泡沫の如く儚い平和

琴里 美海

文字の大きさ
17 / 44

第壱拾七話

しおりを挟む
 帰ってすぐにおいらを迎えたのは、案の定不満そうな槿花だった。

「にーちゃ!!!」

 槿花はおいらに飛び付くと、おいらの事を何度も殴って来た。

「すぐに帰って来るなら、おらと遊んでくれても良いずら!!!」
「悪かったよ、おいらもそうすぐに帰ってくると思ってなかったんずらよ。」

 嘘は言ってない。だけど槿花はずっと不満そうな顔をしておいらを見ていた。
 取り合えずもう一回謝って槿花を降ろすと、おいらは自分の部屋に向かった。まぁ自分の部屋って言っても、槿花と一緒に使ってる部屋だけど。だから槿花もおいらの後ろを付いて歩いて来た。
 部屋に入って来てすぐに槿花は後ろからおいらに飛び付くと、おいらは盛大に転んだ。

「何するずら!!!」
「おらまだ怒ってるずら!!!」

 そう言って槿花はおいらの背中を何度も叩いて来た。重たいだけで別にそんなに痛くないけど、流石にうつ伏せだと苦しい。
 槿花が背中に乗ったまま、おいらは寝返りを打つと、勿論槿花は背中から落ちた。

「あいた!!!」

 別に大して痛くないだろ、そう言うと槿花は頬を膨らませた。だからすぐそうやって怒る。槿花が怒ったって別に大して怖くないからな。
 文句を言いながらおいらを殴って来ると、一発鼻に直撃して、おいらは槿花の腕を掴んだ。待て、幾らなんでも顔面は、特に鼻と目は痛い。と言うかだぞ、槿花最近我が儘法大だっての。
 怒りを込めて槿花を睨むと、槿花は驚いた顔をした後に大声を上げて泣き出した。

「うわっ!!!」

 流石に泣くと思ってなかった。
 槿花の泣き声を聞いた母さんが走って来ると、大泣きする槿花、唯々困惑しているおいらを見て溜め息を吐いた。

「槿花、また兄ちゃん怒らせたんずらね。」
「おら悪くないずら!!!にーちゃが悪いずら!!!」
「兄ちゃんは自分が悪い時は槿花を泣かせたりしないずらよ。」

 そう言っておいらを見た。とは言っても、流石に妹を泣かせた事に少なからず怒っているらしく、眉間に皺が寄っていた。
 母さんは槿花を抱き上げると、背中を優しく叩いた。

「すぐ泣かない、兄ちゃん困っちゃうずらよ。」
「うー、うぐっ、ぐすっ。」

 泣き止まない槿花の頭を母さんは撫でると、今度はおいらの前にしゃがんだ。

「泡沫も、すぐ泣かせちゃ駄目ずらよ。」
「……………ごめんずら。」
「うん、良い子良い子。」

 母さんはおいらの頭も撫でると、槿花が不満そうな顔をしていた。

「何ずら。」
「にーちゃは良い子じゃないずらよ!!!」
「兄ちゃんは良い子ずらよ。槿花がどれだけ我が儘言っても、ちゃんと付き合ってあげてるずら。」

 母さんの言葉を聞いて槿花はまた不満そうに頬を膨らませた。
 いい加減落ち着いたのか、槿花は泣き止んでいた。だけどやっぱり不満そうな顔をは続けていた。見兼ねた母さんが槿花の頭に自分の付けていた花の髪止めを付けた。すると槿花の意識はおいらへの不満から一気に髪止めへと移動した。

「かーちゃ?」
「槿花にあげるずら。大事にしてほしいずら。」

 母さんがそう言うと槿花は満面の笑みで頷いた。

「うん!!大事にするずら!!!」

 それでやっと槿花の機嫌が直った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...