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第3章
54.激闘の末に
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それは、一つの国全体でも1人か2人いるかどうかというほどの強者同士による激闘だった。
エイクとゴルブロはめまぐるしく動き、その武器をひるがえす。
その一撃一撃が、冒険者なら上級上位と位置づけられる戦士でも容易く捉えるほどに鋭い。
そして、当たれば一般の兵士程度なら一撃で倒れるほどの威力が込められていた。
それは正に英雄級の戦いというに相応しいものだった。
大陸最大の闘技場においてさえ、これほどの戦いはめったに見ることは出来ないだろう。
実際、観客席のゴルブロの部下達はその戦いに見入っていた。
そして彼らには、観戦を楽しむ余裕があった。
戦いは明らかにゴルブロ有利に展開していたからだ。
本格的に守りを固めたエイクに対しては、ゴルブロも攻撃も避けられることの方が多かった。
それでも数分間に及ぶ攻防を経て、ゴルブロのコピスは最初の一撃も含めて七度エイクを傷つけていた。
これに対して、エイクのクレイモアは一回もゴルブロを捉えていない。
ゴルブロの部下達は、自分達の頭目がエイクに傷を負わせるたびに歓声を上げた。
ゴルブロ自身も、不敵な笑みを絶やさずに戦っている。
しかし、彼には見た目ほどの余裕はなくなっていた。
(この餓鬼、どうなってやがる)
ゴルブロは内心で不審の声を上げた。エイクの耐久力の高さに異様なものを感じていたからだ。
身に宿すオドの質と量によって、その生命力は増加し防御力も高まり耐久力は増す。
並の人間なら一撃で真っ二つにしてしまうほどの強撃でも、相手によっては肉で止められてしまうこともある。
そんな事はゴルブロも良く知っていた。
彼自身、常人離れしたオドの持ち主なのだから。
だが、そのゴルブロから見てもエイクの耐久力は段違いだった。
最初は真実戦闘を楽しんでいたゴルブロだったが、4回攻撃を当てたところで、平静ではいられなくなっていた。
自分なら戦闘不能になっているほどのダメージを与えているはずなのに、エイクはまだまだ耐えられそうだったからである。
そこから更に3度攻撃を当てたが、なおもエイクは倒れない。その中には、会心の一撃と思える手ごたえのものもあったにも関わらず、だ。
さすがにエイクも苦しそうな様子ではある。だが、その剣技は未だ衰えを見せない。
更にゴルブロを焦らせているのはマナの消耗だった。
彼は錬生術を繰り返し発動させる為に、既に自分自身のマナを粗方使い尽くしており、携帯していた魔石を使用していた。
ゴルブロは、一つで万を超える額になる最高品質の魔石を五つ携帯していたが、そのうちの三つを既に使用していた。
このまま魔石を使い尽くして錬生術が使えなくなり、その時エイクがまだ錬生術を使えたならば、情勢は完全にひっくり返る。負けるのは自分だ。
その時ゴルブロはエイクの動きに決定的な隙を見出し、すかさず攻撃した。
彼のコピスはエイクの喉元を捉えた。急所への一撃である。
(これで終わりだ!)
ゴルブロはそう思った。この一撃で、死にはしなくとも戦闘不能には陥る。そう判断したのだ。
しかし、エイクの動きは止まらなかった。
その手のクレイモアが右から左へと横薙ぎに振るわれる。
「なっ!?」
ゴルブロの口から思わず驚きの声が漏れる。
それでも後方に跳んで回避行動をとる彼だったが、一瞬間に合わず、クレイモアの剣先がその腹部を傷つけた。
それは、この戦いで彼が始めて負った本格的な負傷だった。
ゴルブロはそれに怯まず、エイクのクレイモアが左に抜けるのと同時に前進し、エイクの右脇腹を突く。この攻撃もエイクが身につけるスケイルアーマーを上手く貫き確実に傷を負わせた。
だが、それでもエイクは止まらない。
左から切り返されたクレイモアがゴルブロを狙う。
その攻撃を後退して避けたゴルブロだったが、驚愕を禁じ得なかった。
(馬鹿な!なぜあれで倒れない!)
そう思わずにいられない。
エイクが相当のダメージを負っているのは間違いない。戦いを継続できるギリギリの状態のように思える。しかし、それでもエイクの動きは緩まないのだ。
「うおおおぉぉ」
エイクが声を上げた。
そして、ゴルブロの動揺を見透かしたかのように、凄まじい速さでクレイモアを振るい、猛然と前進する。
ゴルブロは一時的に防戦一方に追い込まれ、左肩次いで右脇腹にも傷を負った。
(ここまでだ!)
そう判断したゴルブロは部下の名を叫んだ。
「ザンサルス!」
名を呼ばれたザンサルスは、いつでも使えるように準備していた魔法を、すかさずゴルブロに行使した。
それは風の精霊を用いた“空中歩行”の魔法だ。
ミカゲを宙に浮かせているのを同じ魔法である。
彼はゴルブロ一味で参謀役を務める幹部にして、優れた精霊使いでもあったのだ。
その魔法の効果を受けたゴルブロは、即座に空中を駆け上がってエイクから逃れる。
そして「やれ!」と叫んだ。
その声を受けたゴルブロの部下達全員が、一斉にエイクに向かって飛び道具を放つ。
ゴルブロは最初から、勝てば逃がしてやるという約束を守るつもりなどなかったのだ。
だが、エイクもゴルブロが約束を守るなどとは微塵も考えていなかった。
ミカゲが宙に浮いているのだから、情勢が悪くなればゴルブロも同じ方法で宙に逃れる。
そして、周り中から飛び道具で攻撃する。それが当然の作戦だ。
エイクも、もし自分が優位に立てばそんな状況になるだろうと思っていた。
そしてそれこそが、エイクが待ち望んだ展開でもあった。
ゴルブロが戦闘場所から離れ、その部下達も飛び道具を放とうとしているために、即座に戦闘場所に下りては来られない。
今ならエイクは何者にも邪魔されずに行動することが出来る。
エイクはゴルブロが入って来た扉に向かって全速で走りながら、懐から爆裂の魔石を取り出した。
彼はかつてロアンから上納された爆裂の魔石を、今回も携帯していたのだ。
これを使って扉を破壊して逃げる。
それが、彼が考えた唯一の脱出方法だった。
そのエイクに向かって幾本もの矢や投げナイフが降りそそぐ。
ミカゲが投じる飛刀もエイクの背に刺さった。
“神の拳”の魔法1発と、“気弾”2発、更に“魔力の礫”という“魔力の投槍”の下位に当たる古語魔法も2発放たれる。
ゴルブロの一味には、神聖術師や魔術師もいた。
だがエイクは、矢や投げナイフが突き刺さり、魔法がその身を打つのも無視して、そのまま体ごと扉にぶつかりながら「爆ぜろ!」とキーワードを叫びつつ爆裂の魔石を扉に叩きつける。
エイクが爆裂の魔石を投げて使わなかったのは、それでは爆発の衝撃が回りに流れて、上手く扉を破壊出来ない可能性があると思ったからだ。
彼は自らの体を使って、衝撃が少しでも逃げないようにしたのだった。
当然ながらエイク自身も爆発の衝撃をまともに受け、弾き飛ばされた。
だが、扉も半壊していた。
エイクはその場で転がって、引き続き浴びせかけられる飛び道具の攻撃を少しでも避けようとした。
しかし、少なくない数がその身体に当たる。
その中にまたしてもミカゲが投じた飛刀があり、脇腹をかすめたのをエイクは確かに目にした。
そこに更にザンサルスが強力な風の精霊魔法“烈旋風”を放つ。
だがエイクの魔法に対する抵抗力は高い。
彼はその攻撃からは大したダメージを受けず立ち上がり、再度扉に向かって全速力で走った。
そして、その半壊した扉を体当たりで突き破って通路に飛び込み、そのままわき目も振らずに脱兎の如く駆け出した。
ゴルブロとその部下達の中には、とっさに狭い通路の中に入ってエイクを追うという決断が出来る者はいなかった。
こうしてエイクは、辛うじて虎口を脱したのだった。
エイクとゴルブロはめまぐるしく動き、その武器をひるがえす。
その一撃一撃が、冒険者なら上級上位と位置づけられる戦士でも容易く捉えるほどに鋭い。
そして、当たれば一般の兵士程度なら一撃で倒れるほどの威力が込められていた。
それは正に英雄級の戦いというに相応しいものだった。
大陸最大の闘技場においてさえ、これほどの戦いはめったに見ることは出来ないだろう。
実際、観客席のゴルブロの部下達はその戦いに見入っていた。
そして彼らには、観戦を楽しむ余裕があった。
戦いは明らかにゴルブロ有利に展開していたからだ。
本格的に守りを固めたエイクに対しては、ゴルブロも攻撃も避けられることの方が多かった。
それでも数分間に及ぶ攻防を経て、ゴルブロのコピスは最初の一撃も含めて七度エイクを傷つけていた。
これに対して、エイクのクレイモアは一回もゴルブロを捉えていない。
ゴルブロの部下達は、自分達の頭目がエイクに傷を負わせるたびに歓声を上げた。
ゴルブロ自身も、不敵な笑みを絶やさずに戦っている。
しかし、彼には見た目ほどの余裕はなくなっていた。
(この餓鬼、どうなってやがる)
ゴルブロは内心で不審の声を上げた。エイクの耐久力の高さに異様なものを感じていたからだ。
身に宿すオドの質と量によって、その生命力は増加し防御力も高まり耐久力は増す。
並の人間なら一撃で真っ二つにしてしまうほどの強撃でも、相手によっては肉で止められてしまうこともある。
そんな事はゴルブロも良く知っていた。
彼自身、常人離れしたオドの持ち主なのだから。
だが、そのゴルブロから見てもエイクの耐久力は段違いだった。
最初は真実戦闘を楽しんでいたゴルブロだったが、4回攻撃を当てたところで、平静ではいられなくなっていた。
自分なら戦闘不能になっているほどのダメージを与えているはずなのに、エイクはまだまだ耐えられそうだったからである。
そこから更に3度攻撃を当てたが、なおもエイクは倒れない。その中には、会心の一撃と思える手ごたえのものもあったにも関わらず、だ。
さすがにエイクも苦しそうな様子ではある。だが、その剣技は未だ衰えを見せない。
更にゴルブロを焦らせているのはマナの消耗だった。
彼は錬生術を繰り返し発動させる為に、既に自分自身のマナを粗方使い尽くしており、携帯していた魔石を使用していた。
ゴルブロは、一つで万を超える額になる最高品質の魔石を五つ携帯していたが、そのうちの三つを既に使用していた。
このまま魔石を使い尽くして錬生術が使えなくなり、その時エイクがまだ錬生術を使えたならば、情勢は完全にひっくり返る。負けるのは自分だ。
その時ゴルブロはエイクの動きに決定的な隙を見出し、すかさず攻撃した。
彼のコピスはエイクの喉元を捉えた。急所への一撃である。
(これで終わりだ!)
ゴルブロはそう思った。この一撃で、死にはしなくとも戦闘不能には陥る。そう判断したのだ。
しかし、エイクの動きは止まらなかった。
その手のクレイモアが右から左へと横薙ぎに振るわれる。
「なっ!?」
ゴルブロの口から思わず驚きの声が漏れる。
それでも後方に跳んで回避行動をとる彼だったが、一瞬間に合わず、クレイモアの剣先がその腹部を傷つけた。
それは、この戦いで彼が始めて負った本格的な負傷だった。
ゴルブロはそれに怯まず、エイクのクレイモアが左に抜けるのと同時に前進し、エイクの右脇腹を突く。この攻撃もエイクが身につけるスケイルアーマーを上手く貫き確実に傷を負わせた。
だが、それでもエイクは止まらない。
左から切り返されたクレイモアがゴルブロを狙う。
その攻撃を後退して避けたゴルブロだったが、驚愕を禁じ得なかった。
(馬鹿な!なぜあれで倒れない!)
そう思わずにいられない。
エイクが相当のダメージを負っているのは間違いない。戦いを継続できるギリギリの状態のように思える。しかし、それでもエイクの動きは緩まないのだ。
「うおおおぉぉ」
エイクが声を上げた。
そして、ゴルブロの動揺を見透かしたかのように、凄まじい速さでクレイモアを振るい、猛然と前進する。
ゴルブロは一時的に防戦一方に追い込まれ、左肩次いで右脇腹にも傷を負った。
(ここまでだ!)
そう判断したゴルブロは部下の名を叫んだ。
「ザンサルス!」
名を呼ばれたザンサルスは、いつでも使えるように準備していた魔法を、すかさずゴルブロに行使した。
それは風の精霊を用いた“空中歩行”の魔法だ。
ミカゲを宙に浮かせているのを同じ魔法である。
彼はゴルブロ一味で参謀役を務める幹部にして、優れた精霊使いでもあったのだ。
その魔法の効果を受けたゴルブロは、即座に空中を駆け上がってエイクから逃れる。
そして「やれ!」と叫んだ。
その声を受けたゴルブロの部下達全員が、一斉にエイクに向かって飛び道具を放つ。
ゴルブロは最初から、勝てば逃がしてやるという約束を守るつもりなどなかったのだ。
だが、エイクもゴルブロが約束を守るなどとは微塵も考えていなかった。
ミカゲが宙に浮いているのだから、情勢が悪くなればゴルブロも同じ方法で宙に逃れる。
そして、周り中から飛び道具で攻撃する。それが当然の作戦だ。
エイクも、もし自分が優位に立てばそんな状況になるだろうと思っていた。
そしてそれこそが、エイクが待ち望んだ展開でもあった。
ゴルブロが戦闘場所から離れ、その部下達も飛び道具を放とうとしているために、即座に戦闘場所に下りては来られない。
今ならエイクは何者にも邪魔されずに行動することが出来る。
エイクはゴルブロが入って来た扉に向かって全速で走りながら、懐から爆裂の魔石を取り出した。
彼はかつてロアンから上納された爆裂の魔石を、今回も携帯していたのだ。
これを使って扉を破壊して逃げる。
それが、彼が考えた唯一の脱出方法だった。
そのエイクに向かって幾本もの矢や投げナイフが降りそそぐ。
ミカゲが投じる飛刀もエイクの背に刺さった。
“神の拳”の魔法1発と、“気弾”2発、更に“魔力の礫”という“魔力の投槍”の下位に当たる古語魔法も2発放たれる。
ゴルブロの一味には、神聖術師や魔術師もいた。
だがエイクは、矢や投げナイフが突き刺さり、魔法がその身を打つのも無視して、そのまま体ごと扉にぶつかりながら「爆ぜろ!」とキーワードを叫びつつ爆裂の魔石を扉に叩きつける。
エイクが爆裂の魔石を投げて使わなかったのは、それでは爆発の衝撃が回りに流れて、上手く扉を破壊出来ない可能性があると思ったからだ。
彼は自らの体を使って、衝撃が少しでも逃げないようにしたのだった。
当然ながらエイク自身も爆発の衝撃をまともに受け、弾き飛ばされた。
だが、扉も半壊していた。
エイクはその場で転がって、引き続き浴びせかけられる飛び道具の攻撃を少しでも避けようとした。
しかし、少なくない数がその身体に当たる。
その中にまたしてもミカゲが投じた飛刀があり、脇腹をかすめたのをエイクは確かに目にした。
そこに更にザンサルスが強力な風の精霊魔法“烈旋風”を放つ。
だがエイクの魔法に対する抵抗力は高い。
彼はその攻撃からは大したダメージを受けず立ち上がり、再度扉に向かって全速力で走った。
そして、その半壊した扉を体当たりで突き破って通路に飛び込み、そのままわき目も振らずに脱兎の如く駆け出した。
ゴルブロとその部下達の中には、とっさに狭い通路の中に入ってエイクを追うという決断が出来る者はいなかった。
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