炎陽の下吹く恵風

第弐拾四話

　子供を育てる事に問題は無い。だって他にも子供がいるのだから。だけど人間の場合、多少話が変わっている。だから最初の方は色々と苦労をした。だけど分かってくれば後は早い。対処法を考えて実行するだけ。
　それにしても、濤はまだあの人間の所に行っているのか。

　木の所に居た人間は、実はまだ生きている。

　如何やらあそこに行く途中で誰かに襲われ、結果として瀕死の状態であそこで倒れていたらしい。全て濤が言っていた事だけれど。
　濤や他の動物達、それに濤の知り合いの妖怪が看病をし、結果として一命を取り留めたらしい。まぁそこから先は私の知らない事だけど。
　それにしても、人間の子供の成長と言うのは随分と遅いのね、他の子達は既に一人で出歩いて、簡単な狩りなら出来るようになったのに、この子はやっと一人で動けるようになったくらいだもの。まるで私達だけ違う時間を生きているような感覚ね。
　恵風はこれとは逆の感覚なのかしら。
　さて、そんな事は如何でも良いかしら。

　一つ、二つと季節は過ぎ、この子もやっと歩けるようになった。そうなったら今度は如何しましょうか。自分で食べ物が取れるようになってもらわないと、いざ私や濤が居なくなったら死んでしまうでしょう。だからまずはそこから教えないと。
　それにしてもこの子は体を使う事が上手いのね。だから教えたら二回や三回くらいで覚えてしまう。あぁ何でかしらね、やっぱり人間は嫌いだけれど、この子は最初から人間としてそんなに接していないから、普通に自分の子のように感じる。

（なぁ母さん。）
（何?）

　最近じゃこうして会話が出来るくらいに成長したもの。それにこの子に兄達と比べて、随分と器用で、大抵の事はこなしてしまう。それに人間だからと言うのもあるけど、私達狼には出来ない事も出来る。そうね、例えば木登りとかかしら。それに前足を地面に付けないで、二足だけであるいたり、他にも色々。

（父さんの帰りが遅いと思うんだ。）

　そう言われて外を見た。もうすぐ夕暮れ。確かに普段ならもうこの時間には帰って来ている。そう考えると今日は遅い。

（探しに行きましょうか。）

　私は立ち上がって外に出ると、この子もその後ろを付いて来た。