王子発掘プロジェクト

urada shuro

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第6章

スカウト係の悲劇(2)

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 ナナシを見上げると、ナナシもあたしを見ていた。すっと、目を細めて。

「マトリ、これでいんだろ?」
「え?」
「ま、ほ、う」
「ま……魔法――?! って、え……?! うそっ?!」

 や、まさか。ナナシに魔法は使えない。何度使おうとしても使えなかった現場をあたしは目撃している。今日、ついさっき、エミルドさんの慰霊碑の前でも使えなかったし!

「ホントだよ。オレを誰だと思ってんの」
「だ……誰って……」

 あたしがナナシだと思っている少年は、思い切り顎を上げて、目を見開いた。

「オレは魔法使い……悪魔女ガルドの息子だ」

 …………は……?

 呆気に取られる、という他に表現が思い付かない。
 魔法使い?
 悪魔女ガルド、が、なんだって?

「な、何を言っておる! ナナシ殿、妙な冗談はやめなされ! この国に魔法を使える者はもうおらん。悪魔女の子供、なんて、もってのほかじゃ!」

 ルルダ様は首を思い切り伸ばし、ナナシに向かって声を荒げた。

「そ、そうだよ! 変なこと言わないでナナシ! と、とりあえずそこから降りてきて!」
「なんだよ、マトリ。ほんとにオレは魔法使いなんだってば」

 ナナシは溜め息を吐いて立ち上がり、「大好きなあの子にキャンディーを出しちゃう魔法」のモーションに入った。
 音もなく、小さな赤い球体がナナシを取り囲むように出現する。それも、数えきれないほど大量に。

 な、なんなのこれ?! ほんとに魔法――?!

 ぱっと現れたラジーたちは、ざあっと雨が降るように、一斉に床を目がけて突進した。引力、というものを、今日ほど意識させられた日がこれまであっただろうか。
 降り注いだ赤い実は、ナナシの下に立っていたボイドさんにいくつか直撃したらしい。

「痛ッ……おおおい、やめないか! なにを考えてるんだ!」

 ボイドさんが、頭をおさえてナナシに叫ぶ。ナナシは「ちっ」、と舌を鳴らした。
 興奮しているのか、ボイドさんの顔が紅潮していく。目を血走らせ、歯を食いしばり、指を果肉に指を突き刺しながら、巨大なラジーを上りはじめた。

 ナナシは再び、舌を鳴らす。そして、三度目の例のモーション。
 出てきたのは、一般家庭のキッチンによくある、缶に入った食用油だった。ナナシはふた開け、しゃがみ込んで、足元の巨大ラジーに垂らしはじめる。油は赤い表面を伝い、やがて丁度中間地点まで上ってきていたボイドさんの手元まで届いた。

「ぬあっ?!」

 ボイドさんは手を滑らせ、冷たい石の床に落ち、鈍い音を立てる。落下した隊長を指差し、ナナシはラジーの頂上で大口を開けて笑った。

 じ、地味……! なんて地味な攻撃……! 別の意味でびっくりした。針とか剣とかバズーカ砲とか出て来なくて良かったけど……。
 あたしは腰を押さえてうずくまっているボイドさんに駆け寄った。

「ボイドさん、大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫だ……わ、わたしは警備隊第二組隊長……!」

 がばっと身を起こし、姿勢を正して平静を装う第二組隊長。にっ、と白い歯を見せて笑ってくれるものの、顔面に大量の汗が吹き出し、おでこには血管が浮き出ている。

 そのおでこに、黄金色の羽根が落ちてきた。
 チチチチチ……。
 爽やかな朝を思わせる、小鳥のさえずり。

 ……え? 急になに? どこから?
 白の地には窓がある。あるけれど、開け放たれてはいない。ドアも閉ざされている現在、ここは密室と言ってもいい。
 
 と、いうことは……。

 巨大ラジーを見上げると、その頂上で背もたれ付きの木製の椅子に座り、肩にとまった小鳥に餌らしき緑の葉をあげるナナシの姿があった。
 ゆ、優雅ですこと! そして、いつのまに家具まで……!
 あたしと同じく彼を見上げていたルルダ様が、苦い顔で白い顎鬚をさする。

「う、うぬ……あの鳥も、ナナシ殿が出したということか……信じがたいが、ナナシ殿は本当に魔法使いらしいのう。あれは魔法としか言いようがない。わしは、魔法を何度も見たことがあるからのう。間違いないんじゃ」
「えっ……た、確かに魔法に見えますけど……でも、急に魔法使いになるんて……」

 頑張れば、人間でも魔法は使える。
 あたしが儚く夢見てきたそれを、実現させたのがナナシだってこと?

「ナナシ殿が豹変したのは、お払いを受けた直後じゃ。お払いの影響でああなったというのが濃厚じゃろう。祓いの儀を行ったものは、素性を隠せなくなるというからのう」
「え……それって、今のナナシが本当のナナシ……ってことですか?」

 ルルダ様は眉をひそめ、手元の資料を漁るように読みはじめた。

「そう考えるのが自然じゃろう。彼は元々魔法使いじゃったが、その素性を隠しておったのじゃ。これまでのふる舞いも、すべて演技じゃったということじゃな」
「えぇっ?! そんな! そんなふうには思えませんけどっ?!」

 そうだよ、全然思えない。あんなに自然体で屈託のない性格が、演技だったなんて……。
 嫌なざわつきを消したくて、あたしは胸を押さえた。

「そうは言っても、これが真実じゃ……むっ?! こ、これは……そ、そういえばそうじゃった、ナナシ殿は赤子の時に捨てられていた、と履歴書に書かれておったな。親は誰じゃ。マトリ・シュマイルズ、ナナシ殿の実の親は誰なんじゃ!」
「そ、そんなの、あたしも知りませんよ! 育ててくれたご両親も、知らないみたいでしたし」
「ぐぬぅ……出生が不明となると、難儀じゃのう。本人は悪魔女から生まれた、と言っておるが、協定がある限り、この国の魔法使いの血族であるとは考えられん。となれば、他国の何者かが侵入したということか……?!」
「た……他国……?! 魔法使いは、ミグハルド王国特有の存在だって学校で習いましたよ?」
「我が国に存在しておるということは、他国に存在せんなどと完全否定はできん……自国の情報全てを包み隠さずさらけ出しておる国なんぞ、有り得んからな。我が国には他国人の入国を規制する法が設けられておる。しかし、魔法使いならば、そんな規制なぞ魔法でなんとでもなるじゃろうし」
「まさに、可能性は無限、というやつですね……!」

 ルルダ様は嘆息を漏らした。
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