42 / 48
天邪鬼
2
しおりを挟む
俺は少し思い出していた。数年前に拳法道場に通っていた頃のことを。
当時は本当になにかと尖っていて、教えてもらいに通ってるくせに師匠にすぐ突っかかっていたし、門下生ともすぐ喧嘩をしていた。そんな問題児だった。
「だからおっさんと呼ぶな! タクロウよ、何度言えば分かるんだ。」
小さな道場の隅っこで、師匠に俺はまた叱られていた。とにかく他の奴らと同じように「センセイ」とか「師匠」とか呼びたくなくてずっと「おっさん」と呼んでいたんだ。
「おっさんはおっさんなんだから仕方ないだろ。ハゲジジイにでも変えるか?」
叱られてるにも関わらず腕組みをして師匠を睨みつけていた。
きっと他の奴らからすれば、早く居なくなって欲しかっただろう。
「誰がハゲかぁ!!」
激昂した師匠の頭は相変わらず光っていた。
その日は基礎稽古の日で、実戦稽古が好きな俺からすれば退屈な日だった。
「なぁおっさん」
「……。なんだ。」
呼称については半ば諦めモードの師匠はしかめっ面を向けてきた。
「この『突きの型』なんだけど……。」
型というのはその武術の基本となるもので、正拳突きだったり、突き蹴りだったりと様々だ。ただ疑問に思う技があって言っても仕方ないんだけれど、師匠に文句をつけた。
踏み蹴りという技がある。どうやら下ににいる敵に対してかかとを突き出し踏むようにし、蹴りを振り下ろすらしいけれど、俺は思う。
「いやまず敵は下に居ないだろ! こんな状況になるわけないのにこんな型意味ねぇよ!」
師匠は眉間に皺を寄せてゆっくりと俺の正面へと歩出た。その顔は、いつも俺がバカにして怒っている表情じゃなく、真剣だった。
その姿に少し気圧されて焦って口が走る。
「なんだよ。俺は間違ったこと言ってねぇぞ。」
いいかタクロウ。と師匠が口を開いた。いつもと違う優しい口調だった。
「お前に教え伝えた『正拳突き』は、実戦で役に立つか?」
「あ、当たり前じゃねーか。」
「じゃあ『胴突き』はどうだ?」
「……あれは、微妙だけど場合によっちゃ使えるな。」
「そうだ。『踏み蹴り』も同じなんだ……」
「いや違うね。」
雰囲気で押し通される気がして俺は口を挟む。
「足下に敵が転がるなんてまず無いだろ。だからこの型には、意味がない。」
師匠はジッと俺を見た。
「どんな状況にも対応できる動きの基本。それが型だ。どんな技にも意味があり作られた理由がある。意味のないものなどないのだ。」
結局なにも俺は言えなくなってしまった。
「うるせんだよおっさん。」
またいつもの言い合いに戻った。
当時は本当になにかと尖っていて、教えてもらいに通ってるくせに師匠にすぐ突っかかっていたし、門下生ともすぐ喧嘩をしていた。そんな問題児だった。
「だからおっさんと呼ぶな! タクロウよ、何度言えば分かるんだ。」
小さな道場の隅っこで、師匠に俺はまた叱られていた。とにかく他の奴らと同じように「センセイ」とか「師匠」とか呼びたくなくてずっと「おっさん」と呼んでいたんだ。
「おっさんはおっさんなんだから仕方ないだろ。ハゲジジイにでも変えるか?」
叱られてるにも関わらず腕組みをして師匠を睨みつけていた。
きっと他の奴らからすれば、早く居なくなって欲しかっただろう。
「誰がハゲかぁ!!」
激昂した師匠の頭は相変わらず光っていた。
その日は基礎稽古の日で、実戦稽古が好きな俺からすれば退屈な日だった。
「なぁおっさん」
「……。なんだ。」
呼称については半ば諦めモードの師匠はしかめっ面を向けてきた。
「この『突きの型』なんだけど……。」
型というのはその武術の基本となるもので、正拳突きだったり、突き蹴りだったりと様々だ。ただ疑問に思う技があって言っても仕方ないんだけれど、師匠に文句をつけた。
踏み蹴りという技がある。どうやら下ににいる敵に対してかかとを突き出し踏むようにし、蹴りを振り下ろすらしいけれど、俺は思う。
「いやまず敵は下に居ないだろ! こんな状況になるわけないのにこんな型意味ねぇよ!」
師匠は眉間に皺を寄せてゆっくりと俺の正面へと歩出た。その顔は、いつも俺がバカにして怒っている表情じゃなく、真剣だった。
その姿に少し気圧されて焦って口が走る。
「なんだよ。俺は間違ったこと言ってねぇぞ。」
いいかタクロウ。と師匠が口を開いた。いつもと違う優しい口調だった。
「お前に教え伝えた『正拳突き』は、実戦で役に立つか?」
「あ、当たり前じゃねーか。」
「じゃあ『胴突き』はどうだ?」
「……あれは、微妙だけど場合によっちゃ使えるな。」
「そうだ。『踏み蹴り』も同じなんだ……」
「いや違うね。」
雰囲気で押し通される気がして俺は口を挟む。
「足下に敵が転がるなんてまず無いだろ。だからこの型には、意味がない。」
師匠はジッと俺を見た。
「どんな状況にも対応できる動きの基本。それが型だ。どんな技にも意味があり作られた理由がある。意味のないものなどないのだ。」
結局なにも俺は言えなくなってしまった。
「うるせんだよおっさん。」
またいつもの言い合いに戻った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる