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第6章
スカウト係の悲劇(4)
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ルルダ様は再び、大臣を見据える。
「……いや、それでも有り得んものは有り得ん。悪魔女が子供を産んでいたとして、なぜ誰もそのことに気がつかんかったんじゃ? 仮にも、エミルドは大魔法使いじゃぞ。新たな魔魂が誕生すれば、たとえどこにいようとも、察することくらいできたのではないのか?」
あたしは顔を跳ね上げて、輝く瞳で前に出る。
「確かに! エミルドさんならそんなこと可能中の可能! 見落とすわけがありません!」
「うるさいぞ、マトリ・シュマイルズ! 下がっていろ!」
大臣に押し戻され、よろめく。その肩を誰かに掴まれ、支えられた。
「乱暴だなあ。女性にはもっと優しく接しないとダメじゃない」
レオッカだ。あたしの顔を覗き込んでくすりと微笑むと、肩を抱く手を離した。いつの間に隣に来たのか分からないけど、ともかくありがとう。
「……レオッカくん。今は、子供の出る幕ではない。邪魔しないでくれ」
「第二次性徴を終え、生殖活動も可能。14歳は、子供か否か……ま、それは置いといて、大臣くん。この問題には、僕を、調合、するのがオススメだよ」
レオッカは腕を組み、首を傾けて顎を上げる。そして、鼻で笑った。
「な、何……? どういう意味だ」
「僕はメっちゃんから色々聞いてるから、魔法使いの裏事情にはちょっと詳しいよーって意味」
「め、めっちゃん……? 誰だ、それは」
「聖魔女メイラールド。僕の履歴書に書いてあったでしょ、同居してたって。きっとここでは僕が一番の情報通だと思うよ。じゃあ、試しにクイズ出すね。この中で、『魔魂を封じる魔法』を知ってるひと、手ぇ上げてーっ」
大臣とルルダ様は、戸惑いを浮かべた顔を見合わせる。ボイドさんは首を傾げた。
「そ、そんな魔法があるの……?! エミルドさんの魔法書には、載ってなかったけど」
あたしが詰め寄ると、レオッカは人差し指を立て、嬉しそうに頷いた。
「あるの。文字通り、魔魂を封じ込めるっていう魔法ね。魔魂を封じられた魔法使いや魔女は、魔法が使えなくなって、普通のひとと同じ状態になる。そうなると他の魔法使いからも、魔力を隠し持っていると悟られないらしいよ」
「わー、レベル高そう……自分の弱点にもなるから、エミルドさんは本には載せなかったのかな? 使われちゃうと困るから?」
傍らでは、大臣とルルダ様が向き合って冷や汗をかいていた。
「で、では悪魔女は、子供の存在を隠すため、その魔法をナナシくんに……? しかし、いくら魔魂を封じても、悪魔女のもとに幼子がいれば皆、不自然に感じませんか? それに、子を産むには、父親が必要です。以前、魔女や魔法使いも、繁殖方法は我々と同じだと古い文献で読みました。全種族と交われたとして、誰が好き好んで、悪魔女と関係を持つでしょうか」
「産むだけ産んで、誰かに……一般区民にでも、育児を任せておったのかもしれんぞ。非道な悪魔女のことじゃ、魔法で洗脳でもなんでもできるじゃろ。生殖活動の相手もしかりじゃ」
あたしは身体を返し、プチ重役会議に割り込む。
「えっ……?! その育児を任された区民って、もしかしてナナシの育てのお父さんとお母さんのことですか? ……あれ? でも、ナナシはレフドにいましたよ? 悪魔女の管轄は、ライド区ですよね?」
「むう……そうじゃな。しかし、悪魔女やニナファルドが亡くなって、もう何年も経つ。その間に、なんらかの理由で、ナナシ殿が居を移したということじゃろうか?」
みんなの視線が、ナナシに注がれる。
渦中のひとは、こともあろうに、すーすーと安らかに寝息を立てていた。
「こ、こんな時にっ……」
血管を浮き立たせる大臣とは対照的に、ルルダ様は目を細めた。
「この子は……ナナシ殿は、お祓いを受けてから自分が魔法使いだと気が付いた、と言っておったな。それが本当となれば、自分が悪魔女の子とは知らずに、他人に育てられてきたんじゃろうか……不憫と言えば、不憫よのう……」
あたしは頭にナナシのおじいさんとおばあさんの姿が浮かび、言葉に詰まった。
不憫、だったんだろうか。あんなに、愛されてたのに……。
沈んだ空気を吹き飛ばすように、大臣が鼻息を荒げる。
「ふん。ともかく、事の全ては策に溺れた悪魔女の自業自得でしょう。他の守護者に悟られないよう、産んですぐナナシくんの魔魂を封じ、他人はおろか本人にも彼の正体を明かさず、育児は洗脳済みの区民に丸投げ。彼が成長してから魔法を解こうと企んでいたところを、それより先に、自分が葬むられてしまった。おおかた、そんなところですよ」
「あは! 盛り上がってきたね。じゃあ他に、なんか質問あるひとはーっ?」
レオッカが手を打ち鳴らすと、ボイドさんが挙手をした。
「大臣殿のおっしゃった仮説が正しいとすると、なぜ、ナナシ殿はお祓いを受けた後、自分が悪魔女から生まれたと分かったのだろうか? 元々知らないのに、おかしいのでは?」
「ボイドくん、いいところに気がついたね。答えは、『魔法使いって、そういうもの』だからです。魔魂の持ち主は、誰に教えられなくても、自分の魔魂のルーツが分かるんだって。魔魂が解放されたら、感覚でわかった。そういうことだね」
「はあ、そういうもんなのか……さっぱり分からんが……」
「ちなみに、ほんとに彼が悪魔女の子供なら、彼の性格が急変した理由も分かるよ。魔法使いの性格は、親の影響を受けることがあるんだ。魔魂に含まれる遺伝子の我が強すぎると、子供の性格に影響する場合があるんだって。彼は魔魂が解放された途端、悪魔女の悪い部分に引っ張られちゃったのかも……んふふ。いろいろ、説明がついちゃったね」
レオッカの声が途切れて言以降、白の地はしんと静まり返った。
みんな、息をのんで黙りこくっている。
説明が、ついてしまったからだ。
「……0170、準備」
静寂を破ったのは、微かな声だった。つぶやくように、大臣がそう言った。
警備隊員たちの目に、生気が戻る。ひとりの隊員が、携えていた弓の矢をナナシに向けた。
「……いや、それでも有り得んものは有り得ん。悪魔女が子供を産んでいたとして、なぜ誰もそのことに気がつかんかったんじゃ? 仮にも、エミルドは大魔法使いじゃぞ。新たな魔魂が誕生すれば、たとえどこにいようとも、察することくらいできたのではないのか?」
あたしは顔を跳ね上げて、輝く瞳で前に出る。
「確かに! エミルドさんならそんなこと可能中の可能! 見落とすわけがありません!」
「うるさいぞ、マトリ・シュマイルズ! 下がっていろ!」
大臣に押し戻され、よろめく。その肩を誰かに掴まれ、支えられた。
「乱暴だなあ。女性にはもっと優しく接しないとダメじゃない」
レオッカだ。あたしの顔を覗き込んでくすりと微笑むと、肩を抱く手を離した。いつの間に隣に来たのか分からないけど、ともかくありがとう。
「……レオッカくん。今は、子供の出る幕ではない。邪魔しないでくれ」
「第二次性徴を終え、生殖活動も可能。14歳は、子供か否か……ま、それは置いといて、大臣くん。この問題には、僕を、調合、するのがオススメだよ」
レオッカは腕を組み、首を傾けて顎を上げる。そして、鼻で笑った。
「な、何……? どういう意味だ」
「僕はメっちゃんから色々聞いてるから、魔法使いの裏事情にはちょっと詳しいよーって意味」
「め、めっちゃん……? 誰だ、それは」
「聖魔女メイラールド。僕の履歴書に書いてあったでしょ、同居してたって。きっとここでは僕が一番の情報通だと思うよ。じゃあ、試しにクイズ出すね。この中で、『魔魂を封じる魔法』を知ってるひと、手ぇ上げてーっ」
大臣とルルダ様は、戸惑いを浮かべた顔を見合わせる。ボイドさんは首を傾げた。
「そ、そんな魔法があるの……?! エミルドさんの魔法書には、載ってなかったけど」
あたしが詰め寄ると、レオッカは人差し指を立て、嬉しそうに頷いた。
「あるの。文字通り、魔魂を封じ込めるっていう魔法ね。魔魂を封じられた魔法使いや魔女は、魔法が使えなくなって、普通のひとと同じ状態になる。そうなると他の魔法使いからも、魔力を隠し持っていると悟られないらしいよ」
「わー、レベル高そう……自分の弱点にもなるから、エミルドさんは本には載せなかったのかな? 使われちゃうと困るから?」
傍らでは、大臣とルルダ様が向き合って冷や汗をかいていた。
「で、では悪魔女は、子供の存在を隠すため、その魔法をナナシくんに……? しかし、いくら魔魂を封じても、悪魔女のもとに幼子がいれば皆、不自然に感じませんか? それに、子を産むには、父親が必要です。以前、魔女や魔法使いも、繁殖方法は我々と同じだと古い文献で読みました。全種族と交われたとして、誰が好き好んで、悪魔女と関係を持つでしょうか」
「産むだけ産んで、誰かに……一般区民にでも、育児を任せておったのかもしれんぞ。非道な悪魔女のことじゃ、魔法で洗脳でもなんでもできるじゃろ。生殖活動の相手もしかりじゃ」
あたしは身体を返し、プチ重役会議に割り込む。
「えっ……?! その育児を任された区民って、もしかしてナナシの育てのお父さんとお母さんのことですか? ……あれ? でも、ナナシはレフドにいましたよ? 悪魔女の管轄は、ライド区ですよね?」
「むう……そうじゃな。しかし、悪魔女やニナファルドが亡くなって、もう何年も経つ。その間に、なんらかの理由で、ナナシ殿が居を移したということじゃろうか?」
みんなの視線が、ナナシに注がれる。
渦中のひとは、こともあろうに、すーすーと安らかに寝息を立てていた。
「こ、こんな時にっ……」
血管を浮き立たせる大臣とは対照的に、ルルダ様は目を細めた。
「この子は……ナナシ殿は、お祓いを受けてから自分が魔法使いだと気が付いた、と言っておったな。それが本当となれば、自分が悪魔女の子とは知らずに、他人に育てられてきたんじゃろうか……不憫と言えば、不憫よのう……」
あたしは頭にナナシのおじいさんとおばあさんの姿が浮かび、言葉に詰まった。
不憫、だったんだろうか。あんなに、愛されてたのに……。
沈んだ空気を吹き飛ばすように、大臣が鼻息を荒げる。
「ふん。ともかく、事の全ては策に溺れた悪魔女の自業自得でしょう。他の守護者に悟られないよう、産んですぐナナシくんの魔魂を封じ、他人はおろか本人にも彼の正体を明かさず、育児は洗脳済みの区民に丸投げ。彼が成長してから魔法を解こうと企んでいたところを、それより先に、自分が葬むられてしまった。おおかた、そんなところですよ」
「あは! 盛り上がってきたね。じゃあ他に、なんか質問あるひとはーっ?」
レオッカが手を打ち鳴らすと、ボイドさんが挙手をした。
「大臣殿のおっしゃった仮説が正しいとすると、なぜ、ナナシ殿はお祓いを受けた後、自分が悪魔女から生まれたと分かったのだろうか? 元々知らないのに、おかしいのでは?」
「ボイドくん、いいところに気がついたね。答えは、『魔法使いって、そういうもの』だからです。魔魂の持ち主は、誰に教えられなくても、自分の魔魂のルーツが分かるんだって。魔魂が解放されたら、感覚でわかった。そういうことだね」
「はあ、そういうもんなのか……さっぱり分からんが……」
「ちなみに、ほんとに彼が悪魔女の子供なら、彼の性格が急変した理由も分かるよ。魔法使いの性格は、親の影響を受けることがあるんだ。魔魂に含まれる遺伝子の我が強すぎると、子供の性格に影響する場合があるんだって。彼は魔魂が解放された途端、悪魔女の悪い部分に引っ張られちゃったのかも……んふふ。いろいろ、説明がついちゃったね」
レオッカの声が途切れて言以降、白の地はしんと静まり返った。
みんな、息をのんで黙りこくっている。
説明が、ついてしまったからだ。
「……0170、準備」
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