朝餉添えの贄

琴里 美海

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第壱拾壱話

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 何時の間にか眠っていたらしく、ぼんやりと意識を取り戻していた。
 此処、そう此処は部屋の中。私は起き上がりながら部屋の扉の方を向いた。開く様子も無く、扉の向こうからは特に音は聞こえて来ない。この部屋の外には誰も居ないのかな。いや、そもそもこの部屋の外には本当にちゃんと空間が広がっているのか。それすら不安になるくらいに部屋の外は静かだった。
 立ち上がって扉まで歩いて行くと、ギリギリ手が届いて扉を開けた。
 心配していた空間はちゃんとあった。

「ぎょ、暁光、さん?」

 名前を呼んでも特に返事は来なかった。
 他の人の名前を呼んでも、誰も返事をしてくれなかった。今私以外誰も居ないのかな?
 誰も居ない事に急に不安になった。別に一人ぼっちなのは元々慣れている。慣れているのにやっぱり不安になる。
 扉を閉めて私はまた布団の上に寝転がった。

(そう言えば、村って今どうなったんだろう。)

 もしも、もしも私が此処にいるせいであの村が無くなっていたら、其れはやっぱり私のせい。すぐに此処から抜け出さなかった私のせい。
 窓が数回叩かれると、私は窓の外を見た。

「あ、鳩さん。」
「鴉は…………来てないみたいだな。」
「あの鳩さん、暁光さんは……………」
「あの人は今外に出てる。相当御立腹みたいだったけどな。」
「…………………」
「別にあんたのせいじゃないだろ。」
「で、でも……………」

 私のせいだとしか思えない。
 鳩さんは大きく溜め息を吐いた。

「そう言えば雀さんは……………」
「あの人なら気にしなくて良い、すぐにケロッとするから。と言うかそもそも気にして無い。暁光は普段から癇癪起こすから。あそこまでのは初めてだけど。」

 それだとしても私は謝りたい。私のせいで雀さんまで怒鳴られてしまったのだから、それに関してやっぱり謝りたい。
 ずっと其れを考えていると鳩さんに人差指で額を軽く突かれた。

「う!」
「その顔暁光に見せない方が良い。」
「どうしてですか?」
「何しでかすか分からないから。」

 そんな事を言われてしまったら暁光さんの前でこの表情が出来ない。別に私一人に何かするなら良いけど、他の人にまで八つ当たりしたら嫌だから、我慢していよう。

「おいらはおいらの仕事があるからもう帰るけど、鴉にだけは気を付けとけよ。」

 それだけ言って鳩さんは帰って行った。
 気を付けろ、と言われても鴉さんが何時、何処で現れるか分からないし、そもそも何を如何警戒すれば良いのかが分からない。
 突然窓の外から黒い何かが入って来ると、私はすぐに窓から離れた。
 人の形はしているけれど、明らかに人なんかじゃない。それに私の事を一直線に見ている。
 少しずつソレが近付いて来ると、私は慌てて部屋から出ようとしたけど、枷が付いているせいで部屋の外に出る事は出来なかった。

「あ、あ…………」

 今誰もいないのに、大声を出して果たして誰が助けてくれるのか。

「………………………」

 助けなんて、別に最初からいならなかったのに。

 暁光さんが此処に連れて来たせいで忘れていたけど、そう、私は最初は死ぬ予定だったんだった。
 本当の目的は何かは知らないけど、暁光さんの行動は私にとって良い物とは思えない。
 それに、今目の前にいるのが何なのかは分からないけど、でも別に殺そうとしてくる気配は無い。
 唯ジッと私の足に付けられている枷を見ている。

 何をするのかと見続けていると、枷に付いている鎖を引き千切った。

「え?」

 引き千切った直後、私に近付いて私を抱きかかえ、そのまま外に出た。

「ど、何処に行くんですか?」

 聞いても何も答えてくれなかった。そもそも私の声は聞こえているのかが不安になってきた。
 別に良かったのに、何だろう、行っちゃいけない気がする。
 私は自分の手を強く握りしめた。
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