剣魔神の記

ギルマン

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第5章

21.魔剣製作者に関する曖昧な話

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 ―――魔剣を作れる者が居るかもしれない。
 エイクは、そのような事を告げられることを予想しておらず面食らった。だが、直ぐにその話に興味を持った。
 サルゴサの迷宮で、魔法の力場によって守られたオリハルコンゴーレムと戦って以来、攻撃の威力を高めなければならないと思っていたからだ。

 攻撃の威力を高める最も手っ取り早い方法は、強力な武器を使う事である。魔法の武器は当然強力な武器の有力候補だ。
 と言っても、実のところ魔法の武器の多くは、さほど極端に高威力なわけではない。どちらかと言えば、攻撃の精度を向上させる効果の方が意味があり、威力の向上はそこまで劇的ではない物が多い。
 だから、軽い魔法の武器よりも重厚な通常の武器の方が一撃の威力が高いなどということも生じ得る。

 実際、エイクが今使っている最高品質の硬鉄鋼を使った重厚なクレイモアよりも威力の高い魔剣は中々ないはずだ。まして、エイクの桁外れの膂力に相応しいだけの魔法の武器となると、極めて稀と言わざるを得ない。
 つまり、今やただ魔剣というだけでは、エイクにとって満足できる物とは言えないのである。

 しかし、魔剣を作れる者がいるとなると話が違ってくる。エイクの今の力に相応しい重量の魔剣を作成する事が出来るかも知れないからだ。
 特に以前からエイクが欲していたオリハルコン製の武器などを、エイクの力にあわせて作ってもらえたならばその威力は凄まじいものになるだろう。

「詳しく教えてくれ」
 エイクはそう告げた。

「この話は、レイダーの命令でセフタの街に行っていた盗賊が持って来たものなの。
 そいつは、私達がレイダーの組織を乗っ取った事を知って、王都に戻って来て改めて傘下に入れて欲しいと言って来たのよ。そいつはさほど悪辣な事には手を出していなかったから、受け入れる事にした。
 で、そいつがセフタで得た情報というのが、魔剣を作れる者がいるのかも知れないというものだったの」

 セフタの街というのは、アストゥーリア王国の北方都市連合との国境近くにある街だ。
 王都アイラナから北上して、徒歩で4日から5日ほどかかる距離にある。

「最初のきっかけは、サウラン商会というセフタでは有数の規模の商会が、レイダーの組織に接触してきた事だったそうよ。サウラン商会の目的は強力な自白剤の類を入手する事。
 当時レイダーたちは手っ取り早く資金を得るために薬物を安価で売りに出していたから、その事を知ったサウラン商会が声をかけて来たということね。
 で、レイダーは普通に薬を売った。

 けれど同時に、セフタに配下の者を送ってサウラン商会の動向を調べさせた。
 自白剤を盗賊ギルドから入手するなんて、どう考えても真っ当な商売の為のはずがない。確実に犯罪行為を行っているはずだから、それを掴んでおこうとしたのね。

 ひょっとすると有益な情報を得られるかもしれないし、いざとなればサウラン商会を脅迫するネタに使えるかもしれない。と、そう考えたらしいわ。
 で、その結果、サウラン商会がある男を捕らえて情報を聞きだそうとしていたことが分かった。そして、その情報というのが魔剣を作れる者についてだった。というわけよ」

「サウラン商会は、どうしてその男がそんな情報を持っていると知ったんだ?」
「沢山の魔剣を持ち込んできたからだそうよ。その数は全部あわせて一年程度の間に6本。確かに、偶然発見したにしては多すぎるわね。
 その上、一度はサウラン商会が希望したのと似たような剣を持って来たらしいわ。
 だから、その男が魔剣を作る事ができる者とつながりを持ったのではないか。と、そう考えるようになった」

「それで、その男を捕らえて情報を聞きだすことにしたわけか。盗賊ギルドから強力な薬まで買って。随分乱暴だな」
「いきなりそんな事をしたわけではないそうよ。最初は普通に魔剣の出所を聞いたみたいね。
 元々サウラン商会とその男の間には相当強いつながりがあった。だからこそ、その男も訳ありの魔剣なんてものをサウラン商会に持ち込んだんでしょう。
 ところが、そんな強い関係があったのに、その男は魔剣の出所はどうしても口にしなかった。

 それでサウラン商会は斥候を雇って男の行動を探る事にした。
 すると、ある時その男は、街を出て東の森に入っていった。斥候はその後を追ったのだけれど、クファトラ山脈に近づいたあたりで見失ってしまった。
 斥候は不自然に道に迷ってしまったそうで。“迷いの森”の呪いでもかけられていたに違いない。と、そう主張したそうよ。

 その後しばらく男の姿は見かけられなかったけれど、10日後にまた魔剣を持ってサウラン商会を訪れた。
 だから、クファトラ山脈のあたりの、10日で往復できる範囲の場所に魔剣の作り手がいる可能性が高い。そう思ったサウラン商会は男への調査を継続した。

 ところが、その事が男にばれて不信感をもたれてしまった。このままでは関係を切られて、魔剣作成者の情報が手に入らないばかりか、魔剣の取引もなくなってしまう。
 そう思ったサウラン商会が、それならいっその事、と考えて強硬手段に出た。という流れだったようよ。
 その男には身寄りがなかったから、行方不明になっても騒ぎにはならないと考えたらしいわ」

「そうか、それでサウラン商会が魔剣の作り手の情報を入手したというわけか?」
「いえ、それが、そうはいかなかったらしいのよ。その男は薬を使われても口を割らず、隙を見て自殺してしまったのだそうよ。
 レイダーの配下の盗賊が掴んだ情報はここまで。だから、結局はっきりした話しではないわ。
 けれど、その自白剤にも耐えて最期には自殺してまで秘密を守るなんて相当の事よ。よほど重大な秘密だったんでしょう。

 男の後をつけた斥候が“迷いの森”の呪いで守られているのではないかと思った、ということも考え合わせれば、その先の場所にかなり重要な何者かがいる。或いは何かがある可能性は、かなり高いのではないかしら」

「なるほど。確かに、興味深い話だと思う」
「もっとも、その場所がクファトラ山脈の近くで10日でセフタまで往復できる範囲。というだけでは、見つけ出すのは相当難しいでしょうけれど」
「そうだな」
 エイクはそう返答した。だが、自分ならその場所を発見できるのではないかと思っていた。

(もしも本当に“迷いの森”の呪いがかかっているならむしろ好都合だ。多分“呪いの破壊者”の能力で呪いを破れるし、呪いがかかっている部分を見分けることも出来るはずだ。逆に見つけやすい。
 それに、“虎使い”に関する調査も進んでいる。場合によっては近いうちに戦うことになるかも知れない。それまでに強力な武器を手に入れられるかどうかはかなり重要だ。
 予定ではこの後南の国境付近の様子を探ってみるつもりだったが、先に北のクファトラ山脈周辺を探索してもてもいいのかもしれないな)
 エイクはそんな事を考えていた。

「その情報の裏を取ってくれ。その情報を持ち帰った盗賊の身辺調査もあわせて頼む」
 エイクはセレナに向かってそう指示した。
 今の情報が自分をクファトラ山脈周辺に誘き寄せる為のものかもしれない。と、そう考えたからだ。

「分かったわ。
 私から今伝えられるのはこれくらいね」
 セレナはそう告げて話しを終えた。
 他に報告をしようとする者はおらず、今回の会議はこれで終了となった。
 次は、トロアことフィントリッド・ファーンソンと話す予定になっていた。
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