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転生遊戯
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夢を見ると寿命が縮む、そう言われてもミュウの夢が終わりを告げることはない。見るか、見ないかを選ぶことが出来ないのだから。
ただ、前世の夢で前世の自分に入る夢の時だけは特別体に負担がかかる。それは多分、眺めるだけの夢と夢の中の人物を乗っ取ることの違いだと予想している。そりゃそうだ、誰だって自分以外のものに自分を奪われたくはない。前世の記憶があるからといって、同じ魂とは限らない。だからこんなにも体に負担がかかるのだ。かつて生きてきた者と今を生きる者ではやはり違う。
「ミュウ、鼻血だ」
「…ん」
鼻の下の生温いものはフィルがハンカチで拭ってくれた。
「…大丈夫か?」
「ん…」
おはようもありがとうもすぐに言えないのが申し訳ない。マージに言われた、そう言ってフィルはいつも眠るミュウについていてくれている。それではフィルの疲れがとれないのでは?と思ったが一緒にいてくれるのは嬉しいので口には出していない。もっともフィルもいつの間にか眠ってしまうので大丈夫らしい。
「一緒のベッドで寝ればいいのに」
「…けじめは大事だ」
同衾は結婚してから、それもなんと戦が終わってからだという。物語では戦の前に結婚したのに、今回は終わってからという。
「そういうのフラグって言うねんで」
「ふらぐ?」
「そう、この戦争が終わったら求婚するとか、そういうのって大体叶わへんねん」
「私は叶える」
自信満々のフィルにミュウは声をたてて笑う。うん、そんな日が来ればいい。
いつかの応接室のような謁見の間、ミュウはまたそこのソファに座っていた。いや正確にはソファの隅に座っていた。同じソファにはイーハンが座っている。
「ミューロイヒ、なんでそんな隅にいる」
「またフィルが怒ったら嫌やから」
「…フィルは君のこととなると途端に狭量になるな」
くつくつと笑う声は本当に楽しそうだ。ソファの後ろに立つフィルはそんなイーハンの後頭部を小突いた。フィルはイーハンに躊躇いなく触れる。本来なら不敬とかいうやつなんだろうが、二人にそんなものは無いようでそれをイーハンは喜んでいるように見えた。
ここで出されるお茶は美味しい、今日はパイクッキーが添えられている。形はただの長方形でハート形なら良かったな、とふと思った。
「前も思ったけど王様は待たせるん好きやな」
今日は、十日後に迫った開戦についての秘密会議らしい。と言っても、主にイーハンがミュウが見た夢について報告するだけだ。それを踏まえてどんな作戦をとるかはまた軍の偉い人達を交えて改めて会議をするという。ミュウは前世のことは伏せて『エディンデル物語』のことを話した。イーハンは悪戯にミュウに触れたりはしない。信じているよ、と言われた。それはきっとミュウを信じるフィルを信じているということだ。
イーハンはフィルが倒れることで癒しの力が生まれることは報告しないと言った。イーハンは国の利益より友を選ぶ覚悟を、ミュウはフィルから真実のヴェルタを奪う覚悟を、フィルはそうされてもいいという覚悟を決めたのだ。
「戦争を止めることはできひんの?」
「その段階はもう終わった。交渉は決裂したんだ」
「名目はなんなん?なんの理由があって戦うん?」
「近い未来、エディンデルがベスタルに不幸をもたらす存在になる。もちろん、そんなことあるわけがない。そうだろう?」
「…そこまで、見てない」
隣国のベスタル、ミズリ医師が獣の傍系だと言っていた。本には戦争の理由は書かれていなかったと思う。ベスタルはどうして急にそんなことを言い出したんだろう。王太子とジュリアンの関係は良好だったんじゃないのか?
またなにか違う流れになっているのだろうか。
「待たせたな」
うんうんと考えていたものだから、そう言って王様が入室したことに気づくのが一拍遅れた。
「どうした?」
「…あ、え?」
王様と一緒にいる人に見覚えがある。中表紙の人だ、軍服ではないけれど肩の辺りで髪を結わえている。
「…アトレーやったんか」
「いかにも、アトレーは私だが?」
「あ、うん。ジュリアンと喧嘩したん?」
「………は?」
目をまんまるくしたアトレーはたっぷりと間をとってから、怪訝そうに顔を歪めた。要らんことを言ってしまった、と思ってももう遅い。ミュウはソファの隅で小さい体をさらに縮こまらせて、そしてカクンと落ちた。
──今度はどこや
ミュウはキョロキョロと辺りを見渡したが、人っ子一人いない。ただ花の香りがすごい、香りに対してすごいというのは間違っているかもしれないが香りに色があるならその色が見えるくらいに濃い。
──見たことない花やな
花弁は五枚、先端は白く花芯に向かってピンク色が濃くなっている。茎はつるりとしていて葉は水仙の葉のよう。それが一面に咲いている。その中をミュウは歩いた。ミュウが動いたとて花は揺れる気配もない、やはり夢の中なのだ。
花の園をミュウは進む、そのうち真っ白い外観の建物に辿り着いた。屋根は丸みを帯びていて、入口らしきところには豪華なアーチがあった。近づくてみると鳥や花の彫刻が施されていて、この建物がただの建物じゃないと思わされた。
全てが白いのに扉だけはチョコレート色で、取手は金色でノッカーはなかった。
──誰かのお屋敷やろか
ミュウがその扉を開けようと手を伸ばしたのと同時に扉が開いた。
ただ、前世の夢で前世の自分に入る夢の時だけは特別体に負担がかかる。それは多分、眺めるだけの夢と夢の中の人物を乗っ取ることの違いだと予想している。そりゃそうだ、誰だって自分以外のものに自分を奪われたくはない。前世の記憶があるからといって、同じ魂とは限らない。だからこんなにも体に負担がかかるのだ。かつて生きてきた者と今を生きる者ではやはり違う。
「ミュウ、鼻血だ」
「…ん」
鼻の下の生温いものはフィルがハンカチで拭ってくれた。
「…大丈夫か?」
「ん…」
おはようもありがとうもすぐに言えないのが申し訳ない。マージに言われた、そう言ってフィルはいつも眠るミュウについていてくれている。それではフィルの疲れがとれないのでは?と思ったが一緒にいてくれるのは嬉しいので口には出していない。もっともフィルもいつの間にか眠ってしまうので大丈夫らしい。
「一緒のベッドで寝ればいいのに」
「…けじめは大事だ」
同衾は結婚してから、それもなんと戦が終わってからだという。物語では戦の前に結婚したのに、今回は終わってからという。
「そういうのフラグって言うねんで」
「ふらぐ?」
「そう、この戦争が終わったら求婚するとか、そういうのって大体叶わへんねん」
「私は叶える」
自信満々のフィルにミュウは声をたてて笑う。うん、そんな日が来ればいい。
いつかの応接室のような謁見の間、ミュウはまたそこのソファに座っていた。いや正確にはソファの隅に座っていた。同じソファにはイーハンが座っている。
「ミューロイヒ、なんでそんな隅にいる」
「またフィルが怒ったら嫌やから」
「…フィルは君のこととなると途端に狭量になるな」
くつくつと笑う声は本当に楽しそうだ。ソファの後ろに立つフィルはそんなイーハンの後頭部を小突いた。フィルはイーハンに躊躇いなく触れる。本来なら不敬とかいうやつなんだろうが、二人にそんなものは無いようでそれをイーハンは喜んでいるように見えた。
ここで出されるお茶は美味しい、今日はパイクッキーが添えられている。形はただの長方形でハート形なら良かったな、とふと思った。
「前も思ったけど王様は待たせるん好きやな」
今日は、十日後に迫った開戦についての秘密会議らしい。と言っても、主にイーハンがミュウが見た夢について報告するだけだ。それを踏まえてどんな作戦をとるかはまた軍の偉い人達を交えて改めて会議をするという。ミュウは前世のことは伏せて『エディンデル物語』のことを話した。イーハンは悪戯にミュウに触れたりはしない。信じているよ、と言われた。それはきっとミュウを信じるフィルを信じているということだ。
イーハンはフィルが倒れることで癒しの力が生まれることは報告しないと言った。イーハンは国の利益より友を選ぶ覚悟を、ミュウはフィルから真実のヴェルタを奪う覚悟を、フィルはそうされてもいいという覚悟を決めたのだ。
「戦争を止めることはできひんの?」
「その段階はもう終わった。交渉は決裂したんだ」
「名目はなんなん?なんの理由があって戦うん?」
「近い未来、エディンデルがベスタルに不幸をもたらす存在になる。もちろん、そんなことあるわけがない。そうだろう?」
「…そこまで、見てない」
隣国のベスタル、ミズリ医師が獣の傍系だと言っていた。本には戦争の理由は書かれていなかったと思う。ベスタルはどうして急にそんなことを言い出したんだろう。王太子とジュリアンの関係は良好だったんじゃないのか?
またなにか違う流れになっているのだろうか。
「待たせたな」
うんうんと考えていたものだから、そう言って王様が入室したことに気づくのが一拍遅れた。
「どうした?」
「…あ、え?」
王様と一緒にいる人に見覚えがある。中表紙の人だ、軍服ではないけれど肩の辺りで髪を結わえている。
「…アトレーやったんか」
「いかにも、アトレーは私だが?」
「あ、うん。ジュリアンと喧嘩したん?」
「………は?」
目をまんまるくしたアトレーはたっぷりと間をとってから、怪訝そうに顔を歪めた。要らんことを言ってしまった、と思ってももう遅い。ミュウはソファの隅で小さい体をさらに縮こまらせて、そしてカクンと落ちた。
──今度はどこや
ミュウはキョロキョロと辺りを見渡したが、人っ子一人いない。ただ花の香りがすごい、香りに対してすごいというのは間違っているかもしれないが香りに色があるならその色が見えるくらいに濃い。
──見たことない花やな
花弁は五枚、先端は白く花芯に向かってピンク色が濃くなっている。茎はつるりとしていて葉は水仙の葉のよう。それが一面に咲いている。その中をミュウは歩いた。ミュウが動いたとて花は揺れる気配もない、やはり夢の中なのだ。
花の園をミュウは進む、そのうち真っ白い外観の建物に辿り着いた。屋根は丸みを帯びていて、入口らしきところには豪華なアーチがあった。近づくてみると鳥や花の彫刻が施されていて、この建物がただの建物じゃないと思わされた。
全てが白いのに扉だけはチョコレート色で、取手は金色でノッカーはなかった。
──誰かのお屋敷やろか
ミュウがその扉を開けようと手を伸ばしたのと同時に扉が開いた。
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