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失敗
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目の前でじゅうじゅうと音を立てて肉が焼かれている。
山盛りの白ご飯も置かれていて、小皿も何枚かあって色んなタレが入っている。タレが一種類じゃないのを初めて知った。
スーパーにあるタレはどれも茶色に見えたけど実は違うのだろうか。
赤いのは辛そうで、ほんのり黄色い透明なものに至っては何かわからない。
烏龍茶はすでに汗をかいている。
呼ばないと誰も来ない個室では、逃げ場はない。
肉の匂いに混じる柑橘系の匂いは皿に盛られたレモンの匂いなのか、目の前でニコニコ肉を焼いている男から発せられているものなのか。
「たくさん食べて」
小皿にレモンを搾りながら言う。
なんでこんなことになったんだろう、と搾ってくれたレモンに恐る恐るつけて食べる。
「・・・うまっ」
クククと笑う男はとても嬉しそうに見える。
鷹野寿人は変わってる、太郎はそう思った。
清掃バイトを終えて三角ビルを出て少し歩いた先に赤いスポーツカーみたいなかっこいい車の前に、鷹野はいた。
あれから3日経っていて、もう会うことはないと思っていたのに。
なんで?もどうして?も聞いても無駄なような気がした。
もちろん走ってもすぐに追いつかれるから。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
なぜか一瞬目を見張ったような気がしたが、すぐにあのとって食われそうな笑顔になった。
まあまあ、さあさあ、ほらほらと助手席に乗せられて、普段車なんて乗らないのでどこを走っているのかわからない。
着いた場所もわからない。
立体駐車場というものを初めて経験した。
あれもこれもと皿に肉を入れられて、文句言わずに食べている。
「今日は飲まないの?」
「『よっちゃん』以外で飲んだら駄目なんです」
「敬語は無しがいいなぁ。黒崎さんみたいに」
変なこと言うなぁ、と思った。
黒崎は晴臣のただのおまけなのに。
「わかった」
肉は口に入れると柔らかくてちょっと噛んだだけでどろりと溶けてお腹に入ってしまう。
最後に食べた冷麺はスーパーやコンビニで見るそれと違って麺が透明だった。
肉で使わなかった噛む力をこの麺は使わないといけなかったけどさっぱりしていて美味しかった。
ぶつぶつ切れる蕎麦とは違うな、と思った。
「考えてくれた?」
「なにを?」
「付き合うって話」
「あぁ、もうすぐ・・・2週間後くらいに多分発情期がくるからセックスしてもらえませんか?」
とうもろこしのお茶というものを飲みながら言う。
初めて飲んだけど、クセになりそうな味だ。
返事が無いので窺うと、ポカンと口を開けている。
「駄目ですか?」
「・・・いや、駄目ではないけど」
「一日中じゃなくていいんで、夜だけでも。ちょっと突っ込んで出してもらえれば。避妊薬も飲むので大丈夫です」
今度は目がつり上がって怒ってるみたいな顔になっている。
「それは、恋人としてってことだよな?」
押し殺したような声がビリビリと体に響いて息が苦しい。
「っはっ、発情期の時だけ、で。しんどいからっ、薬、あんま効かなくてっ」
「誰でもいいの?」
「αだったら、っなんでもいい」
深く息が出来ない。
細胞に毛があるのか知らないけど、中も外もざわざわと総毛立つ気がする。
「太郎君は俺になにも感じないの?」
「逃げたくなる、けど、αはみんないい匂いするからっ」
「なにそれ」
「・・・教えてもらったからっ、それがないと駄目って、怖い、それやめて」
気づけば鷹野の膝に乗せられて横抱きに抱かれていた。
いつの間にこんなことに。
目を覗き込まれてヒュっと息を飲む。
身の内のざわざわは無くなったけれど、今度は頭が沸騰しそうになる。
「本当になにも感じない?」
「・・・鷹野さん、いい匂いがして泣きたくなる。ずっと鼻に残って辛い」
「それが運命ってやつだろう?本能が惹かれあってるんだ」
「・・・違う。運命とかいらない」
ギュッと大きな体は温かくて、どんどん呼吸が楽になって眠ってしまいそうになる。
怖くないよ、と耳元で囁かれる声は優しくてずっと聞いていたくなる。
でもこのままズルズルと落ちていくのは怖いんだ。
落ちた瞬間に人は死なない。
人が傷つき死ぬのは着地に失敗した時なんだ。
その着地点を知ってるから。
固くて冷たいそれを知ってるから。
きっとまた失敗してしまう。
山盛りの白ご飯も置かれていて、小皿も何枚かあって色んなタレが入っている。タレが一種類じゃないのを初めて知った。
スーパーにあるタレはどれも茶色に見えたけど実は違うのだろうか。
赤いのは辛そうで、ほんのり黄色い透明なものに至っては何かわからない。
烏龍茶はすでに汗をかいている。
呼ばないと誰も来ない個室では、逃げ場はない。
肉の匂いに混じる柑橘系の匂いは皿に盛られたレモンの匂いなのか、目の前でニコニコ肉を焼いている男から発せられているものなのか。
「たくさん食べて」
小皿にレモンを搾りながら言う。
なんでこんなことになったんだろう、と搾ってくれたレモンに恐る恐るつけて食べる。
「・・・うまっ」
クククと笑う男はとても嬉しそうに見える。
鷹野寿人は変わってる、太郎はそう思った。
清掃バイトを終えて三角ビルを出て少し歩いた先に赤いスポーツカーみたいなかっこいい車の前に、鷹野はいた。
あれから3日経っていて、もう会うことはないと思っていたのに。
なんで?もどうして?も聞いても無駄なような気がした。
もちろん走ってもすぐに追いつかれるから。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
なぜか一瞬目を見張ったような気がしたが、すぐにあのとって食われそうな笑顔になった。
まあまあ、さあさあ、ほらほらと助手席に乗せられて、普段車なんて乗らないのでどこを走っているのかわからない。
着いた場所もわからない。
立体駐車場というものを初めて経験した。
あれもこれもと皿に肉を入れられて、文句言わずに食べている。
「今日は飲まないの?」
「『よっちゃん』以外で飲んだら駄目なんです」
「敬語は無しがいいなぁ。黒崎さんみたいに」
変なこと言うなぁ、と思った。
黒崎は晴臣のただのおまけなのに。
「わかった」
肉は口に入れると柔らかくてちょっと噛んだだけでどろりと溶けてお腹に入ってしまう。
最後に食べた冷麺はスーパーやコンビニで見るそれと違って麺が透明だった。
肉で使わなかった噛む力をこの麺は使わないといけなかったけどさっぱりしていて美味しかった。
ぶつぶつ切れる蕎麦とは違うな、と思った。
「考えてくれた?」
「なにを?」
「付き合うって話」
「あぁ、もうすぐ・・・2週間後くらいに多分発情期がくるからセックスしてもらえませんか?」
とうもろこしのお茶というものを飲みながら言う。
初めて飲んだけど、クセになりそうな味だ。
返事が無いので窺うと、ポカンと口を開けている。
「駄目ですか?」
「・・・いや、駄目ではないけど」
「一日中じゃなくていいんで、夜だけでも。ちょっと突っ込んで出してもらえれば。避妊薬も飲むので大丈夫です」
今度は目がつり上がって怒ってるみたいな顔になっている。
「それは、恋人としてってことだよな?」
押し殺したような声がビリビリと体に響いて息が苦しい。
「っはっ、発情期の時だけ、で。しんどいからっ、薬、あんま効かなくてっ」
「誰でもいいの?」
「αだったら、っなんでもいい」
深く息が出来ない。
細胞に毛があるのか知らないけど、中も外もざわざわと総毛立つ気がする。
「太郎君は俺になにも感じないの?」
「逃げたくなる、けど、αはみんないい匂いするからっ」
「なにそれ」
「・・・教えてもらったからっ、それがないと駄目って、怖い、それやめて」
気づけば鷹野の膝に乗せられて横抱きに抱かれていた。
いつの間にこんなことに。
目を覗き込まれてヒュっと息を飲む。
身の内のざわざわは無くなったけれど、今度は頭が沸騰しそうになる。
「本当になにも感じない?」
「・・・鷹野さん、いい匂いがして泣きたくなる。ずっと鼻に残って辛い」
「それが運命ってやつだろう?本能が惹かれあってるんだ」
「・・・違う。運命とかいらない」
ギュッと大きな体は温かくて、どんどん呼吸が楽になって眠ってしまいそうになる。
怖くないよ、と耳元で囁かれる声は優しくてずっと聞いていたくなる。
でもこのままズルズルと落ちていくのは怖いんだ。
落ちた瞬間に人は死なない。
人が傷つき死ぬのは着地に失敗した時なんだ。
その着地点を知ってるから。
固くて冷たいそれを知ってるから。
きっとまた失敗してしまう。
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