朝餉添えの贄

琴里 美海

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第壱拾参話

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 食べられる。
 痛みが来る。
 それを覚悟して私は目を閉じた。
 だけど私の指に、指先に訪れた感覚は決して痛み等ではなく、寧ろ少しくすぐったかった。
 恐る恐る目を開くと、その人は悪戯をする様な笑顔で、私の指先を甘噛みしていた。それも歯が少し触れる程度の優しい物だった。


「あ、あの。」
「ふ、ふふふふふ!」

 その人は私の指からそっと口を離して笑った。

「そなたの反応が面白くて、ついついからかってしまった、済まぬのう。」
「え、えっと……………」
「妾は鶴と申す。此処には数日前に訪れてしばし休息を取っていたのじゃ。そなたは名は何と申す?」
「あ、えっと、私は氷柱です。」

 私の名前を聞くと、少しだけ驚いた顔をした。

「そうか、そなたが氷柱か。」
「?」
「そなたの事は常々暁光から聞いておった。」
「私?」

 でも常々ってどう言う事?私は暁光さんとはつい先日会ったのに、どうして常々なんて言ったの?
 私がそんな事を考えていると鶴さんは首を傾げた。

「どうかしたのかえ?」
「私、暁光さんとはつい先日会ったんです。」
「……………まぁそうであろうな。」

 如何して皆最初っから私が暁光さんの事を知っているみたいに話をするの?

「まぁ此処に居続けても仕方が無いから、妾が暁光の所まで送ってやろう。」
「え、良いんですか?」
「幼子一人背負って飛べぬ程やわな鳥ではないわ。」

 そう言って私を背に負ぶってくれると、そのまま社の外に出た。
 鶴さんの腕が翼になると、腕を大きく振って空を飛んだ。青い空に真っ白い羽。

「綺麗…………」
「そう言ってもらえるのは、やはり嬉しいのう。」

 風を切って空を進む。風が頬に触れる。とても心地良い。
 景色が一気に後ろに過ぎて行く。不思議な感覚に襲われる。

「あの、暁光さんって…………」
「何じゃ、暁光の事が聞きたいのかえ?」
「あ、はい。」

 何となく、この綺麗な青い空を見ていると何となく暁光さんを思い出す。だから鶴さんに暁光さんの事を聞こうと思った。

「暁光はのう、実に一途な男じゃ。」
「一途?」
「一度愛した者をずっと愛し続ける。じゃがあやつは実に不器用な男じゃ。」
「不器用………………」
「例えば監禁したりとかじゃな。」
「!!」

 監禁って、私思いっ切り暁光さんにそれをされていたんですが。
 思えば暁光さんが私に対して怒鳴り声を上げた時、決まって私に何かがあった時だった気がする。暁光さんに黙って外に出た時、私が鴉さんと会った時。
 暁光さんは私の事が本当に大切なの?

「少なくとも暁光はあんたに死んでほしくないから此処に連れて来たって事は頭に入れといた方が良いからな。」

(鳩さんが言った事、本当だったのかな。)

 それでも監禁は流石にちょっとやり過ぎな気が。

「ほれ、暁光の家が見えたぞ。」
「あ。」

 鶴さんから少し身を乗り出して下を見ると、暁光さんの住んでいる家が見え、暁光さんが大きな声で私の名前を呼んで探していた。その顔は怒りではなく、本当に焦っている様子だった。
 鶴さんが暁光さんの前に降りると、暁光さんは少しだけ驚いた顔をしてから私を見た。その瞬間凄まじい怒りの形相に変わった。

「鶴!!!」

 暁光さんが鶴さんに掴み掛かると、鶴さんはひらりと体を返して避けた。

「全く、血気盛んで、すぐに周りが見えなくなる所は何時まで経っても変わらんのう。」
「煩ェ!!!手前ェ氷柱に何してんだよ!!!」
「あ、暁光さ…………」
「何したとは失礼じゃのう、連れ去られていたのを助けただけじゃぞ?」

 鶴さんの言葉に暁光さんの表情が少しだけ緩んだ。

「本当か?」

 私の方を見て暁光さんがそう聞いて来ると、私は大きく頷いた。

「ほれ、足の骨が折れておるから、早い所診たいのじゃ。あがっても良いかえ?」

 それを聞いて暁光さんは凄い驚いた顔をして私を見た。

「お前それ本当か!!?」
「嘘を吐いてどうするのじゃ。ほれ、早く治してやるから家に入れてくれるかえ?」
「おう。」

 暁光さんが家の中に入ると、鶴さんはその後ろに付いて行った。
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