みを深め「楽しめそうだな」と告げた。
エイクは笑うどころではなかった。
かつてバフォメットと戦った時すら、彼は守りを固めている間はその攻撃を凌ぎきっていた。
けして余裕があったわけではないが、どうにか全ての攻撃を避けていたのだ。
だが今は、あっさりと攻撃を当てられてしまった。
受けたダメージも相当のものだ。
また、エイクにとっては、自分が有効打といえるほどの反撃を与えられなかった事も衝撃だった。
敵の攻撃は自分に当たるが、自分の攻撃はまともに当たらない。
それは、己の強さを取り戻した後において始めての経験だった。
(一瞬も守りを疎かにはできない)
エイクはそう考えた。
「それじゃあ、続けるか」
ゴルブロはそう言って、悠然とエイクに向かって歩き始める。
が、エイクの意識の隙をつくかのように瞬間的に動きを早めてエイクに肉薄した。
エイクはその攻撃には反応できた。身を引いてゴルブロの攻撃を避け、同時にクレイモアを打ち降ろす。
ゴルブロもまた、そのエイクの反撃を避ける。
そうして、壮絶な一騎打ちが始まった。
只者ではないのは一目で分かった。
その装備も相当のものだ。
(神獣の皮鎧に魔法を帯びたコピス。盾にも魔法がかかっている)
エイクはそう見てとった。
神獣の皮鎧は古代魔法帝国時代に作られた魔法の品で、一般にみられる魔法の非金属鎧の中では最高性能といわれる品物だ。
加えて魔法の武器・防具も併せ持っている事を考えても、やはり並みの相手ではない。
男は悠然と戦闘場所に入って来た。
その後ろで扉は自動的に閉まってしまう。
男の動きを油断なく見たエイクは、更に警戒を強めた。
男の実力が自分とほとんど互角と見て取ったからだ。
男もエイクの実力をある程度見極めたはずだ。
だがその男は、顔を強張らせるエイクと反対に笑みを深めた。
男がエイクに声をかけた。
「よう、初めましてだな。
俺はゴルブロってもんだ。ハリバダードのゴルブロと言えば分かってもらえるか?」
(なぜ!?)
その名を聞き、エイクは一瞬そう思った。
ゴルブロがやって来るのは5日以上先と思っていたからだ。
しかし、今のこの状況でそんなことを考えるのは無意味だ。
状況を打開にすることだけを考えるべきだ。
そう考えたエイクは、その疑問を振り払った。
だが、ゴルブロはエイクの一瞬の疑念を感じ取ったのか、言葉を発した。
「俺が思ったより早く来て不思議か?てめえは偽情報で踊らされたんだよ。“黒翼鳥”のドロシーばあさんにな」
エイクはその言葉を受けても心を動かさなかった。
この状況で動揺してよいことがあるわけがない。そう考えて己の精神を制御したのだ。エイクにはそのくらいのことは出来る。
ゴルブロはエイクのその態度は不満だったようで「ふんッ」と不機嫌そうに鼻を鳴らした。
そしてまた語り始めた。
「で、名乗っちゃあもらえないのか」
「……エイク・ファインドだ」
エイクは一応その問いかけに答えた。
「それじゃあ、エイクさんよ。一丁、俺と一騎打ちとしゃれ込もうじゃねえか。
俺に勝ったらここから無事に逃がしてやる。
その代わり、俺が勝ったら部下として俺に仕えろ。
勝負の決め方は、勝てないと思った方が武器を捨てて降伏を宣言する。
もちろん意識を失ったり戦闘不能になっても敗北だ。
どうだ?今の状況を考えたらいい条件だろう?」
「……分かった。その勝負受けてやる」
エイクはそう告げて、改めてクレイモアを構え、必要な全ての錬生術を発動した。
「そう来なくっちゃな。意地はって死なねえように気をつけろよ」
ゴルブロもそう応えてコピスと盾を構えた。
そして彼もまた錬生術を発動させる。それはエイクに劣らない高度なものだった。
エイクはゴルブロの構えをみて、その戦闘スタイルが大柄な体躯に似合わず軽戦士のものであることを確認した。
軽戦士の戦い方は、一撃一撃の威力よりも急所を狙う事を重視する。
一般的には急所にさえ当たらなければ大したダメージにはならないはずだ。
しかしゴルブロが手にするのは殺傷力を高めたコピス、それも魔法の品だ。どこに当たろうとも大きなダメージを与えてくるだろう。
そして急所を捉えられれば、当然ながらいっそう大きなダメージを受けることになる。
エイクは、クレイモアを引き気味に構えなおして、攻撃よりも守りを固める事にした。
そのエイクの僅かな動きに呼応したかのように、ゴルブロが仕掛けた。
巨体に見合わぬ素早さで正面から突っ込んでくる。
ほとんど瞬時にエイクに接近したゴルブロの姿が、エイクの視界から消える。
(下ッ!)
エイクの感覚がそう告げる。
そうしてゴルブロが身を屈めた事を察したエイクだったが、しかし対応する前に左脇腹に攻撃を受けてしまう。
ゴルブロは、身を屈めるのと同時に、更にその速度を増していた。
エイクはクレイモアを構えていた場所からそのままゴルブロ目掛けて動かす。
僅かでも振りかぶれば逃れられると分かったからだ。
だが、それでもゴルブロはエイクのクレイモアの軌道に左腕の盾をかざす事に成功している。
エイクは構わずそのままクレイモアを打ち下ろした。
ゴルブロは、盾でクレイモアを受け流しつつ身を退く。
一旦距離をとったゴルブロが、また口を開いた。
「やるな。若い割りに実戦慣れしたいい剣だ」
ゴルブロはエイクの攻撃を盾で受けたにも関わらず、盾越しの衝撃だけで左腕にダメージを負っていた。
それは、さほど深刻なものではなかったが、かと言って無視できるほど小さいものでもない。
ゴルブロは更に笑みを深め「楽しめそうだな」と告げた。
エイクは笑うどころではなかった。
かつてバフォメットと戦った時すら、彼は守りを固めている間はその攻撃を凌ぎきっていた。
けして余裕があったわけではないが、どうにか全ての攻撃を避けていたのだ。
だが今は、あっさりと攻撃を当てられてしまった。
受けたダメージも相当のものだ。
また、エイクにとっては、自分が有効打といえるほどの反撃を与えられなかった事も衝撃だった。
敵の攻撃は自分に当たるが、自分の攻撃はまともに当たらない。
それは、己の強さを取り戻した後において始めての経験だった。
(一瞬も守りを疎かにはできない)
エイクはそう考えた。
「それじゃあ、続けるか」
ゴルブロはそう言って、悠然とエイクに向かって歩き始める。
が、エイクの意識の隙をつくかのように瞬間的に動きを早めてエイクに肉薄した。
エイクはその攻撃には反応できた。身を引いてゴルブロの攻撃を避け、同時にクレイモアを打ち降ろす。
ゴルブロもまた、そのエイクの反撃を避ける。
そうして、壮絶な一騎打ちが始まった。
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