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金獅子にて
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警察署から通りを一本挟んで向かいの『金獅子』は昼間は食堂、夜はパブになる店だ。
警察署の真向かいということもあって、客筋がとても良い。
「ディー、好きなものを頼んでいいからね」
「んー、昼は酒の種類が少ないんだよなぁ。どうしようかな」
「先生には言ってません。ディーに言ってるんです。自分の分は払ってくださいよ」
えー!と盛大にむくれたアーサーはそれでも次の瞬間には笑っていた。
その間ディーはメニューとにらめっこしていたが、どうにも決められない。
外の店でなにかを食べるなんて初めてのことだ。
屋台の揚げ芋ですら年に数えるほどしか買ってもらったことがない。
あれはご馳走だったのだ。
「ディー、ここのパンケーキはどう?ここのは他の店より平べったいんだ。甘くないから、スクランブルエッグやベーコンと食べると美味しいよ」
「えっと・・・じゃあそれにします」
「甘いのもあるよ?」
「エリック、それでいいっつってんだろ?」
他の店もなにもパンケーキなんて食べたことがない。
運ばれてきたパンケーキは確かに平べったいものだったが、それが他の何と違うのかはわからない。
ベーコンは薄くてカリカリで、スクランブルエッグはグリーン婦人の方が美味しかった。
「ディー、美味しい?」
「うん、あ、はい」
ごくんと飲み込んで言い直す、どうしてエリックの口が曲がってるんだろう。
「エリックさんは美味しくない?」
「いや、美味しいよ」
「だったら、旨そうな顔したらどうだ?」
「してるだろ」
そうかい、そう言ってアーサーは昼間から酒を飲んだ。
パンともパイとも違う、温かくて食べると甘じょっぱい、パンケーキは美味しいことを知った。
「で?さっきの話を聞かせろよ」
「あぁ、本庁からの情報なんだが隣国の盗品がこっちに流れてきている可能性があるらしい」
「それいつの情報だよ」
「かなり前だ。ここは港もあるからな」
「それで?」
「マルクの配達区域に行ってきた」
ちょうどそこへ酒とコーヒー、そしてアイスクリームが置かれた。
ころんと丸い木の器に入ったミルクのアイスクリーム。
お食べ、と言ってエリックはまた語り出した。
マルクの配達区域にある集合住宅、その三階にミーナの工房はあった。
他の家と変わらずの外観、看板らしきものもない。
ノックを二回、応答はない。
ノブを回すとなんの引っかかりもなく開いた。
「ミーナさん、いらっしゃいますか?S署のトルナードです」
声をかけてみても室内はしんとしていて薄暗い。
入りますよ、とエリックは足を踏み入れて驚いた。
テーブルは倒れ、ベッドはシーツが剥がされマットレスが切り刻まれてスプリングが飛び出ている。
食器棚の食器は床で破片になっていて、チェストの引き出しが全て放り出されていた。
こりゃすごい、とエリックはそろそろと物を踏まないように歩いた。
奥の扉の先は工房と思わしきものだった。
こちらも散々な荒れようで、徹底的に家探しをしたことが伺える。
ふむ、とエリックは顎に手をあてて考える。
犯人はなにを探していたのか?そしてミーナはどこへ?
手がかりはないか、と探して目に止まったのは壁紙だった。
よくよく見ると小花柄の壁紙の一部が同じ花柄なのに形が合わさっていない。
花から茎にかけてがほんの少しズレてるな、爪で引っ掻くとペリリと剥がれたそこには隙間があって手帳が挟まっていた。
パラパラと捲ってエリックはニヤリと笑った。
犯人がこれに気づかなくて良かった。
元通り壁紙を戻して、また踏まないように歩いて部屋を出る。
そして、隣の部屋をノックすると、顔を見せたのは幼い兄弟だった。
「こんにちは、私はトルナード部長刑事だ。パパかママはいるかい?」
ふるふると首を振る子を怯えさせないようにエリックは笑顔を作った。
「隣のミーナさんがどこに行ったか知ってる?」
またもふるふると首を振られてしまった。
「ずっと・・・いないよ」
「ずっと?・・・じゃあ、おじさんの他に誰か来たかな?」
「怖い人、バタンバタンってうるさかったの」
「何人かな?」
「・・・二人か三人。ここに人魚の絵が描いてあった」
そう言って兄と思われる子が自分の腕を指した。
ありがとう、とエリックは兄弟に駄賃を渡して集合住宅を後にした。
それがこの手帳か、とアーサーは手帳をパラパラと捲りピタリと止まった。
「なるほどね」
「あぁ、切手の数字『18-5』があるだろう?」
「正確には『11-18-5-6』だな」
「日付、時間、この6はなんだろうな」
「ダイヤの数とか?6個研磨して渡す・・・」
「そんな単純かねぇ」
見てみろよ、とアーサーが指差したページには引き受けたダイヤやその他の宝石やその個数が書かれていた。
その横には日付と金額。
「受け取ったもんを何回にも分けて引き渡すわけがない。こういうのは一回で終わらしたいもんだ。その家探ししてた犯人は?」
「二人か三人で、腕に人魚の刺青があったらしい」
うーんと腕組みをして首を捻る二人。
「6番ドックじゃない?奥さん、波止場で死んでたんでしょ?」
ディアドリはそう言って名残惜しそうにスプーンを舐めた。
※あけましておめでとうございます!←
更新が開いてしまいました。すみません。
警察署の真向かいということもあって、客筋がとても良い。
「ディー、好きなものを頼んでいいからね」
「んー、昼は酒の種類が少ないんだよなぁ。どうしようかな」
「先生には言ってません。ディーに言ってるんです。自分の分は払ってくださいよ」
えー!と盛大にむくれたアーサーはそれでも次の瞬間には笑っていた。
その間ディーはメニューとにらめっこしていたが、どうにも決められない。
外の店でなにかを食べるなんて初めてのことだ。
屋台の揚げ芋ですら年に数えるほどしか買ってもらったことがない。
あれはご馳走だったのだ。
「ディー、ここのパンケーキはどう?ここのは他の店より平べったいんだ。甘くないから、スクランブルエッグやベーコンと食べると美味しいよ」
「えっと・・・じゃあそれにします」
「甘いのもあるよ?」
「エリック、それでいいっつってんだろ?」
他の店もなにもパンケーキなんて食べたことがない。
運ばれてきたパンケーキは確かに平べったいものだったが、それが他の何と違うのかはわからない。
ベーコンは薄くてカリカリで、スクランブルエッグはグリーン婦人の方が美味しかった。
「ディー、美味しい?」
「うん、あ、はい」
ごくんと飲み込んで言い直す、どうしてエリックの口が曲がってるんだろう。
「エリックさんは美味しくない?」
「いや、美味しいよ」
「だったら、旨そうな顔したらどうだ?」
「してるだろ」
そうかい、そう言ってアーサーは昼間から酒を飲んだ。
パンともパイとも違う、温かくて食べると甘じょっぱい、パンケーキは美味しいことを知った。
「で?さっきの話を聞かせろよ」
「あぁ、本庁からの情報なんだが隣国の盗品がこっちに流れてきている可能性があるらしい」
「それいつの情報だよ」
「かなり前だ。ここは港もあるからな」
「それで?」
「マルクの配達区域に行ってきた」
ちょうどそこへ酒とコーヒー、そしてアイスクリームが置かれた。
ころんと丸い木の器に入ったミルクのアイスクリーム。
お食べ、と言ってエリックはまた語り出した。
マルクの配達区域にある集合住宅、その三階にミーナの工房はあった。
他の家と変わらずの外観、看板らしきものもない。
ノックを二回、応答はない。
ノブを回すとなんの引っかかりもなく開いた。
「ミーナさん、いらっしゃいますか?S署のトルナードです」
声をかけてみても室内はしんとしていて薄暗い。
入りますよ、とエリックは足を踏み入れて驚いた。
テーブルは倒れ、ベッドはシーツが剥がされマットレスが切り刻まれてスプリングが飛び出ている。
食器棚の食器は床で破片になっていて、チェストの引き出しが全て放り出されていた。
こりゃすごい、とエリックはそろそろと物を踏まないように歩いた。
奥の扉の先は工房と思わしきものだった。
こちらも散々な荒れようで、徹底的に家探しをしたことが伺える。
ふむ、とエリックは顎に手をあてて考える。
犯人はなにを探していたのか?そしてミーナはどこへ?
手がかりはないか、と探して目に止まったのは壁紙だった。
よくよく見ると小花柄の壁紙の一部が同じ花柄なのに形が合わさっていない。
花から茎にかけてがほんの少しズレてるな、爪で引っ掻くとペリリと剥がれたそこには隙間があって手帳が挟まっていた。
パラパラと捲ってエリックはニヤリと笑った。
犯人がこれに気づかなくて良かった。
元通り壁紙を戻して、また踏まないように歩いて部屋を出る。
そして、隣の部屋をノックすると、顔を見せたのは幼い兄弟だった。
「こんにちは、私はトルナード部長刑事だ。パパかママはいるかい?」
ふるふると首を振る子を怯えさせないようにエリックは笑顔を作った。
「隣のミーナさんがどこに行ったか知ってる?」
またもふるふると首を振られてしまった。
「ずっと・・・いないよ」
「ずっと?・・・じゃあ、おじさんの他に誰か来たかな?」
「怖い人、バタンバタンってうるさかったの」
「何人かな?」
「・・・二人か三人。ここに人魚の絵が描いてあった」
そう言って兄と思われる子が自分の腕を指した。
ありがとう、とエリックは兄弟に駄賃を渡して集合住宅を後にした。
それがこの手帳か、とアーサーは手帳をパラパラと捲りピタリと止まった。
「なるほどね」
「あぁ、切手の数字『18-5』があるだろう?」
「正確には『11-18-5-6』だな」
「日付、時間、この6はなんだろうな」
「ダイヤの数とか?6個研磨して渡す・・・」
「そんな単純かねぇ」
見てみろよ、とアーサーが指差したページには引き受けたダイヤやその他の宝石やその個数が書かれていた。
その横には日付と金額。
「受け取ったもんを何回にも分けて引き渡すわけがない。こういうのは一回で終わらしたいもんだ。その家探ししてた犯人は?」
「二人か三人で、腕に人魚の刺青があったらしい」
うーんと腕組みをして首を捻る二人。
「6番ドックじゃない?奥さん、波止場で死んでたんでしょ?」
ディアドリはそう言って名残惜しそうにスプーンを舐めた。
※あけましておめでとうございます!←
更新が開いてしまいました。すみません。
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