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第4章
76.妖魔の群れ
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エイクがフィントリッドの城に帰還する6日前。
その日の夕刻、炎獅子隊から妖魔討伐遠征補助の依頼を受けていた“黄昏の蛇”一行は、任務地であるチムル村に到着した。
チムル村を任務地とする冒険者パーティはもう一組あった。“輝く稜線”と名乗る6人組のパーティだ。
既に2日前にチムル村に到着していた“輝く稜線”の面々は、任務の開始期日ギリギリでやってきた“黄昏の蛇”に対してよい印象を持っていないようだった。
だが、特にトラブルになるほどの事はなく、それぞれ管轄範囲を決めて、翌日から早速ヤルミオンの森に立ち入ってその様子を探り始めた。
ヤルミオンの森の様子を探り、何か異変があれば、近隣の村々や妖魔討伐の為に動いているアストゥーリア王国軍に連絡する事。それが、炎獅子隊から受けた依頼内容だ。
探索の初日と2日目は特におかしなことはなかった。村の近くの森を入念に探索したが、特に妖魔などの魔物の気配はなかったのである。
だが、3日目に探索範囲を広げたところで、テティスは違和感を持った。逆に妖魔の痕跡がなさすぎると思ったのだ。
探索を終えて帰還したテティス達は“輝く稜線”の面々と意見交換を行った。
“輝く稜線”に属する野伏も、テティスと同じ見解だった。
翌日、“黄昏の蛇”と“輝く稜線”の両パーティは、相談の上それぞれの探索範囲を、更に森の奥へと進める事にした。
テティスは、他の者達を後方に残し、1人で先へ進み探索を行った。
後に残してきた者達に対して若干の不安はあったが、最も野伏としての力量に優れた自分が、深く、慎重に探る方が重要だと考えたのである。
(動物の気配が少なすぎる)
奥へと進んだテティスはそう感じた。それは森に何か異変が生じている事を示唆している。
そしてテティスの鋭敏な聴覚は、遠方からの音を聞き取った。それは多くの人々が集まる場所で生じる、騒めきのような音だった。
普通なら森の中で聞こえるようなものではない。
テティスは一層慎重にその音の方に向かった。
その途中で、ついに妖魔を発見した。2体のゴブリンと1体のコボルドだ。
ゴブリン達は周りを見回しながら移動している。偵察しているように見える動きだった。
身を隠してそのゴブリン達をやり過ごしたテティスは、更にその先へと進む。
すると、木の上に登って周りを見ているボガードを発見した。
(見張り役のようね)
そう判断したテティスは、相手から気付かれないようにその場所から移動し、少し離れたところで自身も静かに木に登って、その先の様子を見てみる事にした。
そして、それを目にした。
それは、妖魔の大集団だった。
木々の間から垣間見えるだけではあったが、間違いはない。
(500はいる)
テティスはそう見て取った。
その多くはゴブリンかコボルドだ。だが、それなりの数のボガードの姿もあるし、少数だがオークやトロールもいる。チムル村を滅ぼすには十分すぎる戦力だ。
更に言えば、この数の妖魔が集団になっている以上、それを束ねる相当強い個体が居るのも、まず間違いない。
慎重に木から降りたテティスは、細心の注意を払いつつ仲間たちの下へと戻った。
幸い無事に合流する事が出来た。
テティスは仲間たちに事情を説明し、速やかにチムル村へと戻ることにした。
これは、何をどう考えても報告すべき重大な異変だ。
“黄昏の蛇”一行がチムル村へ戻った時、チムル村では若干の騒動が起こっていた。
“輝く稜線”の面々が、連絡要員としてチムル村に駐留した兵士たちに食って掛かっていたのである。
「だから、今すぐに、緊急連絡を入れろ! しゃれにならねぇぞ!」
兵士に向かってそう叫んでいるのは“輝く稜線”のリーダーだ。
ロバートという名の、中々整った顔立ちの20代後半に見える男である。
「だ、だが見間違いという事も……」
「もう少し確認をした方が……」
兵士たちはそんな事を口にした。
「100や200の数じゃあねえんだ。見間違いなんてありえねぇ。いいからさっさと動け!」
ロバートが更に声を荒げた。
どうやらロバートが異常ありの緊急連絡をすることを求めており、兵士がそれを渋っているようだ。
テティスがそこに割って入って、ロバートに向かって告げる。
「大量の妖魔を発見したのですか?」
「そうだ!」
ロバートが叫ぶようにそう答えた。
「数は?」
「ざっと500以上だ」
「そうですか。私が見つけたのも同じくらいの数でした」
「なッ!」
ロバートは絶句した。
兵士たちも声もなく顔色を青ざめさせている。
「合わせて1000以上。しかもそれで全部という保証もありません。
まだ、緊急連絡を入れるのに不足がありますか」
テティスは兵士たちに厳しい視線を向けながらそう言った。
「わ、分かった」
兵士の代表がそう答え、ようやく彼らは動き始めた。
しばらくして、真っ黒な煙が2本上がる。
異常発生を知らせる狼煙だ。
そして、兵士の内2人が馬で南へと向かった。
アストゥーリア王国妖魔討伐軍の本隊及び別動隊へ、直接連絡を入れる為である。
更に北にも使者が飛ぶ。サルゴサから南下する部隊にも連絡を入れるためだ。
残った兵士は、村人たちに状況を伝え、援軍は直ぐに来る手はずになっているから心配するな。とも告げて、出来る限りの準備を進めるように指示した。
当然ながら村人たちの動揺は激しかった。
だが、ベニート村長と自警団長のラルゴは、どうにか村人たちをなだめ、空堀や土塁の崩れかけた部分を直すなどの作業を始めた。
援軍の到来を信じて、多少なりとも防御を固める事が最善だと判断したのである。
テティスも他の冒険者たちも、出来る限りその作業を手伝った。
幸いにも、炎獅子隊参謀のマチルダが心を砕いて準備した、緊急時の連絡体制は有効に働いた。
翌日の朝方には、妖魔討伐軍の別動隊がチムル村到着したのである。
不測の事態に備えて巡回していた、炎獅子隊副隊長ヴァスコ・ベネスと参謀マチルダが率いる、炎獅子隊員50、それ以外の兵士150、合計兵力約200の騎馬部隊だ。
「私が間に合ったからにはもう安心だぞ。妖魔の群れなど、全て我が武功としてくれる!」
チムル村に到着したヴァスコ・ベネスは、集まって来た村人たちに向かってそう宣言した。
「だが、何事にも準備を怠ってはならん。やっておいて欲しい事がある。
村の建物に被害が出るが、後で確実に補償してやる。こちらの指示に従って作業を進めてくれ」
そしてそう続ける。
「畏まりました騎士様。ご命令に従います」
ベニート村長が代表してそう答えた。
「よし。村長、会議用に部屋を借りるぞ」
「どうぞ、ご案内いたします」
そうしてヴァスコは、ベニートの案内でその屋敷に入っていった。参謀のマチルダもそれに続く。
テティスとロバートは、兵士に告げられ村長の屋敷の一室に赴いた。
その部屋には、ヴァスコ・ベネスとマチルダが待っていた。
テティス達から机を挟んで正面の席に座っている、厳つい顔の体格の良い男が炎獅子隊副隊長の一人にして、別動隊の指揮官ヴァスコ・ベネス。
その右隣に立つ、すらりとした体形の女が参謀のマチルダだ。
その容貌は相応の年齢を感じさせるものではあったが、凛々しく整っており、まだまだ美しいと言えるものだった。そして、鮮やかな赤髪を結い上げている。
ヴァスコとマチルダは、現状を出来るだけ早急に知るために、妖魔を発見した冒険者パーティの代表者2名を、会議用として借り受けた部屋に呼んだのだった。
テティスとロバートが入室すると、ヴァスコが早速口を開いた。
「自分は、今回の妖魔討伐軍の別動隊を指揮しているヴァスコ・ベネスという。炎獅子隊の副隊長を務めている。この村の防衛の指揮も私がとる事になる。
それで、早速だが、森で発見されたという妖魔について、詳しく教えてくれ」
その口調は固いものだった。何度も戦を経験しているヴァスコは、数の脅威を侮るつもりなど一切なかった。
村に到着した際の大言壮語は、兵士と村人たちの士気を挫かない為の虚勢に過ぎない。
テティス達はヴァスコの言葉に従い、それぞれ報告を行った。
一通り報告を受けたヴァスコは、参謀のマチルダに意見を聞いた。
「マチルダ、どう見る?」
「昨日の段階で、妖魔の戦闘準備は整っているようです。そして、狼煙を上げたりといった、こちらの動きも知られたはず。
念のため斥候を放っていますが、その報告を待つまでもなく、今日の日暮れと同時に攻めかかって来ると考えておくべきでしょう。
我が方の援軍ですが、直近に本隊と連絡を取り合った際の状況を踏まえる限り、トラブルさえなければ、明日の夕暮れには到着していただけるはずです」
「丸1日、持ちこたえればどうにかなるか……」
呟くようにそう告げたヴァスコの顔は険しいままだ。
マチルダもまた厳しい口調で言葉を返す。
「もし妖魔の数が約1000で全てなら、何とかなる可能性が高いと思われます。
ですが、それ以上ならば、この村の防衛施設の状況で耐え切れるかどうか、楽観を許しません。
いずれにしても、今は出来る限りの準備を進めるしかありません」
そのように告げたマチルダは、テティスとロバートの方を向いて声をかけた。
「申し訳ありませんが、私共の指揮下に入って共に戦ってください。
依頼には不測の事態への対処も含まれていました。ですから、これは契約の範疇です。
追加報酬はお約束いたしますので、何卒お願いします」
「わかりました」
テティスはそう答えた。
ロバートもまた真剣な表情で答える。
「俺のフルネームは、ロバート・ケレイス。これでも子爵家の一族だ。しかも、一族揃ってハイファ神を信仰している。
ケレイス家の名誉と俺の信仰にかけて、民を見捨てるなんて事は絶対にしねぇよ」
己の出自を明らかにしたロバートがそう宣言した。
ちなみに、家督を継げない貴族の子弟が冒険者に身をやつすのは、それなりに起こる事だ。
「ありがとうございます」
マチルダはそう言って頭を下げる。
「頼む」
ヴァスコもそう告げた。
こうして、チムル村防衛の戦いが行われる事となった。
守備部隊の戦力は、約200の正規軍と11名の冒険者達、そして多少なりとも戦える村人約50である。
対して、襲いくるだろう妖魔は、最低でも千を超える大群だということ以外は、その総数すら未だ不明だった。
その日の夕刻、炎獅子隊から妖魔討伐遠征補助の依頼を受けていた“黄昏の蛇”一行は、任務地であるチムル村に到着した。
チムル村を任務地とする冒険者パーティはもう一組あった。“輝く稜線”と名乗る6人組のパーティだ。
既に2日前にチムル村に到着していた“輝く稜線”の面々は、任務の開始期日ギリギリでやってきた“黄昏の蛇”に対してよい印象を持っていないようだった。
だが、特にトラブルになるほどの事はなく、それぞれ管轄範囲を決めて、翌日から早速ヤルミオンの森に立ち入ってその様子を探り始めた。
ヤルミオンの森の様子を探り、何か異変があれば、近隣の村々や妖魔討伐の為に動いているアストゥーリア王国軍に連絡する事。それが、炎獅子隊から受けた依頼内容だ。
探索の初日と2日目は特におかしなことはなかった。村の近くの森を入念に探索したが、特に妖魔などの魔物の気配はなかったのである。
だが、3日目に探索範囲を広げたところで、テティスは違和感を持った。逆に妖魔の痕跡がなさすぎると思ったのだ。
探索を終えて帰還したテティス達は“輝く稜線”の面々と意見交換を行った。
“輝く稜線”に属する野伏も、テティスと同じ見解だった。
翌日、“黄昏の蛇”と“輝く稜線”の両パーティは、相談の上それぞれの探索範囲を、更に森の奥へと進める事にした。
テティスは、他の者達を後方に残し、1人で先へ進み探索を行った。
後に残してきた者達に対して若干の不安はあったが、最も野伏としての力量に優れた自分が、深く、慎重に探る方が重要だと考えたのである。
(動物の気配が少なすぎる)
奥へと進んだテティスはそう感じた。それは森に何か異変が生じている事を示唆している。
そしてテティスの鋭敏な聴覚は、遠方からの音を聞き取った。それは多くの人々が集まる場所で生じる、騒めきのような音だった。
普通なら森の中で聞こえるようなものではない。
テティスは一層慎重にその音の方に向かった。
その途中で、ついに妖魔を発見した。2体のゴブリンと1体のコボルドだ。
ゴブリン達は周りを見回しながら移動している。偵察しているように見える動きだった。
身を隠してそのゴブリン達をやり過ごしたテティスは、更にその先へと進む。
すると、木の上に登って周りを見ているボガードを発見した。
(見張り役のようね)
そう判断したテティスは、相手から気付かれないようにその場所から移動し、少し離れたところで自身も静かに木に登って、その先の様子を見てみる事にした。
そして、それを目にした。
それは、妖魔の大集団だった。
木々の間から垣間見えるだけではあったが、間違いはない。
(500はいる)
テティスはそう見て取った。
その多くはゴブリンかコボルドだ。だが、それなりの数のボガードの姿もあるし、少数だがオークやトロールもいる。チムル村を滅ぼすには十分すぎる戦力だ。
更に言えば、この数の妖魔が集団になっている以上、それを束ねる相当強い個体が居るのも、まず間違いない。
慎重に木から降りたテティスは、細心の注意を払いつつ仲間たちの下へと戻った。
幸い無事に合流する事が出来た。
テティスは仲間たちに事情を説明し、速やかにチムル村へと戻ることにした。
これは、何をどう考えても報告すべき重大な異変だ。
“黄昏の蛇”一行がチムル村へ戻った時、チムル村では若干の騒動が起こっていた。
“輝く稜線”の面々が、連絡要員としてチムル村に駐留した兵士たちに食って掛かっていたのである。
「だから、今すぐに、緊急連絡を入れろ! しゃれにならねぇぞ!」
兵士に向かってそう叫んでいるのは“輝く稜線”のリーダーだ。
ロバートという名の、中々整った顔立ちの20代後半に見える男である。
「だ、だが見間違いという事も……」
「もう少し確認をした方が……」
兵士たちはそんな事を口にした。
「100や200の数じゃあねえんだ。見間違いなんてありえねぇ。いいからさっさと動け!」
ロバートが更に声を荒げた。
どうやらロバートが異常ありの緊急連絡をすることを求めており、兵士がそれを渋っているようだ。
テティスがそこに割って入って、ロバートに向かって告げる。
「大量の妖魔を発見したのですか?」
「そうだ!」
ロバートが叫ぶようにそう答えた。
「数は?」
「ざっと500以上だ」
「そうですか。私が見つけたのも同じくらいの数でした」
「なッ!」
ロバートは絶句した。
兵士たちも声もなく顔色を青ざめさせている。
「合わせて1000以上。しかもそれで全部という保証もありません。
まだ、緊急連絡を入れるのに不足がありますか」
テティスは兵士たちに厳しい視線を向けながらそう言った。
「わ、分かった」
兵士の代表がそう答え、ようやく彼らは動き始めた。
しばらくして、真っ黒な煙が2本上がる。
異常発生を知らせる狼煙だ。
そして、兵士の内2人が馬で南へと向かった。
アストゥーリア王国妖魔討伐軍の本隊及び別動隊へ、直接連絡を入れる為である。
更に北にも使者が飛ぶ。サルゴサから南下する部隊にも連絡を入れるためだ。
残った兵士は、村人たちに状況を伝え、援軍は直ぐに来る手はずになっているから心配するな。とも告げて、出来る限りの準備を進めるように指示した。
当然ながら村人たちの動揺は激しかった。
だが、ベニート村長と自警団長のラルゴは、どうにか村人たちをなだめ、空堀や土塁の崩れかけた部分を直すなどの作業を始めた。
援軍の到来を信じて、多少なりとも防御を固める事が最善だと判断したのである。
テティスも他の冒険者たちも、出来る限りその作業を手伝った。
幸いにも、炎獅子隊参謀のマチルダが心を砕いて準備した、緊急時の連絡体制は有効に働いた。
翌日の朝方には、妖魔討伐軍の別動隊がチムル村到着したのである。
不測の事態に備えて巡回していた、炎獅子隊副隊長ヴァスコ・ベネスと参謀マチルダが率いる、炎獅子隊員50、それ以外の兵士150、合計兵力約200の騎馬部隊だ。
「私が間に合ったからにはもう安心だぞ。妖魔の群れなど、全て我が武功としてくれる!」
チムル村に到着したヴァスコ・ベネスは、集まって来た村人たちに向かってそう宣言した。
「だが、何事にも準備を怠ってはならん。やっておいて欲しい事がある。
村の建物に被害が出るが、後で確実に補償してやる。こちらの指示に従って作業を進めてくれ」
そしてそう続ける。
「畏まりました騎士様。ご命令に従います」
ベニート村長が代表してそう答えた。
「よし。村長、会議用に部屋を借りるぞ」
「どうぞ、ご案内いたします」
そうしてヴァスコは、ベニートの案内でその屋敷に入っていった。参謀のマチルダもそれに続く。
テティスとロバートは、兵士に告げられ村長の屋敷の一室に赴いた。
その部屋には、ヴァスコ・ベネスとマチルダが待っていた。
テティス達から机を挟んで正面の席に座っている、厳つい顔の体格の良い男が炎獅子隊副隊長の一人にして、別動隊の指揮官ヴァスコ・ベネス。
その右隣に立つ、すらりとした体形の女が参謀のマチルダだ。
その容貌は相応の年齢を感じさせるものではあったが、凛々しく整っており、まだまだ美しいと言えるものだった。そして、鮮やかな赤髪を結い上げている。
ヴァスコとマチルダは、現状を出来るだけ早急に知るために、妖魔を発見した冒険者パーティの代表者2名を、会議用として借り受けた部屋に呼んだのだった。
テティスとロバートが入室すると、ヴァスコが早速口を開いた。
「自分は、今回の妖魔討伐軍の別動隊を指揮しているヴァスコ・ベネスという。炎獅子隊の副隊長を務めている。この村の防衛の指揮も私がとる事になる。
それで、早速だが、森で発見されたという妖魔について、詳しく教えてくれ」
その口調は固いものだった。何度も戦を経験しているヴァスコは、数の脅威を侮るつもりなど一切なかった。
村に到着した際の大言壮語は、兵士と村人たちの士気を挫かない為の虚勢に過ぎない。
テティス達はヴァスコの言葉に従い、それぞれ報告を行った。
一通り報告を受けたヴァスコは、参謀のマチルダに意見を聞いた。
「マチルダ、どう見る?」
「昨日の段階で、妖魔の戦闘準備は整っているようです。そして、狼煙を上げたりといった、こちらの動きも知られたはず。
念のため斥候を放っていますが、その報告を待つまでもなく、今日の日暮れと同時に攻めかかって来ると考えておくべきでしょう。
我が方の援軍ですが、直近に本隊と連絡を取り合った際の状況を踏まえる限り、トラブルさえなければ、明日の夕暮れには到着していただけるはずです」
「丸1日、持ちこたえればどうにかなるか……」
呟くようにそう告げたヴァスコの顔は険しいままだ。
マチルダもまた厳しい口調で言葉を返す。
「もし妖魔の数が約1000で全てなら、何とかなる可能性が高いと思われます。
ですが、それ以上ならば、この村の防衛施設の状況で耐え切れるかどうか、楽観を許しません。
いずれにしても、今は出来る限りの準備を進めるしかありません」
そのように告げたマチルダは、テティスとロバートの方を向いて声をかけた。
「申し訳ありませんが、私共の指揮下に入って共に戦ってください。
依頼には不測の事態への対処も含まれていました。ですから、これは契約の範疇です。
追加報酬はお約束いたしますので、何卒お願いします」
「わかりました」
テティスはそう答えた。
ロバートもまた真剣な表情で答える。
「俺のフルネームは、ロバート・ケレイス。これでも子爵家の一族だ。しかも、一族揃ってハイファ神を信仰している。
ケレイス家の名誉と俺の信仰にかけて、民を見捨てるなんて事は絶対にしねぇよ」
己の出自を明らかにしたロバートがそう宣言した。
ちなみに、家督を継げない貴族の子弟が冒険者に身をやつすのは、それなりに起こる事だ。
「ありがとうございます」
マチルダはそう言って頭を下げる。
「頼む」
ヴァスコもそう告げた。
こうして、チムル村防衛の戦いが行われる事となった。
守備部隊の戦力は、約200の正規軍と11名の冒険者達、そして多少なりとも戦える村人約50である。
対して、襲いくるだろう妖魔は、最低でも千を超える大群だということ以外は、その総数すら未だ不明だった。
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