黎明の天泣

琴里 美海

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第九話

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 本格的な冬が訪れた。空気はまるで刺す様に冷たく、昔の私はよくこんな中薄着一枚で生きていたなと感心すらする。
 寒いけれど、今は一人じゃないから心は暖かい。
 私はぼんやりと窓の外を眺めていた。すると遠くの方から女の人が歩いて来るのが見えた。

(誰だろう。)

 とっても綺麗な女の人。だけど何だろうこの感じ、凄く嫌な感じがする。昔はそんな事全然分からなかったのに、暁光さん達と一緒にいる様になってからそう言うのが分かる様になってきた。
 女の人は玄関の方へ歩いて行って戸を叩いた。

「暁光様、いらっしゃいますか?」

 その声が聞こえてから暁光さんの大きな溜め息と、歩いて行く足音が聞こえた。そんな暁光さんの後ろを気付かれない様に付いて行った。

「白鳥か、何の用だ。」
「何の用なんてそんな、何時も言っているじゃありませんか。」

 白鳥と呼ばれた女の人がそう言うと、暁光さんは大きく溜め息を吐いた。

「いっつも断ってんだろ。」
「そう言わないでくださいな。私、諦めませんからね。何度言われても私が暁光様をお慕いしている気持ちには変わりません。」

 その言葉を聞いて私は首を傾げた。えっと、お慕いしているって、確か尊敬の念や恋心の意味合いで使われる筈。と言う事はまさか。

「兎に角今日はもう帰れ。」

 キッパリと暁光さんがそう言い切ると、白鳥さんは少し残念そうな顔をしてから一礼して帰って行った。その後ろ姿を見て私は何故か少し安心した。

「あ。」

 暁光さんが戻って来た事に気が付かず、見事に発見されてしまった。

「暁光さん。」
「今の聞いてたのか?」

 下手に嘘を吐いてもすぐに気付かれるだろうし、それに嘘吐いたら暁光さんにささやかなお仕置きされるので正直に言う事にした。因みに唯こちょこちょされるだけです。
 私が頷くと暁光さんは少し困った様子だった。

「いや、まぁ別に良いんだけどよ。」
「あの、さっきの人は一体……………」
「一応俺の知り合い、って言いたくない知り合いだけど。あいつは白鳥ってんだ。」

 それは先程聞こえていたので分かります。
 暁光さん曰く、結構前に出会った人らしいのですが、あんまり仲は良くないらしいです。あ、でもそれはさっき見た感じで分かります。暁光さんの態度が凄く冷たかったので、見た感じでもう分かります。
 そう言えば今まで会った事が無かったけど、白鳥さんも何かしていて忙しいのかな。

「……………雀に伝えるか。」
「どうして雀さんに?」
「ま、細かい事は雀本人に聞け。人の事勝手に話すってのも流石に気が引けるからな。」

 確かに、そう言われてみればそうですね。
 でも、更に一つ気が付いた事は、私は雀さんの事を殆ど何も知らない。人ではない事、名前の通りその本来の姿が雀と言う鳥であると言う事。情報屋をしていて、何時も楽しそうにしていると言う事。本当に私の知っている事はそれくらい。
 勿論雀さんの事を知りたいとは思う。だけど何も知らないのに質問をして、聞かれたく兄事を聞いてしまったら、きっと雀さんの気を悪くしてしまう。流石に其れは避けたい。
 暁光さんが家の奥へ戻って行くと、私は自分の部屋に戻った。

 雀さんは今日はまだ来ていない。普段なら早く来ないかなと思うけれど、暁光さんの「雀に伝えるか。」と言う言葉を聞くと、あまり来ない方が良いのかもしれないと思ってしまう。
 ぼんやりとしていると窓の縁にちょこんと一羽の雀が停まった。
 私はそっと近づいて手を伸ばすと、私の手に乗ってくれた。どうやら私の知っている雀さんとは違う雀らしいです。だけど小さな鳥はやっぱり可愛くて、私は自然と和んで笑ってしまった。

「可愛い。」

 頭を撫でると私の指に頭をすり付けて来た。うん、やっぱり可愛い。
 ピクリと窓の外を見ると、私も窓を見た。其処にはまた別の雀が停まっていた。
 羽をはばたかせて飛んで行くと、二羽とも飛んで行ってしまった。

「行っちゃった。」

 少し寂しいなと思いつつも、楽しそうに飛んで行った二羽を思い出して微笑ましく思った。どうかこれからもお幸せに。

「氷柱さーん!!来たっす!!」

 雀さんが窓から入って来ると、私はすぐに雀さんの方を見た。

「あ、雀さん、こんにちは。」
「こんにちはっす。」

 雀さんの声を聞いてなのか暁光さんが私の部屋に入って来た。何時も通りの雰囲気じゃ無く、とても緊張感のある表情に雀さんは後退りをした。

「ぎょ、暁光?どうしたっすか?」
「ちょっとこっち来い。」

 そう言って暁光さんは手招きをすると、雀さんは警戒しながらも暁光さんと一緒に部屋を出て行った。
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