朝餉添えの贄

琴里 美海

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第壱拾弐話

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 連れて来られた場所は、最初に私が連れて来られたあの社だった。
 如何してこんな所に連れて来られたのか分からず、私は一人困惑していた。

「あ、あの…………」

 降ろされて私は改めて声を掛けたけど、一切返答は無かった。
 じっくりと、品定めをする様に私を見ている。その視線が気持ち悪くて、私は小さく震えた。

(何だろう、気持ち悪い。)

 明らかに友好的な存在じゃないのは何となく分かる。でも下手に刺激を与えるのも駄目だから、向こうの出方を伺う事にした。
 唯々私を見続けている。
 私は流石に耐え切れなくなって少しだけ動いてみる事にした。
 動く、と言っても軽く手を振ってみたりとか、それくらいで、別に攻撃をしたり、逃げようとしたりはしない。
 手を振ってみるけど特に反応は無く、私を見続けている。

(……………何で連れて来られたんだろう。)

 連れて来る事が目的だとしても、その後は?その後の目的は一体何?何も無いなんて事は無いと思うんだけど。
 そんな事を考えていた時だった。
 今まで見てくる以外何もしなかった筈のソレは、突然私に近付いて私の足の骨を折ってきた。

「ッ!!!いあああああああああああああ!!!」

 何で!?如何して突然こんな事してくるの!?今まで見てくるだけだったのに!!
 まさかとは思うけど逃がさない様に足の骨を折ったの?そんな理由だったら暁光さんの方が全然優しい。
 ソレがニタリと笑うと寒気がした。

「あ、ぅ……………」

 怖い。

 助けて。

 誰か。

 暁光さん。

 知らない内にボロボロと涙が零れていた。
 ソレは私の腕を掴むと大きく口を開けた。もしかして食べるの?なら貴方が此処の神様なの?
 違う。
 村の神様がどんな見た目をしているのか、どんな性格なのか私には分からないけど、それでも今私の目の前に居る存在が村の神様なんかじゃないのはすぐに分かった。

 少しずつ口が近付いて来ると、私は慌てて腕を振ってソレから逃げた。
 足の骨が折れているから上手く動けない。
 すぐに転ぶとソレに腕を掴まれた。その口は大きく開いている。

(食べられちゃうの?)

 神様に食べられるのは良い。そもそもそれが最初の目的。だけど何だか分からない人に食べられるのは絶対嫌。

「止めて!!」

 必死に暴れて、叩いたりしたけど離してくれなかった。
 もう少しで食べられると思った瞬間、凄く強い風が吹いたと思った次の瞬間には、目の前にいた筈のソレが真っ二つになっていて、霧みたいに消えてしまった。

「え、え?」

 何が起きたのか全くと言って良い程分からない。
 だけど、今私の視線の先にはとても綺麗で長い黒い髪をして、真っ白い服を着た綺麗な女の人が立っていた。

「あの、貴方は……………」
「そなたは何者かえ?何故此処に来たえ?」
「え、えっと……………さっきの人に、連れて来られて。」

 私がそう言うとその人は堪える様に笑った。

「そなたはアレを人と申すか。」
「人間、とは思ってませんけど。」

 でも人の形をしていたから、何と無く人って言っているだけ。

「ふむ。」

 その人もまたさっきの人の様に私をジッと見つめている。

「成程、アレがそなたを此処に連れて来た理由が良く分かった。」
「ど、どうしてですか?」

 私がそう聞くとその人は私に近付いて私の頬に手を置いた。

「そなたは恐らく、とても美味であろうな。」
「!!」

 驚いて咄嗟に突き飛ばした。

「た、食べるんですか?」
「食べたら美味だと言う事は分かるのう。」

 落ち着いてその人を見ると、見た目も服もとても綺麗だった。外から入って来た、と言うよりはずっと此処にいたと言う感じだった。

「あの、貴方は此処の神様ですか?」
「例え妾が此処の神だとして、そしてそなたがあの村の伝承の通りに此処に献上された生贄だとしたら、そなたは大人しく喰われるのかえ?」
「………………………」

 私は特に何も言わずに、唯その人を見続けていた。
 この人が神様だったなら、別に食べられても良いかもしれない。だってこんなに綺麗な人だから。

 私の考えが分かったのかその人は私の手を掴み、そして少しずつ口に近付けて行った。
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