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最終章
大丈夫(3)
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ただ、鈍原理壱はなにもしなかったわけではない。
なんと、彼は君縞さんをまた相殺堂に呼び寄せ、オレへの新薬投与を引き続き手伝わせたのだ。
君縞さん以外に協力を頼める医師が急には見つからず、なにより、新薬の存在をむやみに他言することを避けたかったというのが、そうした理由だと社長は言っていた。
その後、オレへの四度目の新薬の投与が実施されたのは、オレが君縞邸でマルカさんに新薬を打ってもらった約1週間後だ。
この日程は、そもそもの投薬計画の予定通りであった。
オレの人生を引っ掻き回した相手との思ってもみなかった再会に、オレは愕然とした。
しかし、君縞さんは散々社長から絞られたようだ。おまけに、相殺堂にいる間はずっと、社長から執拗に監視をされ、「少しでもおかしなことをすれば、未使用のソレをちょん切ってやる」と脅されていた。その結果、君縞さんは社長の命令で動くロボットのようになってしまっていたのだ。
そんなこんなで、四度目の投薬はそつなく行われたのだった。
その最中、オレは「また君縞さんを連れてくるなんて、信じられない」とマルカさんに漏らしたことがある。
すると、マルカさんは溜め息を吐いた。
「それは、あなたも同じです。あの時――君縞さんの家に行った時、彼がわたしたちに見せた新薬を、本物だと決めつけたではないですか。今回は運よく本物でしたが……ああいう場合、大概は偽物が用意されているものです。それなのに、疑いもせず自分の体内に入れるなんて、信じられません。わたしは本当に、身も凍る思いでしたよ」
「い、いやぁ。あれは、そのー……君縞さん、確かに変な人でしたけど、でも本人の言うとおり、人を殺したりはしないんじゃないかと思って。だってほら、新薬の代わりにオレに打ったのも麻酔だったし、家に行ったときも、結局毒は打たれなかったでしょ? 殺す気があったら、もっと簡単にやられてたんじゃないかなって感じたんです。例え薬が偽物でも、死んだりするものは入れられてないんじゃないかな、って」
オレの返答に、マルカさんは再び深いため息を吐いた。
「本当に、あなたという人は」
そう呆れられたけれど、今回に限っては、あれでよかったんじゃないかな、なんて思う。
こう思えるのも、やっぱり結果がよかったからにすぎないんだろう。
まったく、我ながら変わり身が早い。自分でも、自分に呆れる。
だけど、内心ほっとしてるんだ。
オレのなかに、ようやく気楽ないい加減さが戻ってきたのだから。
「……でも……やっぱり悔しいですね」
うつむいたマルカさんが、ぽつりとつぶやく。
オレは彼女のほうへ向きなおり、「なにがですか?」と尋ねた。
「社長の作った薬には、思い通りの効果があったんです。もう少しの量があれば、風音寺さんの身体が完全に治ったかもしれないと思うと……」
マルカさんの表情には、悲しみと申し訳なさ、そして僅かに喜びが混じって見える。
四度目の投薬で、新薬のすべては小瓶からオレの体内へと移された。
もう、使い切ってしまったのだ。
しかし――――。
三度目、マルカさんに注射をしてもらったあと、オレの身体には明らかな変化が起きていた。
相変わらず倦怠感には襲われるものの、その頻度や程度が軽減されていたのだ。
これまでの数月間、毎日欠かさず症状は起こっていた。それが、数日に一度程度、なにもない日があるようにすらなったのである。
時によっては倒れ込むほどきつかった身体のだるさ、重さも、軽くなった気がした。
それに気がついた時、オレはそれはそれはとてつもなく興奮したものだ。身体の芯から熱いものが湧き上がり、胸の高鳴りが止まらなかったのを今でも覚えている。
ただし、ぬか喜びにならないよう、はしゃぐことはしなかった。毎日、「これが改善している兆しでありますように」と密かに祈って過ごしたのだ。
そして四度目の投薬後。
祈りは現実味を帯びた。
「なにもしていないのに、突然倦怠感が現れる」という悩ましい症状の回数は如実に減り、症状の程度も「座って少し休めば、回復する」というレベルになった。
君縞さん宅で注射を打った当初、マルカさんは直前に錠剤を飲んでいないことを気にしていたけれど、なんせ、新薬は試験段階だ。作った社長本人いわく、
「んなこと言われても、まだわかんねえ部分も多いんだから仕方ねえだろ!」
とのことだ。直前に錠剤を飲まなくても、オレの身体に何故効果をもたらしたかはわからないらしい。事前に錠剤を飲むことの必要性についても、それこそまだ試験段階なのだから。
なんと、彼は君縞さんをまた相殺堂に呼び寄せ、オレへの新薬投与を引き続き手伝わせたのだ。
君縞さん以外に協力を頼める医師が急には見つからず、なにより、新薬の存在をむやみに他言することを避けたかったというのが、そうした理由だと社長は言っていた。
その後、オレへの四度目の新薬の投与が実施されたのは、オレが君縞邸でマルカさんに新薬を打ってもらった約1週間後だ。
この日程は、そもそもの投薬計画の予定通りであった。
オレの人生を引っ掻き回した相手との思ってもみなかった再会に、オレは愕然とした。
しかし、君縞さんは散々社長から絞られたようだ。おまけに、相殺堂にいる間はずっと、社長から執拗に監視をされ、「少しでもおかしなことをすれば、未使用のソレをちょん切ってやる」と脅されていた。その結果、君縞さんは社長の命令で動くロボットのようになってしまっていたのだ。
そんなこんなで、四度目の投薬はそつなく行われたのだった。
その最中、オレは「また君縞さんを連れてくるなんて、信じられない」とマルカさんに漏らしたことがある。
すると、マルカさんは溜め息を吐いた。
「それは、あなたも同じです。あの時――君縞さんの家に行った時、彼がわたしたちに見せた新薬を、本物だと決めつけたではないですか。今回は運よく本物でしたが……ああいう場合、大概は偽物が用意されているものです。それなのに、疑いもせず自分の体内に入れるなんて、信じられません。わたしは本当に、身も凍る思いでしたよ」
「い、いやぁ。あれは、そのー……君縞さん、確かに変な人でしたけど、でも本人の言うとおり、人を殺したりはしないんじゃないかと思って。だってほら、新薬の代わりにオレに打ったのも麻酔だったし、家に行ったときも、結局毒は打たれなかったでしょ? 殺す気があったら、もっと簡単にやられてたんじゃないかなって感じたんです。例え薬が偽物でも、死んだりするものは入れられてないんじゃないかな、って」
オレの返答に、マルカさんは再び深いため息を吐いた。
「本当に、あなたという人は」
そう呆れられたけれど、今回に限っては、あれでよかったんじゃないかな、なんて思う。
こう思えるのも、やっぱり結果がよかったからにすぎないんだろう。
まったく、我ながら変わり身が早い。自分でも、自分に呆れる。
だけど、内心ほっとしてるんだ。
オレのなかに、ようやく気楽ないい加減さが戻ってきたのだから。
「……でも……やっぱり悔しいですね」
うつむいたマルカさんが、ぽつりとつぶやく。
オレは彼女のほうへ向きなおり、「なにがですか?」と尋ねた。
「社長の作った薬には、思い通りの効果があったんです。もう少しの量があれば、風音寺さんの身体が完全に治ったかもしれないと思うと……」
マルカさんの表情には、悲しみと申し訳なさ、そして僅かに喜びが混じって見える。
四度目の投薬で、新薬のすべては小瓶からオレの体内へと移された。
もう、使い切ってしまったのだ。
しかし――――。
三度目、マルカさんに注射をしてもらったあと、オレの身体には明らかな変化が起きていた。
相変わらず倦怠感には襲われるものの、その頻度や程度が軽減されていたのだ。
これまでの数月間、毎日欠かさず症状は起こっていた。それが、数日に一度程度、なにもない日があるようにすらなったのである。
時によっては倒れ込むほどきつかった身体のだるさ、重さも、軽くなった気がした。
それに気がついた時、オレはそれはそれはとてつもなく興奮したものだ。身体の芯から熱いものが湧き上がり、胸の高鳴りが止まらなかったのを今でも覚えている。
ただし、ぬか喜びにならないよう、はしゃぐことはしなかった。毎日、「これが改善している兆しでありますように」と密かに祈って過ごしたのだ。
そして四度目の投薬後。
祈りは現実味を帯びた。
「なにもしていないのに、突然倦怠感が現れる」という悩ましい症状の回数は如実に減り、症状の程度も「座って少し休めば、回復する」というレベルになった。
君縞さん宅で注射を打った当初、マルカさんは直前に錠剤を飲んでいないことを気にしていたけれど、なんせ、新薬は試験段階だ。作った社長本人いわく、
「んなこと言われても、まだわかんねえ部分も多いんだから仕方ねえだろ!」
とのことだ。直前に錠剤を飲まなくても、オレの身体に何故効果をもたらしたかはわからないらしい。事前に錠剤を飲むことの必要性についても、それこそまだ試験段階なのだから。
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