王子発掘プロジェクト

urada shuro

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第8章

再び(4)

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 ぱっと視界が明るくなり、緑、水色、白、茶色……カラフルな世界が広がった。

 足元に敷き詰められた芝生。外と城内とを隔てる高い塀。その塀に沿って、等間隔で植えられている背の高いミッチェハップの樹。
 あたしたちは裏庭の入り口、ミッチェハップ並木のスタート地点にワープしてきたらしい。すぐ目の前の樹の影には、不審な先客もいた。こちらに背を向けるように樹の幹に身を隠し、こそこそと何かを覗き見している。

「……あれ?! もしかしてアニイセンパイじゃないですか?!」

 あたしが声をかけると、不審人物……もといアニイセンパイは「……ぅわあぁっ?!」と叫んで跳ねるようにふり返る。

「な、何?! 誰……って、え? マ……マトリ?!」

 汗をかきながら目をぱちぱちさせたあと、センパイは大きく溜め息を吐いた。

「あんた、こんなとこで何やってんの?! てか聞いたよ、マトリ。あんたの連れてきた王子候補が、悪魔女の子供だったらしいじゃん!」
「は、はい……」

「その話、懐かしすぎて逆に新鮮だね。それより……いたよ、悪魔女だ」

 レオッカはそう言って裏庭の奥を指差した。
 遠目から見て、白いふたつの石――慰霊碑に変化はなさそうだ。ただ、その側に明らかな異常があった。ミッチェハップの大木を包むような太い光の柱が、地面から空まで突き抜けている。大木の根元には、紫の服を身に着けた悪魔女が地べたに座っていた。

「ちょっ……エミルドさんの慰霊碑の横で、なにしてるの?!」

 取り乱すあたしの腕を、センパイが「こら、落ち着きな」と言って掴んだ。レオッカはセンパイの方へ向き直る。

「アニイさん……だっけ。いつからここにいたの?」
「え? て、そういえば、きみは誰?」
「僕はレオッカ・ニナ。闇魔法使いニナファルドの息子だよ。よろしくね」
「ええっ?! ニ、ニナファルドの? え?!」
「驚くのはあとあと。それでアニイ隊員。ここにきたのはいつ? 何を見てたの?」
「え……い、いつって……ついさっきだよ。だいぶ前に悪魔女の子が白の地で暴れてるって一報が入って、国王様は地下道から避難することになったんだけど……同行する護衛はベテランのみで、二年目のあたしは偵察班に回されたんだ。で、城外を確認して城に戻る途中ここを通りかかったら、あの紫の服のひとが現れたの。ぶつぶつ言いながら樹に触って地面に座り込んだから、不審だと感じて見てたわけ。そしたら一瞬、まばゆい光が辺りを照らして、断末魔のような声……なのか音なのかわかんないけど、とにかく叫びが響いてさ。その後、あの光の柱が現れて……やばい、これはこの世の終わり的な何かが起こる! 結婚もしないままわたしの人生は終わりだ―っ……と思ったんだけど、特に何も起こることもなく数分が経ったところ」
「叫び……、か」

 レオッカは現場に向かって歩き出した。あたしはセンパイに状況を説明しながら、彼に付いて行く。悪魔女まであと五メートルというところまで来て、レオッカの足が止まった。

 光の柱にのみ込まれた大木から、葉っぱがパラパラと落ちていく。それだけではない。枝や幹も、徐々にだけど確実に、ゆっくりと、枯れるように細くしぼんでいっている。

「な、なに? 樹がっ……」

 駆け寄ろうと一歩足を出すと、レオッカの手に止められた。

「マトリ、これ以上近付いちゃだめ。巻き込まれるよ。これは、人体復活の魔法だ」
「え……、じ、人体復活……?!」
「そう。この樹と、この樹に住まう無数の虫の魂を原料に、死んだひとを生き還えらせるつもりみたいだね。おそらく、あと数十分……遅くても一時間くらいで、魔法が完成するはずだよ」
「で、でもそれって、禁忌の魔法なんじゃ……エミルドさんの魔法書にも載ってないし」
「うん。いくら魔法使いでも、ひとの生き死にに手を加えてはならない……ってことで、身体の一部を再生させることすら禁止とされてるらしいからね。ま、でも他の守護者には禁忌とされてても、悪魔女にとっては普通の魔法なんじゃない?」

 笑うレオッカに、あたしは首をかしげる。

「だけど、一体誰を生き還らせるつもり……? 死んだひとの中に悪魔女の味方がいたってこと? あ……そういえば、ライドには悪魔女に取り入ってた者もいたってシロクさんが……」
「うーん、どうなんだろうね。とにかく、人体復活の魔法は魔魂の消耗が激しいんだ。まず、今の悪魔女の小さな魔魂では無理。だから息子の魔魂を使うんだろうけど、今後使える魔力は著しく減ることになるよ。それを承知で、となれば……ひとつ考えられるのは、自分の身体を取り戻そうとしているのかもしれない。すでに死んでる、ひととしての魂と、肉体を」
「えっ……自分で自分を?!」
「実はずっと感じてたんだけど、悪魔女の魔魂が、彼の魔魂と噛み合ってないような気配が伝わってくるんだよね」
「ナ、ナナシの魔魂と、悪魔女の魔魂が?」
「うん。多分、いくら親子でも、生の魔魂がひとつの体内にふたつも入ってるのは無理があるんだろうね。おまけに彼のは魔法使いの自覚ができたばっかりの不安定な精神だから、乗っ取りたくても操りにくいのかも。そんな状態じゃ、本来の魔力は発揮できないんだよ」
「そういえばシロクさんも、悪魔女は全力じゃないかも、みたいなこと言ってたような……」
「やっぱりそうなんだ……悪魔女の身体が復活したら……悪魔女の魔魂は、彼の身体から自分の身体に乗り換える。そして、息子の身体から魔魂を奪い、自分のものにする。身体が自分のものだと、ふたつの魔魂を体内に持っていたとしても、他人の身体を操っている時より数段楽になる。そしたら、悪魔女の本領発揮。第二回ミグハルド大事変の幕開けだね」

 あたしは取り乱してレオッカの腕を掴んだ。

「そ、そんなっ……! ととと止めないと! なんとかしないと!」
「うん。阻止するには、悪魔女の身体が復活して、魔魂が自分の身体に乗り換える瞬間を狙うしかないね。乗り換えたあと、彼の魔魂を奪うはずだから、その前に僕が悪魔女の魔魂の動きを止めて、元国王軍に悪魔女の魔魂を斬ってもらう……っていうのがAプラン」

 Bプランがあるのかどうかは知らないけれど、それを聞く前にAプランに異議を唱える人物が現れた。遅れてやってきた、シロクさんだ。

「……レオッカ、その作戦には問題がある」
「あ……シロクさん! お、お疲れ様です」

 あたしはふり返り、ひとり自力でここへ来た彼に頭を下げた。
 アニイセンパイが、あたしの肘をつついて小声で問いかけてくる。

「誰?! この急に出てきたイイ男は」
「あ……彼、あたしがライド区でスカウトした王子様候補です。ほら、メールで話した……あと、実は元国王軍で魔魂葬剣の使い手というすごいひとですよ」
「まじか! わたしのイメージ通りなんだけど! あとは腹筋が」
「バッキバキでした」
「でかした、マトリ! 今度、焼き肉食べ放題奢ったげる! だから早く、紹介紹介」
「セ……センパイはこんな時にもぶれないっすね……」

 こほん、と咳払いをして、あたしは姿勢を正した。

「あ……あの、シロクさん。こちら、あたしの学生時代の先輩で、今は国王警備隊のアニイさんです。緊急で偵察をしていたところ、ここで偶然出会ったんですけど……」
「はじめまして、アニイです。お会いできて光栄です」

 凛々しい微笑みを浮かべ、センパイが手を差し出した。シロクさんは「……ライド流忍一家家長のシロクだ。よろしく」と握手に応じる。

 レオッカは腕を組み、右の頬を膨らませてシロクさんを見た。

「それより、どゆこと? 僕の考えのどこに文句があるわけ?」
「……文句ではなく、問題がある、と言っているんだ。おれは、魔魂葬剣が使えない」

 衝撃の告白に、みんなの目が丸くなった。
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