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解放
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川の方を見ていた沙織は、スッと立ち上がると誠の方を向く。
「うん。隠し事の一つ目は楓さんが、あなたに好意を抱いていた事を知っていた事」
「いつから?」
「最初から」
「どうして?」
「あの子、晴美ちゃんの知り合いだったのよ。だから教えてもらっていたの」
「そうだったのか……何で今まで黙っていたの?」
「それが今から話す二つ目の隠し事」
沙織はそう言うと、スカートのポケットから小さな小瓶を取り出した。
「これ、何だか分かる?」
「分からない」
「老化薬」
誠は目を見開き、驚いた表情を見せる。
「何だって……本当なのか?」
「えぇ、晴美ちゃんから貰ったの」
「いつ?」
「あなたが疲れて帰ってきた日」
「仕事でトラブルがあった時か……じゃあ、話したかった事って」
「そう、この事」
「そうだったのか……もう飲んだのか?」
「いえ、まだよ。怖くて飲めなかったの」
「怖い?」
「実は元に戻らなきゃいけない心配事も、老化薬の事も、もっと早く解決しなきゃって、思っていた」
「だけどそれが解決した事によって、恋人として過ごしてきた楽しい日々が、壊れるじゃないかと思うと、怖くて出来なかったの」
沙織は今まで溜め込んでいた我慢を開放するかのように、大粒の涙をポロポロと流していく。
「だから楓さんの事は何も伝えず、薬のことは先延ばしにして、様子を見てしまったのよ」
「あなたの気持ちを試すような事をしてしまって、ごめんなさい……だけど仕方ないじゃない。だってあなたが私に愛していると言ったのは、若い今の私。老けていた時の本当の私じゃないんだから」
つまり沙織は、あの時点で楓が好意を寄せている事を話してしまえば、誠は楓を意識し、興味を持ってしまうかもしれない。
自分の本当の年齢は楓よりずっと上。
元に戻ることを考えれば、自分は捨てられる可能性だって出て来てしまう。
それを避けるためには、話さないで様子を見るしかない。
そう思って、包み隠していたのだ。
もしかすると沙織は、話せないけど誠の心は繋ぎ止めていたい。
そんな一心で、冷たい態度を取り、自分に目を向けさせようとしていたのかもしれない。
誠は次々に打ち明かさせる沙織の必死の想いを、黙って聞いていた。
「今まで気づかなくて、ごめん。そうだよな、不安だよな。今まで俺、口や態度に出してこなかったから」
誠は沙織に近づき、親指でソッと目元の涙を拭う。
「年齢なんて関係ない。俺が好きなのは、ずっと一緒に暮らしてきた沙織さんだよ」
「隠していた訳じゃないけど俺、伯父さんに焼き餅を焼くぐらいに、ずっと好きだったんだぜ? だから、大丈夫」
「本当?」
「本当」
沙織は帽子を脱ぎ捨てる。
「誠さん!」
誠に近づくと、ギュッと抱きしめた。
誠はそんな沙織を包み込むかのように、抱き締める。
誠は沙織を安心させるかのように、心臓の鼓動に合わせるかのように優しく、トントンと、背中を叩き始めた。
沙織はソッと目を閉じ、誠の心臓の鼓動を聞くかのように、胸に耳を付けた。
「あのさ、もし一人で不安なら、俺も薬を飲むよ。一緒に歳を取ろう」
沙織は誠の胸に顔を埋めながら、首を振る。
「うぅん。それは駄目。そんな事したら、また悩みが増えちゃう」
「――そっか」
「それに誠さんにはゆっくり、歳を重ねて欲しいの」
「分かった」
「――ねぇ」
沙織が抱きつきながらも、顔を上げ、上目遣いで誠を見つめる。
「なに?」
「私がオバサンになっても、ずっと愛してくれますか?」
「もちろんだよ」
「ありがとう……私もあなたを愛し続けます」
※※※
しばらくして、沙織と誠がバーベキューをした場所に戻る頃には、石田と楓も戻っていた。
二人はとても楽しそうに会話をしている。
誠と沙織はそんな二人を、少し離れた場所から、優しい眼差しで見つめていた。
「石田、頑張れ」
誠はボソッと呟く。
沙織の方を向くと、「邪魔しちゃ悪いから、このまま帰ろうか?」
「失礼にならないかしら?」
「あとでメールしておくよ」
「分かった、じゃあ帰りましょ」
二人は車の方へと歩いて行った。
「うん。隠し事の一つ目は楓さんが、あなたに好意を抱いていた事を知っていた事」
「いつから?」
「最初から」
「どうして?」
「あの子、晴美ちゃんの知り合いだったのよ。だから教えてもらっていたの」
「そうだったのか……何で今まで黙っていたの?」
「それが今から話す二つ目の隠し事」
沙織はそう言うと、スカートのポケットから小さな小瓶を取り出した。
「これ、何だか分かる?」
「分からない」
「老化薬」
誠は目を見開き、驚いた表情を見せる。
「何だって……本当なのか?」
「えぇ、晴美ちゃんから貰ったの」
「いつ?」
「あなたが疲れて帰ってきた日」
「仕事でトラブルがあった時か……じゃあ、話したかった事って」
「そう、この事」
「そうだったのか……もう飲んだのか?」
「いえ、まだよ。怖くて飲めなかったの」
「怖い?」
「実は元に戻らなきゃいけない心配事も、老化薬の事も、もっと早く解決しなきゃって、思っていた」
「だけどそれが解決した事によって、恋人として過ごしてきた楽しい日々が、壊れるじゃないかと思うと、怖くて出来なかったの」
沙織は今まで溜め込んでいた我慢を開放するかのように、大粒の涙をポロポロと流していく。
「だから楓さんの事は何も伝えず、薬のことは先延ばしにして、様子を見てしまったのよ」
「あなたの気持ちを試すような事をしてしまって、ごめんなさい……だけど仕方ないじゃない。だってあなたが私に愛していると言ったのは、若い今の私。老けていた時の本当の私じゃないんだから」
つまり沙織は、あの時点で楓が好意を寄せている事を話してしまえば、誠は楓を意識し、興味を持ってしまうかもしれない。
自分の本当の年齢は楓よりずっと上。
元に戻ることを考えれば、自分は捨てられる可能性だって出て来てしまう。
それを避けるためには、話さないで様子を見るしかない。
そう思って、包み隠していたのだ。
もしかすると沙織は、話せないけど誠の心は繋ぎ止めていたい。
そんな一心で、冷たい態度を取り、自分に目を向けさせようとしていたのかもしれない。
誠は次々に打ち明かさせる沙織の必死の想いを、黙って聞いていた。
「今まで気づかなくて、ごめん。そうだよな、不安だよな。今まで俺、口や態度に出してこなかったから」
誠は沙織に近づき、親指でソッと目元の涙を拭う。
「年齢なんて関係ない。俺が好きなのは、ずっと一緒に暮らしてきた沙織さんだよ」
「隠していた訳じゃないけど俺、伯父さんに焼き餅を焼くぐらいに、ずっと好きだったんだぜ? だから、大丈夫」
「本当?」
「本当」
沙織は帽子を脱ぎ捨てる。
「誠さん!」
誠に近づくと、ギュッと抱きしめた。
誠はそんな沙織を包み込むかのように、抱き締める。
誠は沙織を安心させるかのように、心臓の鼓動に合わせるかのように優しく、トントンと、背中を叩き始めた。
沙織はソッと目を閉じ、誠の心臓の鼓動を聞くかのように、胸に耳を付けた。
「あのさ、もし一人で不安なら、俺も薬を飲むよ。一緒に歳を取ろう」
沙織は誠の胸に顔を埋めながら、首を振る。
「うぅん。それは駄目。そんな事したら、また悩みが増えちゃう」
「――そっか」
「それに誠さんにはゆっくり、歳を重ねて欲しいの」
「分かった」
「――ねぇ」
沙織が抱きつきながらも、顔を上げ、上目遣いで誠を見つめる。
「なに?」
「私がオバサンになっても、ずっと愛してくれますか?」
「もちろんだよ」
「ありがとう……私もあなたを愛し続けます」
※※※
しばらくして、沙織と誠がバーベキューをした場所に戻る頃には、石田と楓も戻っていた。
二人はとても楽しそうに会話をしている。
誠と沙織はそんな二人を、少し離れた場所から、優しい眼差しで見つめていた。
「石田、頑張れ」
誠はボソッと呟く。
沙織の方を向くと、「邪魔しちゃ悪いから、このまま帰ろうか?」
「失礼にならないかしら?」
「あとでメールしておくよ」
「分かった、じゃあ帰りましょ」
二人は車の方へと歩いて行った。
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