朝餉添えの贄

琴里 美海

文字の大きさ
2 / 39

第弐話

しおりを挟む
 閉じ込められて早一日。いい加減に騒ぐのは止めた。
 どうしてこんな事になっているのか、冷静になって考えてもやっぱり分からなかった。だけどあの人にはあの人なりの目的があるのは予想出来る。
 あの人の目的って一体何だろう。例えば私に恨みがあって此処に監禁しているとか、例えばあの村を滅ぼす為に私を此処に監禁している。他にも色々考えたけど、そもそも私はあの人を知らないから分からない。

(お腹空いた。)

 そう言えば最後にちゃんとお腹いっぱい御飯を食べたのは何時だったっけ。毎日少しずつ食べてるけど、お腹いっぱいに食べたのって、考えてみると数える事が出来るくらいの少ない回数だった気がする。
 そんな事を考えていると突然部屋の扉が開いた。
 慌てて扉の方を見ると、湯気の揺らぐ料理をおぼんに乗せた暁光さんが、お行儀が悪いけど足で扉を開けて私を見ていた。

「よ。」
「あ、えっと、それは何ですか?」
「飯だよ飯。」

 そう言って私の前におぼんを置いて座った。
 如何したら良いのか分からず、私は料理を見続けていた。こんなに豪華な物初めて見た。

「いや見てないで食えよ。」
「え!あ、はい。」

 食べて良いから持って来てくれたって事は分かるけど、良い物を自分が食べて良いのかが分からない。
 食べようと手を伸ばすと暁光さんに手を掴まれた。

「お前何で手で食べようとするんだよ!!」
「え、え?」
「あ?」
「手以外で物食べた事ありません。」

 私がそう言うと暁光さんは驚いた顔をしてから大きく溜め息を吐いた。そう言えば私が昨日服を脱ごうとした時も暁光さんは止めたけど、私が普段からやってきた事って普通はやらない事なのかな。
 おぼんの私側にあった二本の棒を手に取ると私に持たせてくれた。それも親指と人差し指の間に。

「持ち方教えてやるから、これ使って食え。」
「あ、はい。」

 結局覚えて使える様になるまで結構な時間が掛かったけど、暁光さんは最後まで私に付き合ってくれた。
 全部食べ終わると、暁光さんはおぼんを持って歩いて行ってしまった。相変らず足の枷は外してくれなかった。
 温かくて美味しい御飯は初めて食べた。今まで冷たくて硬くて大して美味しくない御飯しか食べて来なかったし、そもそも御飯をちゃんと食べられるってこんなに幸せな事だったんだ。

 驚いた。まさか常識が一切通用しないとは思わなかった。
 目の前で服脱ごうとするわ熱い料理素手で食おうとするわで、多分探せばまだまだ出てくるだろうけどな。

「あいつ今まで本当にどんな生活送ってたんだよ。」

 そう疑問に思わざるを得ない。
 親は如何してんだよ、何であいつにあんな悲しそうな顔させてんだよ。

「……………いや、俺が何か言えた立場じゃねぇよな。」

 親でも何でもないし、別に友人って訳でもないし。そもそもあいつをあの村から助け出す機会何回もあったのに、その時にしなかった俺が悪い。俺が怠惰だったのだが悪い。
 それでも社に閉じ込められた時、何とかしないとって思ったんだよな。
 そっからは早かった。
 村人が社から離れた瞬間に近付いて中からあいつを連れ出して、俺の住んでる此処まで連れて来た。
 あいつが俺を覚えてない可能性だって勿論あった。それも覚悟で、あいつにどんな文句を言われても良いと覚悟してあいつを連れて来た。

「でも文句じゃなかったな……………」

 あんなに悲しそうな顔してあんな事言われるとは流石に思ってなかったな。
 どうやったら笑ってくれるか、考えても分からなかった。うん、こう言う事は俺が考えても分からない。ってな訳であいつを呼ぶか。

「雀!!雀ー!!!どうせ居るんだろ!!?」
「あいあい!!」

 俺が名前を呼んだ瞬間に窓の外からひょっこりと顔を出したのは、ちょくちょく俺の家の中に入り込んでくる女、雀だ。
 見た目幼いがそこそこの年齢だ。

「あんさんがあっしを呼ぶなんて珍しいっすね!」
「んな事ァどうでも良いだろ。兎に角お前に頼みたい事があるんだよ。」
「あんさんが頼み事!?明日は雪っすかね!?」
「焼き鳥にするぞ?」
「止めてくださいっす!!!」

 まぁ流石に焼き鳥は冗談だ。

「俺が頼みたい事はあいつの話を聞いてやって欲しいんだ。」
「あいつ?誰っすか?」
「あいつはあいつだよ……………」
「いや、だから名前を…………」

 そう言われて俺は固まった。

「すっかり忘れてた。」
「?何がっすか?」
「まぁ良いや、付いて来い。」

 雀は窓の縁に手を突いて飛び上がって家の中に入ると、俺の後を付いて来た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...