剣魔神の記

ギルマン

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第4章

45.英雄級冒険者となるには

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 エイクは、予定通り翌日昼前に王都に帰着した。
 屋敷に戻ったエイクを、玄関先でアルターとエミリオが出迎え、アルターは早速その場で報告を行った。
「昨日セレナ殿より、調査に進展があったとの連絡がございました。是非エイク様に直接お伝えしたいとの事です」
 直接話したいということは、報告の内容は重要な物なのだろう。

 エイクは即座に答えた。
「そうか、出来るだけ早く話しを聞きたい。直ぐに連絡をとってくれ」 
「はい、早速に。
 エミリオ、予定通りロアン殿のところに使いに走ってください」
「はい、分かりました。
 では、失礼いたします」
 エミリオはエイクにそう告げてから、直ぐに外に向かった。

 アルターはエイクが物事に時間をかけるのを嫌う事を察しており、直ぐにでもセレナと連絡をとろうとするだろうと判断して、予め準備をしていたらしい。
 エイク帰還と同時に使いを送る段取りだったようだ。エイクにとって、大変好ましい対応だった。

 アルターは言葉を続けた。
「セレナ殿もエイク様が近いうちに戻る事を想定して、直ぐに連絡がつくように手配しているとの事でした。恐らく今日中に話しを聞くことが出来るかと思います」
「それは、ありがたいな」
「それから、他にもいくつかご連絡する事がございます……」

 と、アルターが話しを進めたところで、エイクは後ろを振り返り、今し方エミリオが出て行った扉の向こうを見た。
 エイクは、エミリオの動きをオドの感知と気配を伺うことで探っていたのだが、その時玄関先に、何か違和感を感じたのだった。
「どうかいたしましたか?」
「いや、なんでもない。他の報告は俺の部屋で聞こう」
 エイクはそう言って、自室へと移動した。だが、その意識は後ろへと鋭く向けられている。

「何かございましたか?」
 エイクの部屋に着いたところで、アルターがそう聞いた。
 自身がかなりの使い手であるアルターは、エイクの様子が普段と違うのを察していた。
 エイクは少し考えるような素振りをしつつ答えた。
「少し、変な気配を感じたような気がしたんだ。
 だが、ここまで動いてくる間にも気を配っていたが、特に何も感じなかった。
 迷宮で色々あったから、気にしすぎているのかもしれない。
 ただ、この屋敷が何らかの方法で監視される可能性は高い。今後は今まで以上に気を配るようにしよう」
「畏まりました」

 アルターはそう答え、一拍おいてから改めてエイクに問いかけた。
「それでは、ご報告をさせていただいても、かまいませんか?」
「ああ、頼む」

「まず、ハイファ神殿から連絡がございました。ユリアヌス大司教が、時間が取れればエイク様とお会いしたいとの意向をお持ちとの事です。
 次に、炎獅子隊のギスカー副隊長からも面会の打診がございました。エイク様がお留守と伝えたところ、ギスカー副隊長も忙しくなってしまい、しばらく時間が作れないので、時間が出来たら改めて連絡すると承っています。
 ラスコー伯爵家のマルギット殿からも同じく面会の打診が来ております。こちらはエイク様の都合がついたら連絡をして欲しいとの事です。
 “イフリートの宴亭”のガゼック殿からも、お話ししたいことがあるので、時間があれば店に顔を出して欲しいとの連絡がございました。
 最後に、修理に出していた鎧が出来上がって来ております」

「そうか……。マルギットさんには、明日の午後なら時間が取れると伝えてくれ。
 ガゼックのところには、時間が空いた時に適当に顔を出す。連絡は不要だ。
 他は、連絡待ちだな。
 それじゃあ、とりあえず身支度を整えたい。ついでに鎧も代えよう。準備をしてくれ」
 エイクはそう告げた。
 エイクは、昨日は朝から迷宮で戦い、その日の内にサルゴサの街を出て、街道で野営をして王都に着いたところだ。
 大分汚れもたまっていた。

「ああ、それと、夜にテティス達と模擬戦形式の訓練をしたい。準備をさせておいてくれ」
 エイクは最後にそう告げた。
「畏まりました」
 そのアルターの答を受けてから、エイクはようやく旅装を解いたのだった。



 エイクが身を清め終わり、身支度を整えて食事をとっている時にセレナからの返答があった。夕刻には、いつもどおりロアンの屋敷で報告することが出来る。とのことだ。
 夕刻まで時間が空くことになったエイクは、その間に早速“イフリートの宴亭”に顔を出すことにした。

 “イフリートの宴亭”に着いたエイクは、店のカウンターに立っていたマーニャに声をかけた。
「何か話があると聞いて来たんだが」
「は、はい。父がお話しします。奥へどうぞ」
 マーニャの案内で、エイクが奥の部屋に進んで席に着くと、ガゼックが直ぐにやってきて話しを始めた。

「お話しさせていただきたかったことは、エイク様の冒険者としての級位のことです。
 近いうちに王都の冒険者の店の店主の会合がありまして、そこでエイク様を英雄級に推そうと考えておりまして、予め下準備もしているのですが、強行に反対している店がありまして……」

 英雄級冒険者ともなれば、冒険者全体の顔にもなるので、実質的なギルドを組んでいる他の冒険者の店の多くが賛同しなければ、名乗る事は出来ないとされている。
 そして、エイクを英雄級とすることに反対の店があるらしい。

「どこの店だ?」
「“英雄の凱歌亭”です」
「確か、王都で唯一の英雄級冒険者を抱えている店だな」
「そのとおりです。その、英雄級冒険者が居るのは自分の店だけという地位を守りたいようで……。
 露骨に裏工作をして、エイク様を英雄級とすることに反対するように他の店に働きかけているようなのです。
 このままですと、こちらも何か工作をしないと、エイク様を英雄級とするのは難しい情勢でして」

「要するに、金を配ったり有力者に働きかけたりする必要があるという事だな」
「そういうことです。
 凱歌停の抱えている英雄級冒険者は、実績を見る限りエイク様よりも明らかに格下なのですが、腹立たしいことです」
「……」
 エイクはしばらく考えた末にガゼックに答えた。
「それは止めておこう。裏工作をして無理やり英雄級になったと思われては、むしろ俺の評判が下がる」
 エイクはそう判断した。

 エイクとしては、“英雄級冒険者”というものにそれなりの思い入れがあった。かつて冒険者時代の父ガイゼイクも最終的には“英雄級”と呼ばれていたからだ。
 しかし、エイクが冒険者としての級位を高めようとしているのは、それを自分の名声に結び付けて、今後の活動をしやすくするためである。
 何らかの裏工作をして英雄級になった場合、その部分だけを見られれば、不当な方法で英雄級になったと思われて、むしろ名声を落とす事になりかねない。それでは本末転倒である。

「お前は、その会合では、俺の実際の功績だけを挙げて、正当なやり方だけで英雄級に推しておけ。それで無理なら、それでいい。
 俺がこのまま功績を挙げていけば、恥をかくのは反対した連中になる」
「分かりました。おっしゃるとおりにいたします。
 それともう1つ。今月分の配当金をお渡しできる見込みです。来月の頭には精算して、ご説明の上お渡ししようと思っています」
「そうか、それは商売繁盛で結構なことだな」
 エイクはそう答えた。

 エイクは、自分が賠償金としてガゼックから受け取るべき50万Gを、出資金としてガゼックに預けるという形にして、代わりに収益に応じた配当金を受け取るという契約を結んでいる。
 だが、その配当金の計算は、かなりガゼック側に有利になっており、それなりの収益が上がっていなければ配当金は生じないはずだった。
「全てエイク様のお陰です。ありがとうございます」
 ガゼックはそう告げる。

 確かにエイクは今月の前半に、成竜にも匹敵するといわれるドラゴ・キマイラを単身で討伐して、かなりの話題をさらった。これは、エイクが属する“イフリートの宴亭”にも良い影響を与えたはずだ。
 また、賞金首となったゴルブロ一味も、その主力はエイクと、エイクの配下にあたる冒険者パーティ“黄昏の蛇”が倒している。これも“イフリートの宴亭”の利益になっていた。
「その調子でせいぜい稼いでくれ。その方が俺の利益にもなるからな」
「は、はい。頑張らせていただきます」
 ガゼックはエイクにそう答えながら頭を下げた。

 ガゼックとの話しを終えたエイクは、店の表に回ってまたマーニャに声をかけた。
「今、時間は空いているか?」
「はい」
「それじゃあ、少し付き合ってくれ。2階を使わせてもらおう」
「い、今から、ですか?」
「そうだ。何か予定でもあるのか?」
「あ、ありません……。だ、大丈夫です」
「じゃあ、頼む」
 エイクはそう告げて2階への階段を上がった。
 マーニャもそれに従う。

 エイクの態度は、昼食でも頼むような気軽なものだ。
 そして実際に、昼食でも食べるようにマーニャを貪ったのだった。
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