王子発掘プロジェクト

urada shuro

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第9章

ラブ イズ オール(3)

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「いいの? エミルド。お前が言うことを聞かなければ――」

 悪魔女は片腕を高く上げ、手のひらをミグハルド城の頂点に向けた。

 ドォォォンッ……!

 放たれた巨大な魔法弾に城の末端が砕かれ、内部が剥き出しになる。

「――9年前と同じことになるの」

 破壊者はにやりと口角を上げた。

 九年前……? って、もしかして……。

「……ちょっと待って。嫌な予感がするんだけど……9年前、ってミグハルド大事変のこと? あれは、悪魔女が国を征服しようとして起こしたんじゃなかったの?」

 あたしが感じた疑問を、レオッカが口にした。
 黙秘する悪魔女の代わりに、エミルドさんが答える。

「……いや。9年前にガルドが国を襲ったのは、オレが彼女の言いなりにならなかった腹いせだ」

 一体、今日あたしは何度絶句すればいいんだろう。驚きを通り越して、なんだか頭がぼうっとしてきた。
 誰か冗談だって言って。あの伝説の戦いが、たまにニュースで見る、悲惨なストーカー事件的な原因で起こったなんて。

「うわあ、やっぱり! 僕たち、そんなことの為に巻き込まれたの?!」

 レオッカが大声で嘆く。

「そ、そんな事はじめて聞いた……国を乗っ取ろうとして襲ったって、学校で習ったし……」

 アニイセンパイの言葉を受け、斜め上に視線を向けたエミルドさんは「あれ? 言ってなかったっけ?」と言って後頭部を掻いた。

「ふん、それまで8年間も我慢したんだから、褒めてほしいくらいなの。さあ、どうするの?! 選ぶがいいの、エミルド!」

 叫びながら、悪魔女は両腕を目いっぱい横に開く。両肩、そして両肘のあたりから、ぬらり、と黒い影が生まれ出た。

 レオッカが身構える。あたしたちを包み込むように、ドーム状の膜が張られた。
 悪魔女の身体から、鳥に似た大きな4つの黒い影が飛び立つ。天高く舞い上がったそれは日の光に紛れ……あたしの目は見失う。数秒後、衝撃が降ってきた。ニナの魔法使いは足を大きく開き、大地に踏ん張ってそれに耐える。

 ほっとする間もなく、後方で爆発音がした。しかも、連続で――同時に、叫び声が上がる。複数人のものだ。ふり返り、あたしの身体から血の気が引いた。
 十数メートル先、裏庭の入り口あたりに薄く煙が立ち、その中に兵士たちがいたのだ。はっきりとは確認できないけれど、人数はおよそ二十人弱。半数は自立しているけれど、残りの半数は焼けた芝生に膝を着いたり、座り込んだりしている。また、数人は地面に突っ伏していた。

「しまった、本命はあっちか……!」

 惨劇の場を目にして、レオッカが悔しげに顔を歪める。

「な……なんで、まだお城にひとが……?! レオッカが連れ出したはずじゃ……」

 あたしはアニイセンパイの顔見た。センパイの顔が苦く歪む。

「多分、わたしたちが戦ってる音を聞いて、場外から駆けつけたんだと思う。フロンド全域には、随分前に集合地下シェルターへの避難命令が出てた。それに伴って、城周辺の街中に、誘導や警備のための警備隊が配置されてたから……」

 負傷者の低い呻き声が、焦げた匂いと共に、地を這うように絶え間なく響く。

「おい、しっかりしろ!」「こちら、7515! 至急、救護班を……」

 攻撃を免れた者たちも、口々に叫んでいる。
 エミルドさんは彼らのもとへと駆け出した。しかし、悪魔女がいち早くそれを察知し、魔法によって彼を檻の中に閉じ込める。

「お前が言うことを聞かない限り、ガルドは何度だって平民どもを襲うの。早くしないと、誰もいなくなるかもしれないの。そうすれば、ガルドたちはふたりきりなの……」

 捕われの大魔法使いに顔を近付け、悪魔女が笑う。
 エミルドさんは怒りをたぎらせた瞳で悪魔女を睨み、檻を形作る鉄の棒を両手で強く握った。

 シロクさんが僅かにレオッカの方へ視線を向け、ごく小さな声でささやく。

「……レオッカ、早く救助に。その間、おれが悪魔女の相手になる」
「行けるなら、とっくに行ってるよ。でも、僕が離れれば魔魂葬剣唯一の使い手を殺す好機になる。それが相手の狙いなんだから、乗ったら終わりでしょ」

 悪魔女に悟られないよう、あたしはレオッカの服の袖を小さく掴んだ。なにか察したのか、レオッカはすぐに頭の中で話しかけてくる。

(マトリ?)
(レオッカ、行って! 警備隊のみんなを魔法で助けてあげて! センパイも一緒に……センパイは応急処置とかちゃんとできるひとだから!)
(でも、僕がいなかったら悪魔女が)
(救助が終わるまで、あたしがシロクさんと一緒に悪魔女を食い止める。だって、あたしは――)

 短い会話を続けた後、レオッカはアニイセンパイを連れて目の前から消えた。
 無事に空間を移動できたらしい。隊員たちから、慌てふためく声が上がっている。
 それを見届け、悪魔女は気味の悪い笑みを浮かべた。

「ふん……ニナファルドのチビさえいなければ、坊やを殺すなんて容易いの……そして、坊やを殺せば、ガルドが消滅することはないの。国民を皆殺しするのも容易いことなの!」

 エミルドさんが声をふるわせる。

「ガルド……! きみは9年前と全く同じだ。身体を、魂を失っても、なんの改心もしなかったんだな……!」
「そんなもの、するわけないの。ガルドを誰だと思ってるの? ガルドは悪魔女。平民や大魔法使いとは違う生き物だってこと、いい加減学んでほしいの」
「ああ、学んだ。きみはやはり、この国にとっての脅威だ」
「……また、ガルドを消したくなったの? お前、愛してるって言うわりには、冷たいの。9年前と同じ……」
「間違ったことを正すのも、オレの愛のうちだ」
「都合がいいの……でも、今のお前にはもう無理なの。魔力がないんだから、ガルドに抵抗はできないの。さっさと平民どもを皆殺しして、ガルドだけのものにしてやるの!」

 悪魔女は空中に浮かび上がると、両手を横に開いた。しかし魔法は不発に終わる。
 紅の引かれた赤い口が呪文を唱えるより、彼が――シロクさんが先だったのだ。

 おそらく、悪魔女がかけようとしたのは時間を止める魔法だ。それは、特定のポーズを決めなければ成立しない。そのルールが生むのは紛れもない「隙」――ほんの一瞬無防備になった隙を突き、シロクさんは胸元から取り出した何かを悪魔女に向かって放ったのだった。

 日光を反射しながら一直線に飛んでくるいくつかのそれをふり払うために、悪魔女は魔法を中断せざるを得ない。バリアを張る時間もなかったのか、身を守ったのは素手だった。
 シロクさんは攻撃の手を緩めず、速すぎてあたしには正体を確認できない「何か」を立て続けに投げ続ける。「何か」に紛れさせ、ひとつ、「別の物」も放った。「何か」を払い除けた悪魔女に、「別の物」が襲う。

「ぐっ……」

 悪魔女が呻いて動きを止め、「別の物」の正体が分かった。鎖……の先に、鋭利な金属の塊がくっついた物だ。その鎖が、悪魔女の片腕を胴体に縛り付けるように絡みついている。

 シロクさんは鎖を思い切り手繰り寄せた。ぐん、と勢いよく、悪魔女の身体が地に向かって引きずり降ろされる。悪魔女は自由になっている方の手で魔法を使い、自分とシロクさんとを繋ぐ鎖を分断した――が、片腕はまだ拘束されたままだ。解放の隙を与えず、シロクさんが刃を向ける。悪魔女は片手で防御膜を張り、攻撃を凌ぐ。戦いながら、ふたりは徐々に檻から離れていく。

 あたしは、この時を待っていた。シロクさんが引き付けてくれている今のうちに……。
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